そしてそれからひとつ聞いていいか?と孝宏に向かって言った。

 

「ああ」

 

うちの孝宏が答えると

 

「・・・・次元が違うって、どういうことだ?」

 

と真顔で言った。

 

で、結局。紙とペンで孝宏は・・・・あ、うちの孝宏はまたも、通算三度目の

 

パラレルワールドの話を始めた。

 

「・・・じゃ・・・じゃあ、俺は、俺と菜桜は・・・・違う次元の同じ世界に

 

来ちゃったってことか?」

 

そう言うことになりますね。私たちも去年、そう言う体験をしたんだよ~。

 

「確かに、ここは俺の居るところと同じように見えるけど微妙に違う。勘かな。

 

勿論勘以外にも色々違うところはあるけれど・・・」

 

私たちが実際に居ることだよね。菜桜はともかく、自分と同じそっくりの人間が

 

目の前に居て、似てる人間はそりゃあ居るけど、まさか名前までそっくり同じっ

 

てのは、多分有り得ないだろう。

 

それに、向こうの孝宏たちがこっちに来た時、向こうは放課後だったのにこっちは

 

授業中だった。でも私があっちの世界に行った時は・・・・そうだ、ほとんど

 

変わらなかった・・・・ってことは、すんごい細かい時間でズレが生じてるって

 

ことかな。まるきり同じ時間ではない・・・・。

 

そして孝宏が・・・・あ、うちの孝宏が塾に行こうとして、小部屋の光の輪の中に

 

入ってしまったこと、菜桜が探して後を追いかけて来て同じ穴に落ちたこと、

 

その菜桜を追って尚人兄さんと杏子が来たと言うことと、私たちが違うその孝宏の

 

世界へ行った経緯も伝え、それからじような時を過ごしているけど微妙に違うこと、

 

元の世界に戻れる場所を探したこと・・・・竜巻で巻き込まれてプレハブまで

 

一緒にこの世界に来てしまったことなどかいつまんで話して聞かせた。

 

「そういや、いつだったか・・・・竜巻が上がったっけなあ、なんか朝なのに

 

暗くってあちこちに黒い渦のようなものが舞い上がって・・・・同時にあちこちに

 

白い球が浮いてた」

 

その孝宏は思いだした、と言わんばかりに話しだした。

 

「そうそう、それで竜巻が消えた後、あんな大きな合宿用の布団などを仕舞って

 

おくプレハブ小屋が消えちゃったんだ。あれは当時話題になったんだぜ。

 

あんな大きなものが解体もしないのになぜ消えた・・・ってね」

 

・・・・・あはは・・・・もう笑うしかなかった。

 

申し訳ないけどそのプレハブ小屋はとっくに解体されて、倍になった布団たち

 

寝具類は元のプレハブにぎゅうぎゅうに押し込まれてるわ。

 

あの時、解体中に一応警察に届け出はしたけれど、見に来た警察も頭を抱えて

 

しまって、何せどこからも盗難届も出てないし・・・ってことでなんかうやむやに

 

なったんだった。

 

で、この際古い布団は処分してって数を調整したらしい。何せいきなり倍じゃ、

 

小屋に入り切らないんだもん。

 

「そうか。うちはおかげでプレハブ小屋をまた新たに設置するかどうかって

 

話し合いがPTA総会でも取り上げられて、結局合宿は全員寝袋でってことに

 

なって、穴が開いた感じになったあの場所に花が植えられて、ベンチが置かれて

 

なんか公園みたいになったんだ」

 

・・・あちゃあ・・・・とは言え、プレハブは勝手についてきたのだ、私たちが

 

連れてきたわけではない・・・・依って、私たちに非はない・・・・って私何

 

言ってんだ。

 

「わかった・・・・じゃあ、みんなで一緒にその君の世界の『菜桜』を探そう。

 

ただ、今日はキミも寝た方がいい。母さん、うちに泊めていいだろう?明日は

 

木曜で孝宏たちは学校がある。探すのは放課後になるが、僕は幸いまだ休みだ。

 

孝宏たちが戻るまで僕が一緒に探そう。必ずキミの世界の『菜桜』を見つける

 

から・・・・キミは今日は寝るんだ。何も考えずにと言っても無理だろうけど

 

ゆっくり休んで明日からの英気を養え」

 

尚人兄さんが立ち上がった。

 

「そうと決まったら布団を出さなくちゃね。部屋は和室でいいかしら」

 

孝宏のお母さんも立ち上がる。

 

「了解、もどかしいけど僕たちは学校が終わったら手伝うよ」

 

孝宏も立ち上がり・・・・

 

「そうね、じゃあ、私も帰るわ、大丈夫、私はまだ一人で帰れるから」

 

尚人兄さんを制して杏子も立ち上がった。

 

向こうの世界の孝宏はきょろきょろしながら

 

「・・・な・・なんで・・・・なんでそんなに・・・みんな親切なんだ・・・」

 

と呻くように呟いた。

 

「決まってるじゃないの、あなたを助けたいからよ」

 

ママに言われて向こうの孝宏は涙をこらえるように「ありがとう」と言った。