・・・・大澤遼子だ!いつの間にここに来たんだろう。

 

さっきまではいなかったはずだ。周りに誰もいなくなると、大澤遼子はかなとの腕に

 

手を回してきた。やっぱりかなとは、怖がってたとかいうけど、大澤遼子を好きに

 

なり始めたのかしら・・・。

 

好きになったのなら・・・それはそれでも構わない。

 

ただ・・・普通に付き合う分にはいいんだけど・・・・もし・・もし・・・。

 

私は、歩きだした二人の後をそっとつけた。二人は、駅の方に向かって歩き始めた

 

けれど、すぐあった脇道に折れた。

 

その道がどこに通じるのかは分からないけど、数人の生徒が歩いているので、つけ

 

やすい。

 

脇道に入ってすぐ、また折れる。どうやらちょっとだけ、まっすぐに行くより駅に

 

近いようだ。

 

かなとと大澤遼子はいつの間にあんなに親密になったんだろう。傍から見ている分に

 

はどう見ても恋人同士だ。

 

お願い、かなと!!早まったことしないでよ。

 

ふいに風が吹いて大澤遼子の髪の毛がさらっと流れた。慌てて、髪の毛を押さえる。

 

一瞬、彼女の白い首筋があらわになった。

 

・・・・・マズイ!そう思った瞬間、かなとが何やら大澤遼子に話しかけた。何を

 

話しているかは分からない。でも、かなとはまさに彼女の首筋に唇をつけようとして

 

いた。

 

いけない!!私は駈け出した。

 

鋭くとがった小さな牙がすっと出てきている。

 

「かなと!」

 

いきなり名前を呼ばれて、かなとがこっちを見た。

 

「ありす!」

 

大澤遼子は明らかに不審そうに

 

「誰・・・?この子」

 

と髪の毛をおろして聞いた。

 

かなとは、一瞬ためらったが

 

「ああ、ごめん、妹なんだ」と、認めた。

 

「え?だって、かなとって呼び捨てしてるじゃない」

 

大澤遼子は信用してなさそうだ。当然だろうけど。

 

かなとはため息をつくと

 

「だから日ごろから、兄さんって呼べって言ってるだろう?」

 

と渋い顔をした。・・・仕方ない。

 

「ごめんなさい、かなと兄さん。あの、ごめんなさい、私正真正銘の妹です、長郷

 

ありすっていいます。今日は学校が開校記念日なので、兄たちがどんな学校に居るの

 

か見に来たんです」

 

そう説明して、

 

「ごめんなさい、お邪魔しちゃって」

 

舌を出した。

 

「兄さん、どのくらいに帰る?ママが用事あったみたいよ」

 

・・・・ウソも方便。

 

「ああ、あまり遅くならないうちに帰るよ」

 

「わかった、じゃあね」

 

これ以上は引っ張れない。潔く退散。

 

私は駅の方へ・・・・つまり他の生徒について歩くことにし、二人に向かって手を

 

振った。

 

参ったなあ。でもチャチャが入ったし、これでもうかなとは彼女の血を吸うことは

 

しないだろう。とりあえず帰っても大丈夫そうだ。

 

さらにもう一つ道を折れると・・・・・ホントだ。こっち近いや。すぐ目の前に駅が

 

あった。

 

あとはもうかなとを信じよう。あそこで声をかけたのだ。もう多分無茶はしない

 

だろう・・・・と思いたい。