「ここに足かけて」

 

「え?井上君、手痛くなるよ」

 

「大丈夫。いいから、早く。ここでまた見つかっても困るから」

 

井上君にせかされて

 

「・・・ごめんね」

 

陽が足をかけた。

 

「じゃ、次に、その取っ手に足をかけて。あ、ちゃんと門をつかんでるんだよ」

 

陽がこわごわと、門の取っ手に足をかけて行く。

 

「そしたら体を横にして。それから足を向こう側へおろす。・・・そう。そしたら

 

翔が支えてくれるから。大丈夫だ」

 

陽が、指示どおりにそろそろと門を渡って行く。

 

「よし、いいぞ。翔!いいか、ちゃんと受け止めろよ!」

 

「わかったよ~」

 

翔ののんびりした声が聞こえてきて、井上君はほっとした表情で

 

「じゃあ、行って。大丈夫だから」

 

陽が頷いてるのが暗闇で見える。そしてふいっと陽の姿が消えた。

 

しばらくして

 

「おしっ。受け止めたぞ」

 

翔の声が聞こえる。

 

井上君は、冬子を呼び寄せると

 

「いいか、今度は冬子だ。大丈夫。佐々木も行けただろ?怖くはないから。

 

向こうには佐々木も翔もいるからな。俺は・・・後から行くから」

 

「い・・・・のうえ君」

 

「・・・祥太郎だよ」

 

井上君は冬子の額に唇を付けるとギュッと抱きしめて、

 

「さ、ここに足をかけて」

 

とまた手を組んで差し出した。

 

「・・・しょ・・うたろう・・」

 

「そうだ、いい子だね。すぐ・・行くから」

 

その声に励まされたのか、冬子の足が井上君の手にかかった。

 

「今から、冬子が行くからな。翔、受け止めてくれよ!!」

 

むこうから、

 

「お~」

 

またのんびりした声が聞こえた。

 

「冬子、怖くないからね。早くおいで」

 

陽も呼び掛ける。

 

「いいか、次は取っ手に足をかけるんだ」

 

門を掴む冬子の手が汗ばんだ。

 

何しろ高いところが大の苦手なのだ。

 

「横になって!」

 

井上君の指示が飛ぶ。

 

「いいか、そしたら、もう翔が手を出してくれてるから安心して足をおろせ」

 

そんなこと言ったって・・・。

 

すると

 

「いいか!!今だけは、痴漢とかH!とか言うなよ!」

 

翔の声が聞こえてきて、それから冬子の足首を手が掴んだ。

 

「俺だ。俺が掴んでる。そのまま降りてこい」

 

またも翔の声が聞こえた。少しづつ下へ下がって行く。

 

やがて、完全に翔の手が冬子の胴体を掴んだ。

 

「降りたぞ。櫻井こっちにきたから、大丈夫だ!」

 

そのまま、手を離してやる。

 

冬子の足は向こう側に着いた。

 

「さ、こっちへ」

 

翔が冬子と陽を少し離れたところに誘導した。