「それにしてももうどれくらい?1週間くらい経ってない?あの子、食事どうして

 

るんだろう、寝るところはどうしてるんだろうって思うと可哀想で・・・・」

 

「ああ…美桜のこと?」

 

思わず発した言葉に

 

「美桜?」

 

怪訝そうに杏子が聞く。ああ、そうか・・・菜桜は簡単に孝宏の家でのやり取りを

 

聞かせた。

 

「成程、孝宏に真宏、菜桜に美桜ね・・・・それはいいわ。んじゃ、早く美桜を

 

探しましょう」

 

杏子はそう言いながら

 

「もし、私もこっちの世界に来てたらなんて名前になったのかしらね」

 

と笑った。

 

タクシーで走ること15分。

 

「あ、手降ってる!運転手さん、そこで止めてください」

 

尚人の車が見えた。

 

杏子が車を止め、料金を払う。

 

孝宏と真宏が降りてくると、菜桜を両側から支える。

 

どうも・・・・料金を受け取った運転手が目を丸くする。

 

「・・・・双子かい?こりゃまたよく似てるねえ」

 

菜桜は、

 

「自慢の友達なんです」とほほ笑んだ。

 

二人に連れられて、尚人の車に移動すると

 

「そりゃあ、有難い、おまえたちのことだ、そろそろ小腹が空いてきたんだ

 

ろう」

 

尚人は菜桜が持って来たおにぎりの入ったボストンを受け取ると、孝宏に渡した。

 

さっき食べたばかりだと言うのに、炊きたてのおにぎりの香りに負けてそれぞれが

 

ひとつづつ手を伸ばすと頬張る。

 

「うまいな、おにぎりってただご飯を握っただけなのに、何でこんなに旨いん

 

だろうなあ」

 

真宏がしみじみと言うと

 

「菜桜にも早く食べさせてやりたいな・・・・」

 

と呟く。

 

菜桜は、先ほどの孝宏の家でのやりとりをもう一度真宏に伝えた。

 

「美桜か・・・・いいな、それ。早く菜桜と会わせたいよ」

 

真宏も向こうの世界での粗暴な雰囲気も消え、すっかり落ち着いている。

 

菜桜はおにぎりをかじりながら、移り行く窓の景色を見ながら思った。

 

早く美桜を見つけたいと思う反面、美桜が見つかると言うことは別れが近づくと

 

言うことなのだ。複雑な気持ちだった。

 

海外は遠い。でも海外なら行こうと思えば逢いに行ける。

 

でも、次元が違うのでは会いたいと思っても簡単には会えないのだ。

 

かと言ってこのまま美桜が見つからないのでは困る。美桜の世界では、真宏と

 

美桜を探しているはずだ。向こうにも親や友達がいるのだ。

 

複雑な気持ちだった。

 

「・・・・どうだろう」

 

尚人がおにぎりを食べ終えると言った。

 

「一通り走ったけれど美桜は見つからない、だからとりあえず孝宏たちの先生の

 

ところに行こうと思うんだ。会いにに行くと言ってあるんだし」

 

「そうだね、一応、緑久保には説明して置いた方がいいんじゃないのかなって

 

思った」

 

菜桜は、あの時緑久保に電話した時から、緑久保には真実を伝えて置いても

 

いいのではないかと思っていた。

 

探せる人数は多い方がいい、それが信頼できる人なら。

 

緑久保は信用できる・・・・と思っていた。

 

なにせ、前回私たちが真宏の次元に行ったときも緑久保は戻ってきた私たちに

 

会ってるのだ。

 

そのことを伝えると

 

「まあ、菜桜がそう思うんだったら僕は異存ないし、確かに緑久保は信じて

 

いいと思うよ」

 

孝宏の後押しもあり、じゃあ、行こう。まとまるのは早い。

 

菜桜が説明して、緑久保先生の家に向かう。

 

先生の家は際橋駅の隣の戸羽駅にあった。駅から徒歩10分。

 

駅前の賑やかな雰囲気とはかけ離れた閑静な住宅地というところだった。