陽は

 

「も、いいよね。冬子」

 

え・・・何が?

 

聞く間もなく、

 

「もぉ、鈍感なんだから、翔は。冬子はね、井上君が好きなの。ずっと片思いだった

 

井上君がさ、目の前にいて喋って、しかも冬子の額に手を当てたんだよ、おかしくも

 

なるでしょうが」

 

・・・最後の「おかしくもなる」は余計だったが、冬子は顔を更に真っ赤にしてこく

 

こくこく・・・と頷いた。

 

「・・・なんだ、そうだったのか?」

 

翔はニヤッと笑うと

 

「でも・・・井上、付き合ってるやつ居るぜ」

 

うそ・・・たった1分で失恋?今度は一気に真っ青になる。

 

「おい、いつのこと言ってるんだよ。俺今フリーだぜ」

 

井上君がのんびりとした声を出す。

 

「えっ?だって・・・お前」

 

「だからいつのことだよ。俺、手紙もらったことはあるけど付きあった子はいない

 

ぜ」

 

どういうことどういうこと・・・・?

 

固唾を飲んで成り行きを見守っていると

 

「井上君、冬子どう思う?」

 

ひっ・・・陽あ~。空気読めよ。

 

でもそのストレートさがよかったのか、井上君はにこっと笑って、

 

「面白い子だなって思うよ」

 

と、褒め言葉なのかどうなのか分からない答えを言った。

 

「冬子と付き合ってくれる?」

 

陽はどこまでも大胆だった。まさかそこまでは、うんとは言わないでしょう。

 

そしたら気まずいじゃない・・・。

 

でも井上君はあっさりと

 

「うん。いいよ」

 

と言って、私はもう一度気絶しそうになった。

 

ホントに?ホントに?ホントに?ホントに????

 

うっそ~神様あ。私もう、このまま死んでもいいですぅ・・・・ってそれは悲しい

 

けど。

 

またも真っ赤になったり真っ青になったり信号機の様になった冬子を、井上君は

 

笑って

 

「よろしく」

 

と、右手を差し出してくれた。

 

硬いけど決して冷たくはない、大きな手だった。