菜桜は深く頷いた。

 

「・・・・あまりに菜桜に似てたんだけど、直感で違うって思って、怖くって

 

逃げたんだ。不思議だな・・・・何で逃げたのか、菜桜だったのかもしれなかった

 

のに。でもびっくりするほど似ていたんでドキドキした」

 

「私が声掛けたのは・・・・?」

 

杏子が聞いた。

 

「ああ…お前、同じクラスの新川杏子に似てるわ。俺たち喋ったことないんだけど、

 

よく似てる」

 

杏子が、私も新川杏子よと言おうとして止めたのか、開きかけた口をつぐんだ。

 

「俺、腹が減ってついフラフラ、パン屋の前に来ちゃったんだ。いきなり訳の

 

分からない場所に来てから4日近く食べてなかったんだ・・・・・」

 

4日・・・・・私じゃ無理だわ。菜桜は深く同情した。

 

「だけど、声掛けられてハッとした。匂いに釣られてホントにあのまま食べそうに

 

なったんだ。声掛けて貰ってよかったよ」

 

やはりそうだったか。杏子の言ったとおりだ。だけど、4日も食べてなかったら

 

どんな人でもフラフラになって思わず手が出てしまうだろう。

 

孝宏は続けて話し出した。誰かに聞いて貰いたい、そんな感じだった。

 

そりゃ訳の分からないところ・・・・ううん、知ってるはずなのに何か微妙に

 

違うところにいきなり来て、誰とも話していないのだ。

 

ここがどこかもわからない。ずいぶん心細い思いをして話すきっかけが出来た今、

 

とどまる所知らずにしゃべりだしたんだろう。

 

「家には一度寄ってみた。でも、何か雰囲気が違うんだ。同じマンションの同じ

 

ドアなのに何か違う・・・それで一度は戻った。

 

だけどやっぱり俺の家はあそこしかないし行くところもない、そう思ってさっき

 

もう一度・・・・」

 

で、孝宏のお母さんにつかまったわけか。

 

「菜桜の居る棟は隣なんだけど、そこまで行ってみる勇気はなかった」

 

え・・・?菜桜はお隣じゃ・・・・ああ、でも性格のように、次元が違うと

 

ちょっとずつ違うって孝宏が言ってたっけ。

 

だから、同じクラス新川杏子はいるけど、そんなに親しくなかったりするんだ。

 

私は、そっとその孝宏の顔を見た。

 

「やっぱり・・・・孝宏にそっくりね・・・・」

 

向こうも「菜桜にそっくりだ」と返す。

 

「わかった・・・・一緒に探しましょう。ね、孝宏、杏子、尚人兄さん」

 

孝宏たちも頷き返す。

 

その孝宏が驚いたように私を見た。

 

「・・・い・・・いいのか・・・?」

 

私はその孝宏の手を握ると

 

「当然でしょう?私たち次元が違っても、同じ浅井孝宏と結城菜桜なのよ」

 

その孝宏は、ありがとうと深々と頭を下げると、それから去年は追いかけて

 

悪かった、と謝った。

 

ふふん、いいところあるじゃん。