冬季の天狗尾根っちゅうたら皆さん判で押したように出合小屋~主稜線~ツルネ東稜下降~出合小屋なんてのばっかりでテント背負って西側に抜ける人はおらんねぇ。夏の記録はあるんだけどそれでも単独行は見当たらないなぁ。
そんじゃ、いっちょうチャレンジしてみっか。

 

まずは地形図及び15年前の登山雑誌を見て下調べ。フムフム、赤岳沢を遡行、右岸から支流が入るあたりで支尾根に取りつくのね。第一岩壁、大天狗は右巻き、小天狗は左ね。右、右、左か。これを忘れなきゃOKだ。チョロいもんだぜ。
去年はこの時期、清里駅から真教寺尾根を登り、赤岳を経て暗くなった頃行者小屋テン場にたどり着けたから今回もちょっと無理すれば去年同様初日に抜けて、翌日、帰る前に温泉入る時間取れそう♪

 

いつものように6時前の電車に乗り、小淵沢到着。が、いつもの9時過ぎ発の電車、じゃなかったディーゼル列車が冬ダイヤで運行してない。
で、小淵沢で一時間足止め、時間的にはギリギリの計画なのにいきなり出鼻を挫かれる。天気は良いが、早速下山後の温泉計画に暗雲立ち込め。。。前夜泊にすべきだったか、後悔先に立たずだ。

 

やっと登場した小海線に乗り、標高1270mの清里駅についたのが11時ちょい前。時間節約にタクシー使おうかと思うも、やはりこの時期、がらんとした駅前に客待ちのタクシーは無し。
仕方なく、コンビニに寄り、いつものようにオニギリなんぞを調達してから雪のついた山を見ながら美しの森へとトボトボ歩き始める。天気は良いが、今日はどこまで進めるんだか。。。

 

計画当初には初日に山頂を踏んで行者小屋まで降りれるんじゃないかと甘い考えを持っていた。ま、去年の経験上、不可能ではないわな。
だが、今回はバリエーションだし、夕闇が迫る時間帯に焦って岩壁に取りつくのはよろしくないよな、と思い直して途中で幕営することを前提に水を4リットル持ってきた。重たいが水が足りないと脚が攣るしー。

 

ゼリー飲料をチューチュー飲んでから10分も歩くとコレから幾度も沢を渡り返しながら登っていく事を思い出した。あんときゃ水量多くて渡渉に難儀したよな~。
ん?ちょっと待てよ。じゃぁ、こんなに水担いでる必要ないじゃん!上行きゃ雪もあるし。
で、背負っていた水を1.5リットルほど、側溝にドボドボ捨てる。軽量化で少しはスピードアップ出来るかな?

 

一時間歩いて美しの森駐車場着。やっと標高1500m。嫌いな舗装路歩きから解放されるが、お次も時間の割に高度が稼げない、ダルい林道歩きの始まり~。
今回はマジメに地形図持ってきたので退屈しのぎに現場と地図をにらめっこしながら現在位置を特定しながら進む。

 

林道が消滅し、沢沿い歩きに入る。岩がゴロゴロしてて歩き辛いな。。。アレッ⁉ 沢に水が一滴もないっ! マジっすか~
多少なりとも雪のある所まで上がって水を作っとかないと明日困る~

新雪溶かして水作るの、時間かかって面倒だなー。独りブツブツ言ってたらカモシカに白い目で見られてしまった。

                        

                                                       カモシカ

 

14:00 出合い小屋着。近くにテントが一張り、山岳テントではないから釣りかキャンプであろう。有難いことに赤岳沢からチロチロと水の音が聞こえるぞ。
少し沢床を辿り、水が滴る場所で持参のペットボトルに水を溜める。2リットルに15分かかっちゃったよ。
ここからが登山の本番だ、戦意高揚の為に握り飯とビスケットをムシャムシャ。

 

              

                           ご存知出合い小屋

 

更に沢を上がっていくと右岸に天狗尾根入り口の看板がある。バリエーションルートなのに道標があるってヘンなの。今じゃ槍ヶ岳北鎌尾根の取り付き、北鎌沢にも看板が立ってるのかも?雰囲気ブチ壊しだな~
薄く雪のついた尾根に入るといきなり急登。時々木を掴んだりしてわっせわっせと高度を稼ぐ。
地図上では1950m付近に平地がありそう。そこで幕営出来ればよいが倒木、切り株及びカモシカのうんこなどで邪魔されるとその次は2350m地点だが時間的にチト無理がある。

