「ホントにいいの、尚人さん」

 

杏子が会計になって恐る恐る聞くが

 

「大丈夫だよ、一昨日、バイト代が入ったんだ」

 

尚人は財布を出した。

 

「兄さんはちゃんと現金なんだよな。母さんはポイントが溜まるとかお札を

 

持ち歩かなくていいとか言って、いつもカードなんだけど」

 

孝宏が言った。

 

「ああ、うちのママもそう。カードで払って、年末貯まったポイントで何かしら

 

貰ってる。でも私も仕事するようになったらカード作りたいなあ」

 

尚人は会計を済ませると

 

「僕も持ってるよ、カード。でも、カード使うのはきちんと就職してからって

 

決めてるんだ」

 

そう言ってお釣りの中から千円札を2枚残すと、真宏に渡した。

 

「・・・え?」

 

「持って居ろ。おまえは学校から何も持たずにこの世界へ来たんだろう?万が一

 

何かあってみんなとはぐれても、家に戻れるように」

 

「・・・でも・・・」

 

いいから!尚人は孝宏の手の中に千円札を押し込むと

 

「向こうの世界に戻れる時は返してもらうから」

 

と笑った。

 

「兄さん・・・・・」

 

真宏はおしいだくように胸に押しあてた。

 

「・・・いいなあ、兄さん、僕もこずかい~」

 

孝宏が言うと

 

「尚人兄さん~私たちも」

 

菜桜と杏子も手を出した。

 

「おまえたちはダメ」

 

尚人は笑うと

 

「さあ、行くぞ」

 

と菜桜を抱きあげると、駐車場に向かった。

 

菜桜は座席に座るとポシェットを探り、飴を入れていた巾着袋から飴を全部だし、

 

それを真宏に渡した。

 

「・・・・え?」

 

「こんな女の子向けのキャラクターものの袋じゃ嫌だろうけどもさ、家に

 

帰ったら孝宏に何か貰いなよ。

 

お金、まずはここに入れて持って置けば?」

 

「あ・・・ああ、サンキュ」

 

確かにカワイイキャラクターものの巾着だ。ちょっと男の子が持つには恥ずかしい

 

けども、家までなら余裕だろう。

 

「って言うのもさあ、ずいぶん前に孝宏の家とうちで遊びに行ったのよ、確か

 

まだ小学校くらいの時。で・・・」

 

菜桜がそこまでいうと

 

「思い出した、アレだろ?僕が母さんにお使いを頼まれて、5千円札を持って

 

買い物行って、お釣り持ってたらそれを持ちたがった孝宏が、僕の手から

 

取り上げて・・・・で・・・」

 

「そう、落としちゃったのぉ!」

 

尚人と菜桜はきゃあきゃあ言って盛り上がった。

 

「ええええ?」

 

驚く杏子に

 

「自分も大きなお金を持ちたかったのね、で、お兄ちゃんだけズルイってことで

 

取り上げたんだけども、風が吹いてあっという間に手から離れてさ」

 

「そうそう、下が川でね・・・・・」

 

尚人と菜桜は止めない。

 

「もう!!いいからさ、昔のこと」

 

孝宏は真っ赤になって二人を制するが

 

「あの時、孝宏、おばさんに怒られてベソかいて」

 

「怒るぞ、菜桜」

 

きゃあ・・・・菜桜は尚人の背中を引っ張った。

 

「だからさ、せっかくのお金、飛ばしちゃったら勿体ないでしょ、だから」

 

真宏は

 

「ああ、大事に持ってるよ」

 

と胸ポケットに入れて存在を確かめた。

 

「・・・ったく古いことを・・・・・」

 

孝宏はまだまだぶつぶつ言ってたが、

 

「さ、行くよ!出発進行!」

 

菜桜は、勢いよく、右手をあげた。