「・・・ごめん!怪しいものじゃない」

 

こう言って誰が信じるだろう。

 

案の定、男の子の方が

 

「誰だ?お前」

 

と身構えた。

 

「い・・や、だから怪しいものじゃないって・・」

 

井上君がしどろもどろになると、向こうの男の子は

 

「信用できるか。・・・・遥奈、下がってろ」

 

そう言うと、ボクシングのポーズを取って身構える。

 

「待て!ホントに怪しいものじゃない。・・・教えてほしいんだ!」

 

先に殴られちゃたまらない、とでも思ったのか、井上君は大きな声で叫んだ。

 

遥奈、と呼ばれた女の子が男の子を制している。

 

「・・・何をだよ」

 

男の子はボクシングポーズをやめると、ぶっきらぼうに聞き返した。

 

「いや・・・あのう・・」

 

井上君が口ごもっていると、ようやく追いついた冬子は

 

「あの・・・ここ・・・って霞町ってどこかしら」

 

とストレートに聞いた。

 

「え?」

 

女の子がびっくりして聞いてきた。

 

「いえ、あのね。二人で散歩してたの。そしたら知らず知らずのうちに見慣れない

 

ところに来ちゃって。帰り途が分からなくなっちゃったのよ。地図か交番を探して

 

いるんだけど」

 

こう言う時は素直に手の内をばらした方が得なのだ。

 

それをきくと男の子はぷっと吹きだして

 

「ばかじゃないの?お前ら。迷子になるなんて」

 

とからかったが

 

「ここは、N市霞町だよ。お前たちどこから来たんだ?」

 

とすんなり教えてくれた。

 

「N市?」

 

思わず冬子と井上君は叫びそうになるのを必死で抑えて、顔を見合わせた。

 

「・・・・S市」

 

冬子がつぶやくと

 

「S市~?そこってこっからかなり遠いぞ」

 

今度は男の子が驚く。

 

まさか一瞬でN市まで来たとは言えない。

 

「この辺、交番もないのよ」

 

遥奈と呼ばれていた女の子が言った。