「ずいぶん遅かったじゃない」

 

結局杏子と話したのはこれだけだった。

 

孝宏ともクラスに入ったら何故か話せなかった。まあ、ことがことだもんね。

 

こんな繊細なこと、好きなアイドルやアニメの話みたいに軽くなんてできやしない。

 

ともかく、放課後はまたみんなで集まるのだ、今話さなくてもいい。

 

「おまえたち、今日は静かだな」

 

1年の時から一緒の子がからかう。悪いね、デリケートな話なのよ。

 

今日が授業無い日で助かったわ。

 

始業時間ちょっと前に緑久保が来て、すぐにHRが始まり、教室がまるで

 

ハチの巣をつついたような大騒ぎになって、2年初の席替えが始まった。

 

緑久保が紙に番号を書いた紙を用意し、ティッシュの空き箱に入れ、

 

それをクラス名簿順に引いて行き、黒板に描かれた生徒の数分の机の中に

 

書いた番号と同じ席に着く。

 

まるで民族大移動のようだ。20分ほど掛かって

 

「さあ、いいか。しばらくはこの席でこの2年2組は生活していく。ああ、

 

視力が悪いとか、他の理由でどうしても・・・と言う者は手を挙げて言ってくれ」

 

早速身長の低い泉君が一番後ろだったので、前の方と替えてくれと言うことで

 

比較的背の高い子と替わり、後は落ち着いた。

 

まあ、そううまく行くわけはないわな、クラスが一緒だっただけでもめっけ

 

もんだ。杏子とはほとんど対角線に近いほどに席が離れてしまった。

 

孝宏はその中間と言うところか。

 

どうせ、お隣だからいつでも会えるしいいんだけどね。

 

あと今日やることは、クラス委員決めだ。

 

クラス委員は6月に行われる体育祭の実行委員も兼ねる。

 

この後11時から第一回の体育祭実行委員会が行われるし、それまでに

 

決めなくちゃいけない。

 

案の定、さっきのざわざわした雰囲気はどこへやらクラスはしん、と静まり

 

返ってしまった。

 

チラッと見るとみんな顔を伏せて、明らかに委員を敬遠している。

 

「どした、どした、途端に覇気が無くなったなあ、おまえら。でもこれ、

 

決めなくちゃ帰れないんだぞ」

 

緑久保がはっぱを掛けるが皆黙ったまんまだ。

 

そりゃそうだよなあ・・・・・まあ、実行委員は体育祭だけで文化祭はまた他の

 

実行委員が選出されるけれど、学級委員は体育祭と、それが終わっても一年間、

 

毎月の学級委員会に出席しなければいけない。

 

でも、逆に言えば・・・・それだけで済んじゃうわけで・・・・菜桜はふと

 

顔をあげた。

 

今度は孝宏の方を見る。孝宏も視線に気付いたのか、菜桜の方を見た。

 

菜桜はこぶしを握り、小さくガッツポーズをして頷いて見せた。

 

最初はきょとんとしていた孝宏だったが、次第に驚いたような表情になる。

 

菜桜はダメ押し、という感じでもう一度頷いて見せた。