お母さんは台所へ行ったと思うと、5分ほどで紙包みを持って現れた。
「あなた、これ車で食べて。おにぎりだけど・・・みんなの分入ってるわ」
「おお、そうか」
すると、コートを着て出てきた遥奈が
「何気取ってるの?いつもみたいに『祥太郎』って呼べばいいのに」
と茶化した。
「遥奈っ!」
お母さんが真っ赤になったが、冬子と井上君は何故か笑う気になれなかった。
「じゃ・・・俺も帰ります。お邪魔しました」
諒も立ち上がる。
「あら・・・じゃあ、諒も一緒に行こうよ」
「いいよ、いやだよ」
「何よ~行こうよ」
結局諒も押し切られたように助手席に座り、後部座席に遥奈と冬子、井上君が座る。
お母さんが慌てておにぎりを二個追加してくれた。
まだ、暖かそうに湯気が立っている。
「すみません・・・お世話になりました」
井上君が窓を開けてお母さんに挨拶をしたので、冬子も倣う。
「いいえ、気をつけてね」
「・・・もう、迷子になるなよ」
光が生意気な口を聞いた。
「じゃ、行ってくる」
お父さんがエンジンをかけて、車はなめらかに滑り出した。
「S市と言うと・・・そこから高速に乗ればすぐだから。それにしても、散歩してる
うちにこんなとこまで来ちゃうなんてねえ」
市道に出るとお父さんはハンドルを握りながら、口を開いた。
そして
「ああ、暖かいうちに食べなさい」
遥奈がお父さんの分と諒の分を前に渡し、残りの6個を自分と冬子と井上君に分けて
くれた。
「頂きます」
湯気の立った暖かいおにぎりを口に入れる。
・・・と、遥奈のポケットから何か音がした。
「・・・電話だ。誰からだろう」
「遥奈!」
お父さんにたしなめられたが、遥奈は
「だって、急用かもしれないでしょ?」
と言って
「もしもし・・・・」
電話に出た。