「じゃあ、よろしくお願いします」
尚人がそう言って玄関に向かった。
「ああ、ことがことだけに『任せとけ』とは言えないけども、出来るだけ力に
なれるよう、頑張るよ。家にはこいつが居るから、買い物の時には目を光らせて
貰うようにするから」
楓がにっこり笑う。
「お願いします」
真宏が深々と頭を下げる。
真宏の心情を思うと何とも言えない気持ちに菜桜はなった。
私だって、知らない世界に行ってこんなに長いこと一人ぼっちだったら。
しかもどこに自分が来たのかもわからないんだったらどんなに辛いだろう。
それにしても美桜は一体、どこに行ってしまったんだろう。心細い思いを
そんな菜桜の心を読んだかのように
「なんであちこち行ってるんだろうな、美桜は・・・・」
と真宏がつぶやいた。
まあ、そうは言ってもいきなり知らない世界(らしい)ところに連れてこられた
のだ。不安になってあちこち行ってしまうと言うのはわからなくもない。
自分がどこに居るのかわからない恐怖、何をしたいいのかわからない恐怖。
勿論菜桜はそんな体験はしたことないが、想像もつかないけども、もしそこまで
考えると菜桜はぞくっと身を震わせた。
「ともかく、その向こうの世界の結城を早く見つけてやろう。向こうでも
きっと大騒ぎで探してるかもしれない。気を付けて帰りなさい」
玄関まで出てきた緑久保は真宏の肩を抱くと、
「こいつらは俺の教え子で自慢の生徒だ。この兄の方もそうだ。こいつらに
任せて置けば間違いない。いいか、信頼するんだぞ。一人で何とかしようなんて
思わないことだ」
その言葉に真宏がぎょっとする。勿論私たちもびっくりして緑久保を見た。
真宏が私たちに申し訳なさを感じて一人で行動しようとしたこと、尚人兄さんは
一切言ってなかったのに、なんだなんだ、緑久保って超能力者だったのか?
真宏は
「・・・はい」
と素直に頷いた。