隣からは二回目の「じゃんけ~ん・・・・・」の声が聞こえてくる。

 

教室に残ったのは実行委員会の顔合わせに出る菜桜と孝宏、それから杏子だけ

 

だった。

 

「うまいこといったね」

 

私が言うと孝宏が

 

「ま、誰かがやらなきゃいけなかったんだからな、でも杏子の機転はすごかった

 

ぜ」

 

と笑った。

 

「だって・・・・あの次元の菜桜がいつ見つかるかわからないでしょう?今日、

 

実行委員会で体育祭委員を決めてくれって言われて明日決めるじゃない?来週

 

早々に一回目の委員会よ。一緒に出られた方が一緒に行動できるわ」

 

「そうだな」

 

早くあの二人を元の自分たちの次元に返してあげたい。でも私たちの力だけでは

 

どうにもならないのだ。

 

例え向こうの世界の菜桜が見つかったとしても、二人を元の次元に返すまでは

 

どのくらいの時間がかかるかわからない。

 

「私、尚人さんにLineしておくね、で、委員会終るまで教室で待ってるわ」

 

杏子はそう言うと新しく決まった自分の椅子に座って、携帯を取り出した。

 

「ああ、じゃあ、頼む。終わり次第すぐここに戻るから、杏子が居るんだったら

 

安心だ、教科書は置いて・・・・・じゃ、菜桜、行くぞ」

 

うん、私は孝宏の肩につかまってそろそろと歩きだした。

 

委員会のある教室は代々1年生の教室と決まっている。

 

3年生の教室だと1年生が来るのに気後れするだろうと言う配慮だ。

 

ということは、1階。

 

「いいよ、私、少ししたら荷物運んで1階で待つから。菜桜、その足だし、

 

また2階に来ることないでしょ」

 

教室から杏子が顔を出して言う。

 

孝宏は片手をあげて合図すると、私を連れて1年生の教室に向かった。

 

「菜桜を・・・・早く見つけないとな」

 

孝宏がボソッと言った。

 

「え?」

 

「おまえのことじゃない、向こうの菜桜だよ。可哀想に・・・僕たちは翌日に

 

すぐ会えたし、兄さんや杏子ともすぐ会えたけど。あの孝宏の話じゃあ、

 

4日って言っただろう?かなり心細いと思うんだ」

 

うん・・。と私は小さな声で返事をした。

 

病弱で弱そうだという向こうの菜桜。いきなりこんなわけのわからない場所に

 

来ちゃって体は大丈夫かしら・・・・孝宏がどこにいるだろうって思って

 

探しているんじゃないかな。かなり心細いだろ・・・・・

 

「あっ!」

 

私が思わず大きな声をあげたので孝宏は立ち止まった。

 

「おまえなあ、耳元で叫ぶなよ」

 

「ごめん」

 

「で、どうしたって言うんだよ、忘れ物か?」

 

ふと、今沸き上がった気持ち。私は階段を慎重に降りながら、孝宏に話した。

 

「じゃあ、向こうの世界の菜桜が孝宏と最後に一緒に居た駅のトイレに戻る

 

可能性があるって?」

 

うん・・・・私は頷いた。