「まあ、確かに同じような形の世界とは言え、自分のところと微妙に違う。

 

ま、違う世界だって気付けばいいんだけど、おかしいって思いながらも

 

そこまではわからないだろうな。だとしたら・・・・・もしかしたらって思って

 

あの場所に戻ってることもあり・・・・・得るっちゃ、有り得るわな」

 

だけど・・・・と言いながら孝宏は階段を一気に降りると、手を伸ばして私を

 

支えてくれた。

 

「じゃあ、兄さんが見た、あの菜桜は?兄さんが友達に会ったのはうちの駅から

 

少しは慣れたところだったって言ったぜ?」

 

それも私は、答えを出していた。

 

あの時去年、孝宏が最初に別の次元に行ったとき、トイレに隠れて、トイレの

 

清掃用具入れのドアを開けたら、そこが男子トイレではなく、保健室だった

 

・・・って。

 

「菜桜さんは・・・・向こうの世界の菜桜は。もしかしてトイレに入って出たら

 

ドア開けたら違うところに出たんじゃないかしら」

 

孝宏があ、という顔をした。去年のことを思い出したようだった。

 

「そ・・・か、僕は学校の門の前に・・・・・自分の家のあの小さな納戸みたいな

 

ところから学校の前に出た・・・・・で、トイレの清掃用具に隠れて頃合いを

 

見計らって出ようとしたら・・・・そうか、その可能性あるな」

 

よし、あの駅を見張ろう、そう言った。

 

1年1組のドアを開ける。

 

懐かしいって言うのも変か、私たちは2組だったんだもの。でも、何となく

 

新入生って感じの・・・・初々しい感じがするのだ。

 

既にほとんどの生徒が来ていた。昨年一緒のクラスだった子も居る。

 

「よ!」なんて手を挙げるので挙げ返す。

 

「席は・・・?」

 

聞くと「自由でいいみたいだよ」と言うので、二人で適当な場所を選んで座った。

 

同時にガラッとドアが開くと、体育教師の高橋先生が入ってくる。

 

「揃ってるか?僕はこの後職員会議があるんであまり時間取れないんだ、揃って

 

ないクラスは飛ばして・・・・まず1年1組から自己紹介だな」

 

1組の子が二人立ち上がり、挨拶をする。やはりぎこちない。

 

私たちは2年生になったとはいえ、まだ2日目。しかも体育祭はまだ一度しか

 

経験ないのだけど余裕なのはなんでだろう。

 

1年生は全部のクラスが揃ってるようで、全8クラスの委員の挨拶が終わった。

 

「次、2年・・・・・おう、1組はまだか、じゃあ2組!」

 

いきなり振られてしどろもどろに立ち上がる。どこが余裕なんだよ、と思いつつ、

 

まず孝宏が2年2組実行委員の浅井です、と名乗り続いて菜桜も名乗った。

 

やれやれ、これでもうあとは発言することはない。

 

大抵委員長は3年生なので、あとは伝達事項を聞いているだけでいい。

 

2年、3年は揃ってないクラスが多い、すぐに3年生に行き、3年生も5クラス

 

しかまだ来ていなかった。

 

「みんな往生際が悪いなあ」

 

高橋先生がぶつぶつ言ってると、「すみません!」息を切らして何人かが

 

駆け込んできた。

 

「おう、急げ、僕はこの後職員会議なんだ、じゃ、何年何組?挨拶を・・・・・」

 

先生も大変だな・・・・って一応思ってみる。

 

私たちは実行委員会が終われば帰れるけど、先生はこの後職員会議がある。

 

高橋先生なんてクラブの顧問もしているから、午後も出なきゃいけないかも

 

しれない。それに比べたら学級委員なんて・・・・。

 

うん、なんか悟りを開いたみたいだぞ。

 

菜桜は一応持参したノートに1年1組から二人づつ、実行委員の名前を書いて

 

行った。