「・・・っと!電話だ」

 

尚人は掛けたエンジンをまた止めて、携帯電話を取りだした。

「・・・母さん?」

 

発信先に「母」と出ていたその電話を尚人はいぶかしげに押した。

 

「はい・・・・え?・・・・うん、うん・・・わかった、もう今駅だから

 

これから帰るから」

 

緊迫した言い方に車内は急に静かになる。

 

「何があったの、兄さん」

 

通話を終えた尚人は

 

「おまえたちの担任の緑久保先生から、菜桜ちゃんの家に電話があったらしい。

 

菜桜ちゃんのお母さんがすぐに母さんに相談して・・・・で、いま母さんから

 

掛かって来たんだけど、ともかく、動きながら話すわ。話してるうちに着くと

 

思うけど」

 

尚人の話はこうだった。

 

孝宏と菜桜の担任、緑久保先生が学校の帰り、買い物を頼まれたのでいつも

 

降りる駅ではなく、その先の駅で降りた。

 

頼まれたものを買って駅に戻ろうとした途中、困惑した表情でうろうろしている

 

女子生徒を見かけた。

 

勿論自分の学校の制服だし、何をしてるんだ、と声を掛けたが、振り向いた

 

女子生徒は

 

「私にそっくりだったって?」

 

「うん、菜桜ちゃんにそっくりだったらしいんだよ。どこから見ても菜桜ちゃん

 

だったって・・・・・だけど菜桜ちゃんは怪我してるの、先生も知ってただろう?

 

それなのに普通に歩いてるのをみて、おかしいと思って余計声を掛けたんだって」

 

「それって・・・・」

 

「向こうの世界の菜桜!?」

 

4人の声がダブった。

 

「ただ、その菜桜は先生の手を振り切って走って行ってしまったらしいんだ」

 

「なんだ、つかまえたわけじゃないのね」

 

「ああ、でも、先生にして見りゃどう考えてもおかしいってんで、菜桜ちゃんの

 

家に電話を掛けてきたらしいんだよ」

 

こうなると、最初に向こうの世界の孝宏にママは会ってて正解だったわけだ。

 

勿論向こうの世界の菜桜の事も知って置いて良かった。

 

でなければ今頃混乱していたか、変なことを緑久保に言いかねない。

 

孝宏の母も向こうの世界の孝宏を見てるし、向こうの世界の菜桜の事も聞いて

 

いたので、それでママのところへ・・・・

 

「菜桜ちゃん?」

 

「黙り込んでぶつぶつ言ってる菜桜を見て尚人が声を掛ける。

 

「あ、ううん、大丈夫。ともかく早く帰りましょう・・・それから・・・・」

 

尚人はスピードをあげた。