時空旅行 ~spacetime Traveler~

 

 

新築の一戸建ても16年も住んでいれば、あちこちガタが出てくるものだ。

 

あの時は可愛い門柱だったのにねえ。

 

白く塗られたアーチ型の門柱。これに一目惚れしたと言っても過言ではないくらい

 

当時は可愛く見えたのだ。

 

冬子(とうこ)は、和室の窓から見える、ちょっと色あせた門柱を見てため息をついた。

 

今度の日曜にでもパパにペンキ塗ってもらおうかしら。そしたら久しぶりに何か花

 

でも植えて少し華やかにして・・・・。

 

・・って言っても日曜は眠い、疲れたって言って一日中ごろごろしているんだけど、

 

少しは起こして家の中のことも手伝ってもらわなきゃね。

 

恋愛結婚も16年も経ってしまうと、あの頃の情熱なんてどこへやら・・・である。

 

もちろん、中には何十年経ってもラブラブって言う夫婦もいるみたいだけど。

 

私だって・・・パパが・・・あの人が好きで好きで仕方なかったんだけどねえ。

 

「井上祥太郎」・・・その名前をつぶやくだけで胸がキュンってなったものだ。

 

なのに、今、こうして井上の姓を名乗るようになっちゃうと忘れちゃうものなのかし

 

ら。

 

初心忘れるべからずとか言ってる割には、当人は忘れちゃうものなのだ。

 

あの頃、「祥太郎」「冬子」と呼び合った二人は今や「パパ」と「ママ」だ。

 

色気もなにもありゃしない。

 

といっても今さらねえ。

 

子供も大きくなってもうそんなふうに名前で呼ぶなんて気恥かしい。

 

どこの夫婦も大体こんなものよね、きっと。

 

・・・なんてノスタルジーに浸っては居られない。冬子は視線を自分の家の和室に

 

戻した。今日はこの押入れを整理しなきゃいけないのだ。

 

自分の母親が久しぶりに我が家へ来る。ここ何年も母が来ることなんて、しかも泊る

 

なんてことはなかったので、客用の布団は納戸に突っ込んであった。

 

客用の布団なんてめったに使わないのにやたらかさばるんだよね。

 

子供たちの友達も泊りに来るけど、最近は寝袋持参で来る。布団は使わない。

 

最初は目が点になったが、慣れてしまえばいちいち布団を敷いたり干したりしなく

 

って済むから楽だ。相手の家にも気を使わせなくて済むしと、子供たちにも早速寝袋

 

を購入した。

 

だけど、いかんせん70近い親を寝袋で寝かすわけにはいかないだろう。キャンプだっ

 

たら別だろうけど。

 

そんなわけで今日はこの和室の物を片付けて、押入れの物を整理して客用布団を入れ

 

るスペースを作らなくてはいけないのだった。

 

客用布団は納戸から出して、今、暖かなお日様の光を充分に浴びている。

 

取り込む頃はふかふかになってるはずだ。

 

さて、やっちゃおうか。

 

冬子は押入れの引き戸を丁寧に外すと窓際に置き、その前に座り込んだ。