「菜桜ちゃんの言う住所だったらこの辺・・・・かなあ・・・・」

 

何せ住宅街と言うところは住宅しかない、当然だが。

 

商店街だったら目印も色々あるけれども、住宅街では目立った目印はない。

 

しかもいい加減暗くなって来てるし、わかりにくいのは当然なんだけども。

 

「・・・ホントにあるの、緑久保の家」

 

なんて、杏子が失礼なことを言いだしたのも無理はなかった。

 

「・・・きゃあ!」

 

「どうしたの、杏子!」

 

「どうした!?」

 

そう言って杏子が顔を左に向けた時、街灯の下にぼうっと浮かび上がる人の顔が

 

見えたのだ。

 

「そ・・そこに・・・・・」

 

そこに?指さす方向を見た全員が思わず

 

「わああっ」と叫んだが、真宏が

 

「なあんだ。同じ顔だ、あれだろ、緑久保って」

 

と笑った。

 

へ?緑久保??

 

尚人が車を止めてみると、確かに薄暗い街灯の下に立ってるのは緑久保だった。

 

「み・・・先生!」

 

菜桜が思わず叫ぶ。

 

「何でここに?」

 

運転席の窓を開けて尚人が言うと

 

「いやあ、時間がどれだけかかるのか聞いてなかったんで、さっき結城の家に

 

電話して見たんだ。そしたらお母さんが出て、結城自身も行きましたって言う

 

ので、この辺ちょっとわかりにくいんで逆算して外に出てみたんだ」

 

「あ、いや、それは助かりました・・・・が・・・」

 

まさかこの季節に、こんな怖い思いをするとは思わなかった杏子が胸を

 

抑えていると

 

「この辺はちょっと入り組んでてわかりにくいからな、住所じゃまず辿りつけ

 

ない・・・って新川、大丈夫か?心臓でも悪かったか?」

 

緑久保のとんちんかんな問いに

 

「いや、先生、この場所にぼうっと立ってると怖い・・・・」

 

菜桜は正直に言った。

 

190センチもある緑久保だから、普通の身長の人なら陰にならない部分が陰になる。

 

まさに緑久保は、城の外に立つフランケンシュタインに杏子には見えたのだ。

 

「ははっは・・・フランケンシュタインにでも見えたか・・・・ま、ともかく

 

こっちだ。ああ、車はこっちに止めろ」

 

緑久保は笑うと尚人の車を手招きした。

 

誘導に従って、尚人は車を止めた。空地のようだった。

 

「今まだここは空き地だからな、駐車場が二台分無い我が家に客が来るとここに

 

止めさせてる。ここに家でも建ったら・・・・ま、その時はまた考えるさ、

 

さ、こっちだ」

 

ぞろぞろと車を降り、緑久保のあとに続く。

 

門をくぐり玄関にたどり着く。

 

「ここ・・・・?」

 

「そうだが・・・?」

 

なんか想像していた緑久保の家とは違う。何故か根拠もないが、漠然と日本家屋を

 

想像していたのだけども

 

「すごい・・・・モダンな綺麗な家・・・・・先生のイメージと違う」

 

驚く菜桜に先生は苦々しそうに

 

「そう言われるとは思ったぜ。ま、若気の至りだな」

 

暗がりの中でも綺麗に白亜の2階建ての家は浮かび上がる。

 

可愛らしい門柱には子供の好きなキャラクターの陶器の人形が飾られていて、

 

表札も漢字ではなく、ローマ字表記になっている。

 

門をくぐってすぐは庭だが、今は暗くてあまりよく見えないが、何本かの樹が

 

植えてあり、他にも色とりどりの花が咲いている。

 

ブランコが置いてあったり、小さな子供用の家が置いてあったり。

 

およそ学校でのイメージと程遠い。

 

と言っても緑久保が学校でとっつきにくい訳ではないのだが、何せ190センチも

 

あるガタイなのに専攻が音楽というところでまず想像を逸している。

 

玄関も洋風で

 

「それ以上言うなよ」

 

緑久保は笑いながら念を押すと、チャイムを鳴らした。