結局、杏子はママが車で送り、孝宏たちはもう一人の孝宏とお隣へ帰って行った。

 

なんだかすっかり目が覚めてしまったので、ベッドに連れてってもらったものの、

 

ずりずりと動き、椅子に座った。

 

細めのマジックを出して教科書に名前を書く。まあ、どうせ明日は授業がないのだ。

 

また今日くらいの量の教科書を持ち帰らなければいけないけど、朝行く時は

 

布バッグだけでいい。

 

明日は、向こうの孝宏と向こうの菜桜さんを探しつつ、私たちの学校が終わる頃、

 

尚人兄さんが迎えに来てくれることになっていた。

 

一気に家に戻って着替えて探しに行くのだ。

 

足が悪い私も車を停めて置く時に必要だと言うことで、連れてって貰えることに

 

なった。

 

路駐取り締まりが厳しいもんね。探しに来ていて駐禁取られちゃたまらないって

 

尚人兄さんも言ってた。この辺はやけに駐禁の取り締まりが多いのだ。

 

それより明日だよ。8時に出るって・・・てことは7時半には起きてなくちゃ

 

いけない。足のことを考えると色々時間かかるから・・・・・。

 

ともかく明日だ。

 

 

 

で、結局。

 

「・・・8時って言ったよねえ・・・」

 

私はここぞとばかりに嫌味を込めて言ってみる。

 

「悪かったよ、つい、孝宏と話しこんじゃってさ」

 

こっちの世界の孝宏は頭を掻いて謝った。

 

「その代り8時な」そう言ったのに、孝宏は8時になってもドアを開けなくって

 

開いたのは15分。

 

これならいつもの時間と変わらないじゃん。

 

尚人兄さんが送っていくよと、すっかりこっちの世界の孝宏の服を着て

 

用意の出来た孝宏を従えてやってきた。

 

尚人兄さんは私たちを送って、それから探しに行くと言う。

 

「・・すみません」

 

すっかり粗野な雰囲気が無くなって、向こうの世界の孝宏はおとなしい。

 

「いいんだよ、きっと僕だっていきなり訳の分からない場所に迷い込んだら

 

戸惑ってしまう。心細いと思う。

 

これも何かの縁と思って頼ってくれればいいんだ」

 

尚人兄さんはハンドルを握りながら言った。

 

「・・・・俺にも兄さんが居れば」

 

え、向こうの世界の孝宏にはきょうだいが・・・・お兄さんが居ないの?

 

そう聞く私に

 

「ええ、俺は一人っ子で・・・逆に菜桜には妹が居ます」

 

「その辺も微妙に違うのね。妹さん、お姉ちゃんが居なくなったら心配してる

 

だろうねえ・・・」

 

「とにかく、出来るだけ早く探し出すよ。さあ、着いた。行っておいで。帰りは

 

また迎えに来るから」

 

助かった。車だから15分に出ても20分前に着く。

 

 

私と孝宏は礼を言って車を降り・・・・降りる時に私は向こうの孝宏に

 

「健闘を祈るっ」と冗談交じりに言った。

 

粗野な雰囲気がすっかり消えた孝宏は「ああ、ありがとう」そう言って手を

 

振った。

 

ともかく、学生の本分は勉強・・・って今日は勉強はないけどね。