だが・・・・

 

「見つからなかったわねえ」

 

散々走り回って、疲れたという表情で杏子が言った。

 

あれから4時間が経ち、5時になっていた。

 

駅は帰りの通勤客と学生でごった返している。人数も増えてきた。

 

駅のトイレの前のポットの椅子のところに、疲れ果てて尚人も杏子も孝宏も

 

戻って来ていた。

 

「も、足動かないわ」

 

「足、痛いな」

 

「・・・すみません」

 

「だから!すみませんはなし!」

 

杏子はちょっと怒ったように見せて、それからボソッと呟いた。

 

「どこに行っちゃったんだろうねえ、心細いだろうに・・・・」

 

もし自分が同じ運命になったら・・・・同じ次元移動を経験した者だからこそ

 

わかり合える言葉だった。

 

海外に一人で放り出されると言うのとはわけが違う。

 

次元が違うと言うことは、日本に戻ってきても自分の居場所が無いのだ。

 

「ともあれ今日は打ち切ろう。僕たち探偵は学生なんだし、おまえたちも明日も

 

学校だしな」

 

尚人は言ってそしてニコッと笑うと

 

「じゃあ、そこのファミレスで夕食でも食ってくか・・・・おまえたちそういや、

 

昼も食べてないだろうが」

 

と立ち上がった。

 

「わお!」

 

「そういや…忘れてた。急におなか空いちゃった」

 

「兄さんのおごり?」

 

「おまえたち、金持ってるのか?」

 

「・・・・持ってない」

 

「あ、でも孝宏が二人・・・・」

 

「一卵性双生児だったんだよ、孝宏は・・・・」

 

突然元気になり、おしゃべりになった5人は駅の隣にあるチェーン店の

 

ファミレスに向かった。

 

「あったかあい」

 

やはり到底4月の言葉と思えない言葉を発し、5人はテーブル席に座った。

 

当然ながらよく似ているダブル孝宏をちらちらと見ている客も居る。

 

「ね、何にする?尚人兄さんのおごりなら一杯食べちゃおう」

 

菜桜は席の隅に立ててあるメニューを三冊取り出すと、

 

「ほら、孝宏、真宏、何にする?」

 

・・・・へ?と目を剥く孝宏に菜桜はそっと目配せすると

 

「孝宏は、野菜好きじゃないんだよね、でも野菜も食べなきゃ。真宏は野菜好き

 

って変だよねえ・・・・一卵性なのに」

 

杏子も話を合わせる。

 

孝宏は頷いて

 

「わかったよ、じゃあ、今日はこれを食べる、真宏、おまえは?」

 

とメニューを差し出した。

 

尚人はくすっと笑うと

 

「いいな、僕は一気に双子の兄か」

 

と言いつつ、メニューをめくった。

 

まあ、これで回りは良く似た双子と言う風にしか見えないだろう。