尚人の方はとにかく車を飛び出したものの、どこをどう探せばいいのか見当も

 

つかなかった。

 

何せ駅と言ってもいくつかの線が乗り入れてるので多少大きい駅なのだ。

 

どこをどう移動してるかは知らないが、各線のホーム、改札、待合室、券売

 

所・・・・売店もあれば立ち食いソバ屋もある。

 

まあ、こんな時に悠長にそばを食べてるような奴ではないだろうし、売店で何か

 

買うにしてもそばを食べるにしてもお金がかかる。

 

彼は、お金を持ってるんだろうか・・・・いや、金を持ってたとしてもこんな時に

 

食べはしないだろう、と言うか杏子がパン屋の前でうろうろしてる孝宏を目撃

 

してるくらいだ、あの時金を持ってれば躊躇うことなく、彼はパンを買ってた

 

筈だ。

 

だけど買えなかったってことは・・・・・

 

駅の中まで来て尚人はふと立ち止まった。

 

落ち着け・・・・やみくもに走り回ったって体力と時間の無駄だ。

 

はやる気持ちを自分で抑え、尚人は辺りを見回した。落ち着いてくるとまた

 

景色が違って見えてくる。

 

改札口、駅員の詰め所、売店、待合室・・・券売機の隣には長距離切符や定期券を

 

販売する窓口もある。

 

それから大きなトイレが見えた。

 

ここはいくつもの線が乗り入れる駅で結構大きな駅だ。

 

いくつもの線が乗り入れると言うことは、乗降客が多いと言うことで、だから

 

トイレも大きいのだろう。

 

長距離客を意識してか、トイレの隣には簡易の着替え室も2つあった。

 

そっか、トイレ・・・・向こうの菜桜とはぐれたのもトイレだったわけだし、

 

トイレを覗いてる可能性はある。

 

・・・・・よし!尚人は大きく深呼吸をすると改札横にあるトイレへと足を

 

向けた。

 

トイレの前まで来る、えと右が男子トイレ、左が女子か。

 

尚人は男子トイレの前に行ってみるが、孝宏の姿はなかった。

 

男子トイレと女子トイレの間には、いくつかの鉢植えを集めたポットが

 

置いてあり、その周辺は椅子のようになっている。

 

お互い、カップルなどでトイレに行って、相手を待つときに座る為なんだろうか。

 

尚人はその椅子の周りを回って、何気に女子トイレの方を見た。

 

・・・・た・・・・・!まさかこんなにすんなり。尚人は声を出しそうになり、

 

慌てて口を閉じると足早に歩いた。

 

「・・・・おい」

 

肩を不意につかまれて、孝宏が振り返る。

 

「・・・・・尚人さん」

 

驚いた表情で孝宏はうろたえたようにたじろいだ。

 

「おまえなあ・・・・いきなり居なくなったら心配するだろうが!」

 

いつになく語気を荒げた尚人に

 

「・・・すみません」

 

孝宏はおとなしく頭を下げた。

 

「でも・・・・もうこれ以上・・・・」

 

孝宏が言い終わる前に尚人は

 

「バカやろう、誰も迷惑だなんて思っちゃいないよ。みんな純粋に君と君の

 

菜桜ちゃんを助けて、元の時代へ戻そうと思っている。僕も、弟の孝宏も菜桜も

 

杏子だって同じ気持ちでいるんだ。

 

むしろ迷惑なのは、こうして黙って居なくなることだ。それだけ余計な時間が

 

かかるんぞ。いいか、僕が駐禁で捕まったらどうしてくれる。僕はまだ免許取って

 

間もないけども無事故無違反なんだぞ」

 

最後の方は尚人も自分で言って、噴きだしている。

 

その言葉を聴いて孝宏もぷっと噴きだし・・・・それから

 

「すみません」

 

と素直に頭を下げた。

 

「みんなに余計な迷惑を掛けてしまうと思ったけど、その方がみんなに迷惑

 

なんですよね。ありがとうございます。わかりました、もう逃げません。どう

 

か・・・・菜桜を一緒に探してください」

 

尚人は優しく肩を叩くと

 

「わかればいいんだよ。一緒に探そう。僕たちは同志なんだから、もう二度と

 

迷惑だろうなんて思うなよ」

 

そう言いかけていたところへ

 

「兄さん!」

 

孝宏が走ってきた。