パパ・・・あまりにタイミング悪すぎるよ。でもまあ、ここはあるとに任せて

 

おこう。

 

私はまたキッチンの中に戻って、黙って落ちたケーキを片付け始めた。

 

ママに向かってウィンクすると

 

「さ、えりさ。冷蔵庫にフルーツが入ってるから出してちょうだい」

 

ママはわかったようで、床のケーキの掃除は私に任せてえりさの肩を抱いた。

 

えりさも袖で涙をふくと、気を取り直して新しいケーキを作り始めた。

 

「なんでも多めに作っておいてよかったわ」

 

私は冷蔵庫に冷やしておいたゼリーを取り出した。さっきのはアップルゼリーで

 

白っぽかったけど、今度はブドウのゼリー。全体にワインレッドでさっきとまた

 

違った雰囲気を出してくれるだろう。

 

ゼリーをどのくらい作っておくかという話になった時に、余ったらりうのおやつに

 

なると言って多めに作っておいたのだ。

 

「はい、えりさ。ここに置くわよ」

 

ブドウゼリーを三個、キッチン台の上に置く。

 

えりさはメロンとイチゴを切って並べている。忙しそうだ。

 

私はえりさの横に立つと、ゼリーをカップからボウルに開けてスプーンで砕いて

 

行った。

 

お店のケーキのようにきれいには砕けない。でもそれもまた味があっていいもんだ。

 

「・・・ありがと」

 

えりさがフルーツをまたきれいに盛り付けて行き、ボウルのゼリーを取った。

 

スプーンで少しづつ盛っていく。うん、今度はちょっと大人っぽい感じに仕上がっ

 

た。

 

「パパは悪気があったわけじゃないよ、許してあげなね」

 

そっと声をかけると

 

「・・・大丈夫だよ。あのときはちょっとショックだったけど、ママもありすちゃん

 

もいるし、手伝ってくれるし、やっぱりスポンジ多めに作っておいて正解だったね」

 

えりさも大人になったもんだ。

 

二つともケーキに飾り付けして今度は、より慎重に運ぶ。

 

テーブルの上に置くと、

 

「おお、上手にできたな」

 

かなとがえりさの頭を撫でた。

 

「・・・パパ」

 

えりさが声をかけた。パパが、顔を上げる。

 

「えりさ・・・・」

 

パパはそうつぶやくと

 

「ごめんな・・・・」

 

えりさの頭を撫でた。

 

「・・・いいよ。平気。怒ってもいないよ」

 

「えりさ・・・・」

 

「それでこそ、パパだよね」

 

「おい、どういう意味だよ」

 

パパは泣き笑いのような顔で、えりさの頭を撫でた。

 

「いつも、なにかしら余計なことをしでかしてくれるってことよ」

 

ママがキッチンから出てきて言った。

 

「おいおい、悪気はなかったんだよ」

 

「分かってるわよ、パパ」

 

私も、同意した。

 

「私は・・・子供のお前たちがかわいいんだ、好きなんだ・・・」

 

パパが照れ臭そうにそっぽを向きながら呟くと

 

「・・・いつも裏目に出ちゃうけどな」

 

と付け加えた。

 

「俺たちだってだよ、パパ。頼りなくたって、情けなくたってパパはパパだ。俺たち

 

のパパなんだからな、これからもヴラド家の長でいて貰わないと」

 

「かなと・・・・」

 

パパは感極まってかなとに抱きつこうとした。

 

「おっと調子に乗られても困るんだ。・・・というわけだから、まあ、父親として

 

頑張ってくれよ、パパ」

 

かなとがちょっと照れ臭そうに笑った。

 

「だから私もあなたとは離れられないのよ、子供たちがこんなあなたのこと、好

 

きだっていうんですものね、仕方ないわ」

 

ママは肩をすくめた。

 

「なんだよ・・・仕方ないって」

 

パパがクサって、私たちは大笑いした。

 

ピンポーン。

 

「あ、ほらお客さんが来たようだぜ」

 

あるとがえりさの背中を押す。

 

えりさはエプロンを外すと、玄関に走って行った。

 

ともかくヴラド家は平和なようだ。

 

 

 

                               5話完