甘い微熱 | Black Planet

甘い微熱

 ひんやりとした冷たい手が額に置かれた感触に、酷く重たい感じのする目蓋を開く。

 そこには、予想通り兄、アシオの姿があった。
仕事を早めに切り上げてから駆け付けたらしく、アシオは朝着ていったスーツ姿のままだった。

「兄さん…」

「ごめん。起こしたな」

 目を開けたマユにが優しく微笑む。
それだけで、熱で気だるい体がほんの少し軽くなった気がするから不思議だ。

「大丈夫…来てくれて有難う、兄さん」

 マユが首を横に振ると、熱を計るように額に触れていた手が、今度は火照った両頬を包み込んだ。

 軽く唇にキスを落としたアシオが、心配そうに端正な顔を曇らせる。

「薬は?ちゃんと飲んだか?」

「うん、さっき飲んだところ」

 薬は恐ろしく苦かったが、やはり効果があるようで、飲む前に比べて随分熱は下がってきていた。
お腹ももう痛くないし、吐き気もおさまっている。

「そうか。それなら大丈夫だな」

 枕元に置かれた薬瓶を見て、アシオが頷いた。

「水分はちゃんととっているか? 喉は渇いていないな? 欲しい物があれば、買ってくるぞ?」

「えっ、と…」

 優しくそう言うアシオに、マユは言いかけて躊躇った。

 それを見逃すはずもなく、アシオがすかさず畳み掛ける。

「何だ?言ってみろよ」

「……うん…あのね…」



──それから、数分後。

 薬の効果ですっかり寝入ったマユの隣りには、望み通りに、添い寝しながら優しい手つきで繰り返し髪を撫でてやっているアシオの姿があった。


END