・・何が入ってたんだっけ。まず考える。

 

ここの押し入れのものは殆ど使わないものが入っているはずだ。

 

納戸に入りきらないものとかも結構入ってるんだろうな。何しろ、ここは「和室」と

 

いう名前の納戸2号みたいなものだ。床の間の部分はカーテンで隠してあるが、

 

立派な床の間なのにカラーボックスをいくつか置いて日常品が置いてある。

 

その中身は多種多様でトイレットペーパーのストックから、貰い物の余ってるうち

 

わ、引き出物の食器も箱ごとおいてあったりした。普段はカーテンで隠してあるから

 

いいのだ。

 

一応納戸2号になってるけど、床の間以外は置かないようにしている。

 

一度置きだしたら・・際限なく物を置きそうになるので、そこは自粛しているのだ。

 

物をこの際減らせばいいのよねえ。そう言いながら日々に追われて何もしてないのが

 

現状だった。

 

まず、全部出すか・・・押入れの下段に頭を突っ込み、古ぼけた段ボールを次々に

 

畳の上に出して行った。

 

出てくる出てくる・・・・。こんなに入ってたのか、というほど次から次へと

 

段ボールやらプラスチックケースやら・・・。

 

これじゃ今日中に片付くのかしら。でも出してしまった以上、引っ込みは付かない。

 

とにかくここまでやったんだ。残りも出しちゃおう、そう思って次の荷物に手を伸ば

 

して・・・。

 

「なんだ、こんなところにあったんだ」

 

冬子は思わず声を出した。奥の方に鎮座していた大きな入れ物。

 

もうすっかり日に焼けた「遥奈」と「光」という紙が貼ってあるプラスチックケー

 

ス。

 

ここには二人の子供の思い出の品物が詰まっている。

 

産着、初めて履いた靴、描いた絵、幼稚園の連絡帳など。何枚か衣類も入れたはずだ

 

った。

 

二人が大きくなったら渡してやろうと、少しづつ成長の記録を溜めている。

 

遥奈と光は、冬子と祥太郎の子供だ。

 

可愛い、なんて言ってたのはいつのころだろうという感じで、まだ5歳の光はともか

 

く、遥奈は反抗期なのか、なんだかんだと母親に突っかかって来る。

 

私もでも、あの頃は母親とか疎ましかったもんね。

 

今感じる寂しさを理解できて、お母さんもこんな気持だったんだ、とちょっと心の中

 

で謝ってみて、そのプラスチックケースを引っ張りだす。

 

光のはまだ入ってる物が少ないが、遥奈のものは色々入ってもう結構重くなってい

 

る。

 

やっとの思いでそのケースを引っ張りだすと、冬子は更に奥に一つの段ボールがある

 

のを見つけた。これはなんだ?

 

よいしょ・・・這いながら押入れの奥まで行くと、その段ボールを引っ張る。

 

何か書いてあるけれどなんだろう。出さなきゃ読めないや。

 

何が入ってるのか、これも結構重い。ずるずる引きずりながらようやく段ボールも

 

殆ど引っ越し以来日の目を見た。

 

「冬子中学三年生」

 

あら、私のだわ。当時の私の字だ。まあ、お久しぶり・・・。

 

白い紙を細長く切って貼りつけてあったのだがもう、セロテープは古くなり、粘着力

 

など無くなっている。

 

あの頃流行ったキラキラペンだ。もうすっかり色は褪せてるが、あの頃学校で流行っ

 

て私も買って貰ったっけ。。。

 

でも、なに入れたんだろう、こんなに重いなんて。

 

約30年前の・・・正確には25年前だが・・・私が詰まった箱。

 

一体何が入れてあるんだろう。

 

心の中で天使が、「んなもん、見たら今日中に片付かないわよ」と囁いてくれるが

 

「ごめんね」とそいつを蹴飛ばして、段ボールを停めているガムテープをそっと

 

剥がした。