赤ずきん1
お気に入りの赤い帽子を被って家を出た。
ちょっと派手だが、大好きな祖母からの贈り物だったので、その祖母のお見舞いに行くとなれば、きっと祖母も喜んでくれるだろうと思ったからだ。
バスに揺られて郊外へ。
祖母が入院している病院は、街から離れた森の中にあった。
白くて静かな雰囲気の漂うその建物は、本当は『サナトリウム』と言うのだと母が教えてくれた。
時間が止まったような空間と、まるで夢の中を彷徨っているかのような顔をした人々。
その様子を思い浮かべながら、赤ずきんはふと前回訪ねた時に祖母が見舞いの花をいたく喜んでいたことを思い出した。
当然、近くに花屋などは見当たらない。
ただ緑深いの森が広がるばかり。
辺りを見回した赤ずきんは、紅い紅い花を見つけた。
火花が散るのにも似た華やかさで開いた紅い花びらが、緑の茎に眩しく映える。
それを手折ろうと手を伸ばした時、
「お嬢さん、それはとってはいけませんよ」
不意に男の声が耳に届いた。振り返った貴女の視界が黒く染まる。
闇かと思ったのは、男の着ていた黒衣だった。
背の高い男が、黒くそびえる影のように、上からこちらを見下ろしている。
「それは死人の花です」
ひどく優しく、砂糖菓子のような甘い声。
大きな帽子の陰になった白い顔が、赤ずきんを見て微笑んでいる。
「採るのならば、別の花にしなさい」
男はそう言って森の深みのほうを指差した。
その方角、茂みの向こうに、淡い色をした可憐な花が群生しているのを見つけ、赤ずきんはわぁっと感嘆の声を上げた。
これだけあれば、きっと素敵な花束が作れるに違いない。
「有難う」
赤ずきんは教えてくれた礼を言って振り返ったが、既にそこに男の姿はなかった。
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ちょっと派手だが、大好きな祖母からの贈り物だったので、その祖母のお見舞いに行くとなれば、きっと祖母も喜んでくれるだろうと思ったからだ。
バスに揺られて郊外へ。
祖母が入院している病院は、街から離れた森の中にあった。
白くて静かな雰囲気の漂うその建物は、本当は『サナトリウム』と言うのだと母が教えてくれた。
時間が止まったような空間と、まるで夢の中を彷徨っているかのような顔をした人々。
その様子を思い浮かべながら、赤ずきんはふと前回訪ねた時に祖母が見舞いの花をいたく喜んでいたことを思い出した。
当然、近くに花屋などは見当たらない。
ただ緑深いの森が広がるばかり。
辺りを見回した赤ずきんは、紅い紅い花を見つけた。
火花が散るのにも似た華やかさで開いた紅い花びらが、緑の茎に眩しく映える。
それを手折ろうと手を伸ばした時、
「お嬢さん、それはとってはいけませんよ」
不意に男の声が耳に届いた。振り返った貴女の視界が黒く染まる。
闇かと思ったのは、男の着ていた黒衣だった。
背の高い男が、黒くそびえる影のように、上からこちらを見下ろしている。
「それは死人の花です」
ひどく優しく、砂糖菓子のような甘い声。
大きな帽子の陰になった白い顔が、赤ずきんを見て微笑んでいる。
「採るのならば、別の花にしなさい」
男はそう言って森の深みのほうを指差した。
その方角、茂みの向こうに、淡い色をした可憐な花が群生しているのを見つけ、赤ずきんはわぁっと感嘆の声を上げた。
これだけあれば、きっと素敵な花束が作れるに違いない。
「有難う」
赤ずきんは教えてくれた礼を言って振り返ったが、既にそこに男の姿はなかった。
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