私は覗き穴から誰もいないことを確かめて、えりさはかなとに任せてキッチンに

 

入った。

 

冷蔵庫から牛乳を出してカップに注ぐと、レンジで熱くしてはちみつをたっぷり垂ら

 

した。

 

かなとには、コーヒーを淹れる。時間がないからインスタントだけど。

 

「かなと、えりさをリビングに」

 

声をかけると、かなとがえりさを抱きかかえるようにして部屋に入ってきた。

 

「ほら、えりさ、ホットミルク入れたから飲みなさい」

 

えりさの前に置いてやる。

 

「かなとはコーヒーね」

 

自分の分とカップを置いて、私もソファに座った。えりさがカップを両手で包み込む

 

ようにして、息を吹きかけてそっと飲む。かなり熱くしてあるから、飲むのには息を

 

吹きかけて冷まさなくちゃいけない。

 

しばらく息を慎重に吹きかけてそっと飲む・・・という動作を繰り返していくと、

 

えりさも落ち着いてきたようだ。

 

ホットミルクを半分ほど飲んで、えりさはカップをそっと置いた。

 

「・・・ありがとう、ありすちゃん」

 

「落ち着いた?」

 

「うん」

 

えりさはにっこり笑った。

 

「一体なにがあったんだ?」

 

「・・・わからない」

 

「わからない?」

 

うん・・・・えりさは、下を向くと、ぽつぽつと話し出した。

 

「・・・じゃあ、下校途中に誰かに、連れて行かれそうになったのね?」

 

えりさが深く頷く。

 

「いきなりで怖くて、お兄ちゃんやありすちゃんに呼びかけるの忘れてた」

 

忘れてた?私とかなとはお互いに顔を見合わせて

 

「おいおい、忘れてたのかよ」

 

かなとが吹き出した。こんな時なのに・・・・って私も笑っちゃったけど。

 

「無事でよかったよ、でも、俺たちのこと思い出したんだな?」

 

かなとがえりさの頭を撫でる。

 

「うん・・・隙を見て、逃げたの。で、走ってる時に、助けてほしいって思って

 

その時に・・・」

 

「まあ、ともかく助かったんだものね、よかったわよ。でも、一体誰なのかしら、

 

えりさを誘拐しようとした人は」

 

「ああ。えりさが逃げた時、追いかけてきたのか?」

 

えりさは、一瞬空を見ると、それから首を横に振った。

 

「・・・ううん、追いかけてきた感じはなかったかも・・・」

 

私たちはまた顔を見合わせた。

 

「追いかけてこなかった?どういうことだろう」

 

「あきらめたのかしら」

 

「それにしちゃ・・・なんかあまりにも・・・」

 

「とりあえず、しばらくは用心した方がいいかもしれないな」

 

「そうね。しばらくはえりさ、私が迎えに行くから一緒に帰ろう」

 

「うん、その方がいいな」

 

「大丈夫だから。お兄ちゃんとお姉ちゃんが付いてるからね」

 

私はえりさを抱きしめた。