赤ずきん2
花摘みに夢中になって、小一時間ほど経った後。
赤ずきんは出来上がった花束を胸に抱いて、再び歩き始めた。
森を抜けて、緩やかな坂道をのぼっていく。
徐々に見えてくる白い建物の壁。
祖母のいるサナトリウムだった。
歩く度、胸に抱えた花束から甘い香りが立ち上り、鼻をくすぐる。
満面の笑顔で花束を受け取る祖母の姿を思い描き、赤ずきんは思わず口許を綻ばせた。
さわさわと髪を撫でて風がそよいでいく。
サナトリウムは、いつも以上に静寂が満ちていた。
遠く微かに咳き込む音や、人の囁き声すら聞こえない。
「おや。またお会いしましたね」
人気のない廊下を向こうからやって来た男が、貴女を見てにこりと笑う。
白衣を着たその男は、先ほど森の中で会った男だった。
どうやらここの医者だったらしい。
「…先生?」
お医者様ならばそう呼ぶべきだろうと呼びかけてみれば、男はふっと笑った。
「お見舞いに来たのでしょう?」
お祖母さまのところに連れていって差し上げましょうね。
男はそう言うと、赤ずきんの手をやんわりと握り、リノリウムの床を滑るように歩き出した。
ガラス張りになっているチューブ状の渡り廊下を、男に手を引かれて歩いていく。
ガラス越しの中庭に白いガーデンベンチがいくつか置かれているのが見えた。
一人の老人が、頭(こうべ)を垂れてベンチで居眠りをしている。
赤ずきんが見ている間、その老人はぴくりとも動かなかった。
「ここですよ」
一つのドアの前で男が足を止める。
白い壁に白いドア。
病室のものが大抵そうであるように、横開きのそれを手で音もなく開いて、男は赤ずきんを中へと誘(いざな)った。
祖母が寝ているはずのベッドは、ついたての陰になっていて見えない。
「さあ、お入りなさい」
男に促されて、足を踏み出す。
真っ白な部屋の中で、窓際に置かれた紅い花がゆらゆらと風に揺れていた。
→NEXT
赤ずきんは出来上がった花束を胸に抱いて、再び歩き始めた。
森を抜けて、緩やかな坂道をのぼっていく。
徐々に見えてくる白い建物の壁。
祖母のいるサナトリウムだった。
歩く度、胸に抱えた花束から甘い香りが立ち上り、鼻をくすぐる。
満面の笑顔で花束を受け取る祖母の姿を思い描き、赤ずきんは思わず口許を綻ばせた。
さわさわと髪を撫でて風がそよいでいく。
サナトリウムは、いつも以上に静寂が満ちていた。
遠く微かに咳き込む音や、人の囁き声すら聞こえない。
「おや。またお会いしましたね」
人気のない廊下を向こうからやって来た男が、貴女を見てにこりと笑う。
白衣を着たその男は、先ほど森の中で会った男だった。
どうやらここの医者だったらしい。
「…先生?」
お医者様ならばそう呼ぶべきだろうと呼びかけてみれば、男はふっと笑った。
「お見舞いに来たのでしょう?」
お祖母さまのところに連れていって差し上げましょうね。
男はそう言うと、赤ずきんの手をやんわりと握り、リノリウムの床を滑るように歩き出した。
ガラス張りになっているチューブ状の渡り廊下を、男に手を引かれて歩いていく。
ガラス越しの中庭に白いガーデンベンチがいくつか置かれているのが見えた。
一人の老人が、頭(こうべ)を垂れてベンチで居眠りをしている。
赤ずきんが見ている間、その老人はぴくりとも動かなかった。
「ここですよ」
一つのドアの前で男が足を止める。
白い壁に白いドア。
病室のものが大抵そうであるように、横開きのそれを手で音もなく開いて、男は赤ずきんを中へと誘(いざな)った。
祖母が寝ているはずのベッドは、ついたての陰になっていて見えない。
「さあ、お入りなさい」
男に促されて、足を踏み出す。
真っ白な部屋の中で、窓際に置かれた紅い花がゆらゆらと風に揺れていた。
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