軽いため息をついて携帯を見る。

 

電池が少なくなっている。充電して置いた方が良さそうだ。

 

あの時・・・・いきなり違う次元に飛んで以来、菜桜も孝宏もこまめに充電する

 

ようになった。何がいつ起きるかわからないからだ。

 

充電器は・・・・家か。ううん、孝宏の充電器借りればいいや。だって同じ

 

携帯なんだもん。

 

「・・・菜桜ちゃん」

 

電話が終わったのを見計らってか、孝宏の母が声を掛けた。

 

「はい?」

 

「・・・・・真宏って・・・誰?」

 

あはは、そこかあ。菜桜はまず、入れてくれたお茶を飲み干すと、充電器を

 

貸してくれと頼み、充電しながらファミレスでの一件を話した。

 

「・・・・まあ、あそこまで似ている双子って言うのも珍しいものね」

 

「それにお互いに『孝宏』じゃ呼びにくいと思うし、私たちも呼びにくいから。

 

ただ、もう一人の菜桜が見つかったら・・・なんて付けようかなあ」

 

ママが笑った。

 

「そうね、菜桜が生まれる時に、パパが最初に考えたのは美桜だったのよ。

 

でも、桜が美しいのは春でしょう?だから美は却下して菜にしたのよね」

 

そう言う理由か?でも、菜って言うと・・・・菜の花?あれはやっぱ春じゃ

 

ないか。

 

「ママのおばあちゃんが桜って言うのよ。日本らしくて綺麗な名前でしょう。

 

だからママは子供が生まれたら桜と言う字を使いたかったの」

 

「菜・・・は?あれも春の字じゃない」

 

「・・・・ちょうど小松菜を茹でていたのよねえ」

 

・・・・・へ?

 

私が突拍子もない顔をしたのでママはケラケラと笑うと

 

「冗談に決まってるでしょう?あの時、パパとあなたが生まれる前に行った

 

旅行先の写真が飾ってあってね、一面の菜の花畑の写真。あれを見て9月だけども

 

いいか・・・って」

 

それで・・・?結構名付けっていい加減なんだな。

 

「何を言ってるのよ。季節に依ってつけちゃいけないんだったら、綺麗な名前の

 

見つからない季節や月に生まれた子はどうするの?冬だって可愛いんだったら、

 

桜ってつけてもいいと思うし、夏でも雪を付けてもいいと思う。でもさすがに

 

「美」は・・・・もし将来「美」なんて付けてって言われても困るから、

 

美しいなんてねえ」

 

ママ!!軽くテーブルを叩くと、ママはまたケラケラと笑った。

 

「違うのよ、あなたが生まれる少し前まで働いてたところに『美桜』という

 

名前の人が居たのでね、何となくまあ、パパはつけたがってたけども・・・・」

 

そっかあ。もし私の名前が美桜だったら、人生変わってたかもしれないよねえ。

 

「じゃあ、もし私と同じ向こうの菜桜が見つかったら、美桜にするわ」

 

ママと孝宏のお母さんは顔を見合わせてくすくすと笑った。

 

「何よ、それもウソなの?」

 

「嘘じゃないわよ、菜桜ちゃん。ただね、ほら将来浅井に来たら『浅井美桜』

 

より『浅井菜桜』のほうがしっくりくるんじゃないかって・・・・」

 

私は今度はバン!とテーブルを叩いた。