愛のエプロン
サチは、こじんまりしてはいるものの清潔なキッチンに立っていた。
人気のなくなった煉瓦造りの長屋で唯一灯りがついているのはこの自宅だけである。
いまはチキンのグリルを作っているところだ。
包丁が鮮やかな動きで玉葱をみじん切りにしていき、調味料の入った幾つもの瓶でチキンの下ごしらえを行う。
みじん切りになった玉葱にタイムとタラゴンが加わり、真一文字に切り開かれたチキンの腹に詰め込む。
そこにレモン汁を振り掛けてホイルで包んだらオーブンの中に入れる。
後は一時間ほど中火で焼き、取り出したチキンにレモンソースをかければ完成だ。
チキンが焼ける間に付け合わせを作ろうと、再び包丁を上げた、ちょうどその時、サチは背後から伸びてきた二本の腕に抱き締められた。
「きゃっ──!」
中途半端に動いた包丁を慌てて放してしまう。
抱き締められた一瞬ドキリとしたが、直ぐに背後の人物が誰であるかサチにはわかった。
「もう、お兄ちゃん…驚かさないよ!」
後ろから抱き締めたまま頬に唇を落としている兄、カズヤに抗議すると、甘い響きを帯びたバリトンが耳元で囁く。
「早く帰ってきたことを喜びはしないのか?」
「それは嬉しいけど……んっ──」
言い返そうとした言葉が途中で途切れたのは、腰の辺りにあったはずのカズヤの手が、いつの間にか上がっていて胸をやんわりと揉み始めたせいだ。
大きな手の平で膨らみを包み込み、感触を楽しむようにやわやわと撫でられる。
毎晩のように可愛がられて開発されていた体は、そんな些細な刺激にも簡単に官能を呼び覚まされそうになってしまい、サチは慌ててカズヤの手を掴んで止めた。
「悪戯しないで! まだ料理の途中なんだから!」
「支度なら後でもいいだろう。せっかく早く帰宅したんだ…」
「も…っ、ダメだったら!」
もぞもぞと這い回る両手に気を取られている隙に、両足の間を後ろから膝で割られ、そこへ入り込んだカズヤの片足が内ももに擦りつけられる。
「お兄ちゃん…っ!」
「…怒るなよ」
中火どころか、かなりの火力で燃え上がり始めた兄妹をよそに、オーブンからはチキンの焼ける良い香りが漂い始めていた。
END
人気のなくなった煉瓦造りの長屋で唯一灯りがついているのはこの自宅だけである。
いまはチキンのグリルを作っているところだ。
包丁が鮮やかな動きで玉葱をみじん切りにしていき、調味料の入った幾つもの瓶でチキンの下ごしらえを行う。
みじん切りになった玉葱にタイムとタラゴンが加わり、真一文字に切り開かれたチキンの腹に詰め込む。
そこにレモン汁を振り掛けてホイルで包んだらオーブンの中に入れる。
後は一時間ほど中火で焼き、取り出したチキンにレモンソースをかければ完成だ。
チキンが焼ける間に付け合わせを作ろうと、再び包丁を上げた、ちょうどその時、サチは背後から伸びてきた二本の腕に抱き締められた。
「きゃっ──!」
中途半端に動いた包丁を慌てて放してしまう。
抱き締められた一瞬ドキリとしたが、直ぐに背後の人物が誰であるかサチにはわかった。
「もう、お兄ちゃん…驚かさないよ!」
後ろから抱き締めたまま頬に唇を落としている兄、カズヤに抗議すると、甘い響きを帯びたバリトンが耳元で囁く。
「早く帰ってきたことを喜びはしないのか?」
「それは嬉しいけど……んっ──」
言い返そうとした言葉が途中で途切れたのは、腰の辺りにあったはずのカズヤの手が、いつの間にか上がっていて胸をやんわりと揉み始めたせいだ。
大きな手の平で膨らみを包み込み、感触を楽しむようにやわやわと撫でられる。
毎晩のように可愛がられて開発されていた体は、そんな些細な刺激にも簡単に官能を呼び覚まされそうになってしまい、サチは慌ててカズヤの手を掴んで止めた。
「悪戯しないで! まだ料理の途中なんだから!」
「支度なら後でもいいだろう。せっかく早く帰宅したんだ…」
「も…っ、ダメだったら!」
もぞもぞと這い回る両手に気を取られている隙に、両足の間を後ろから膝で割られ、そこへ入り込んだカズヤの片足が内ももに擦りつけられる。
「お兄ちゃん…っ!」
「…怒るなよ」
中火どころか、かなりの火力で燃え上がり始めた兄妹をよそに、オーブンからはチキンの焼ける良い香りが漂い始めていた。
END