「おう、結城か」

 

後ろが騒がしい。

 

「先生、今、外?」

 

「・・・違う。家だ・・・・・おい、お前たち、静かにしろ!パパは電話中だ!」

 

・・・あは、後ろで騒いでたのは緑久保の子供たちか。

 

「すまん、も、うるさい盛りでな・・・・・ちょっと待て」

 

ごそごそと音がすると、少ししてやけに静かになる。

 

「悪かったな、今部屋を移動した」

 

「先生のとこ、子供たくさん居るの?」

 

ずっと担任のくせに結婚してることしか知らなかった。

 

「おう、3人だ、しかも年子で5、4、3と全員男だ」

 

・・・げ。そりゃうるさい筈だ。

 

「先生、大変だね。学校でも家でも『静かにしろ!』って言ってるわけだ」

 

わははは・・・・・豪快な笑い声が聞こえてきた。

 

「次こそは女の子がいいなと思ってるんだがな」

 

え?

 

「・・・・8月に4人目が生まれる」

 

わあお!!

 

「凄いんだねえ、先生」

 

「ん?何がだ?」

 

そりゃあ、年子で・・・・・そのあとそんなに開かずにもう一人。

 

しかも4人目って・・・・。

 

黙ってしまった菜桜に、緑久保は

 

「子供はいいぞぉ。おまえも早く母親になるんだな」

 

と笑った。

 

「うるさくても?」

 

「ああ、うるさくても手が掛かってもこどもは愛しい。これは親にならなきゃ

 

わからんな。だから俺は子供がちょっと騒いだからと言って虐待する親は

 

信じられん。子供は騒ぐのが仕事だ」

 

へえ・・・・菜桜は緑久保の意外な一面を見た気がした。

 

「・・・・で、どした、さっきの電話のことか?俺が駅前で会ったって言うのは

 

結城じゃないんだろ?」

 

菜桜はそう言われて本来の目的をようやく思いだした。

 

「ええ、そうです。そのことで・・・・はい、私じゃありません、でもそのことで

 

お話があって。先生は駅のどこで私に似た子に会ったんですか?」

 

菜桜は孝宏の母にジェスチャーで書くものを持って来て貰った。

 

「はい・・・・わかります。戸羽駅の隣ですよね、際橋駅。ええ、そこの改札、

 

南口を出た、ドラッグストアの前ですね・・・・わかりました、ありがとう!

 

先生、もう一度電話するので一旦切るね!」

 

最後の方は聞き取れないくらいの早口になって菜桜は電話を切ると、そのまま

 

すぐに孝宏に掛ける。

 

孝宏に今、緑久保から聞いたことを言うと、孝宏が声に出して復唱する。

 

それを尚人が聞いているのだ。

 

菜桜は電話を切り、そしてまた緑久保に掛け直す。・・・忙しい。

 

「・・・で、浅井たちがこっちに来るんだな。わかった、おまえは、ああ、

 

怪我してるんだったな。わかった・・・・お茶の準備でもして待ってるわ」

 

どうにも腑に落ちないと言わんばかりの言い方だったが、緑久保は、孝宏たちの

 

訪問を待つと言って電話を切った。