いつしか細くなった尾根の傾斜が緩み、雪の凍りついた一枚岩のような露岩の基部をスリップに注意しながらトラバースする。まだ樹林帯なので緊張感はないが落ちたらタダでは済まないだろう。
15:00 岩をぬけると平地っぽいところに出た。思ってたよりもずっと狭い。幕営出来そうな場所は見たところ1箇所しかないがいくらか傾斜している。不満だ。
2350mまで登るか?登ったらもう真っ暗。ここより状態が悪くても戻っては来れないな。で、却下。ザックを降ろし、未練がましく空身で10分登って偵察したが幕営適地は無く、諦めてテントを張る。

樹林帯とはいえ、ヤセ尾根上だから夜間、強風だと吹き飛ばされるんじゃないかとドキドキするぞ。普段は面倒がってあまり使わないガイラインもちゃんと張り、これで安心(多分)。

 

                                      

                           天場はこんなん

 

オニギリを食べ、味噌汁を飲む。スナックをボリボリしながらコーヒー飲んだらこれ以上食べるのが面倒臭くなってきた。
山岳フードはいろいろ持ってきたが高価なもんだから賞味期限がまだ先だとコンビニ握りだけで済ましちゃうな。高価、とは言っても一食当たり数百円。貧乏性で悪かったな。
山頂までまだ1000mも登らなきゃいけないのかぁ。今日はスタートから躓いたしな~。明日は頑張ろー。

18時には寝ちゃったもんだから夜中に何度も目が覚める。4時過ぎるとゴソゴソ起きだして外に出ると木々の間から星が見えた。良かった、風は強いが天気は良さそうだ。
テントに戻り、ラーメン、残りの握り飯なんぞを貧乏くさく貪り、7時に撤収。
明るくなり始めの6時には出発予定だったのに、風の音と慣れない寒さにビビッて7時近くなってしまった。時間ないのに。

ピッケル片手にずんずん進んでいけどもなかなか樹林帯から抜け出ない。気になっていた2350m地点には気分よく幕営出来そうな平地があり、結果論ではあるが昨日頑張らなかったのを残念に思う。
明るくなり、西側、旭岳から赤岳への尾根が見えるが、上部は暗い灰色の雲に覆われている。明らかに自分の白髪頭より黒い、別に羨ましくもないが。


8:30 ひと登りするとガスの中からカニのハサミがぬぼーっと姿を現す。
真ん中を抜けてみたかったが、ガスが濃くてハサミの先がどうなってるのわからないから止めておいた。それに、頑張ればまだ帰りのバスに間に合のではないうかと思い、精神的、時間的に遊び心に従う余裕は無かった。
ハサミを左から巻いたのち、3重の手袋を着けたまま、アイゼン装着。

 

                                                                        

              

                      カニのハサミ

 

岩の壁に突き当たる。確か右、右、左だったよな。アレッ⁈ ルートは左に巻いてるぞ。第一岩壁は右巻きじゃなかったのか??
左から抜けるとまた急坂。木につかまりながら登るが、樹氷がバラバラと首筋に落ちて冷たい。林が薄くなり冷たい風が直撃するようになってきたのでバラクーバを被る。

手がかりがなく、薄く雪のついた泥壁に突き当たるとピックをバスッ、バスッと斜面に叩き込んから体を引っ張り上げて登る。
やがて右に下りながらトラバースするようにロープが張られた箇所に出た。第二岩壁っぽいな。雪が深いと結構怖いかも。今日はラクチン。
ロープ末端まで来ると岩壁の脇を巻き上がるように登る。低グレードでも2500m超えでのクライミングは心肺がキツイ。

登り終えて視線を上げるとさらに高い岩尾根が屏風のように立ち塞がる。ガスに包まれ威圧感抜群。こんな展開は想像してなかったぞ、ルートミスしたかも。
岩尾根のリッジにはとても上がれそうにないから巻くのであろう。まずは尾根の右側の鞍部を目指して進む。
岩の基部まで登って行き詰ったらどうしよう。さっきの岩場を下るのは結構ハイリスク。ロープ持ってこなかった事を悔やむ。落ちたら奈落の底。アルパインとはそういうもの。

どこにルートをとるか見まわしていると幾らか霧が晴れ、ヌッとでかい頭が現れる。この形は写真で見たぞ、そうか、ここは大天狗か。
少し登り、右に回り込むとハイマツの海に阻まれる。ルートを外しちまったなと思いつつも、岩場を下るより突っ込んだほうがローリスク。リッジに向け、全身の力を振り絞ってハイマツに逆らって進もうとするが一歩進むのすら大変な労力だ。
一歩進んでは息を整え、次の一歩をどっちに向けるか観察、を繰り返す。たかだか十数メートルが中々突破できない。その先にはまた岩壁が行く手を塞いでいる。正規ルートを外れてる以上、厳しい登攀になるかも。

 

                       

                                                                                     

                          大天狗

 

もうバスの時間などどうでもよくなり、ミスしないことだけを念頭に慎重に行動する。いつ足場が、掴んだ岩が崩れるか分からないのだ。岩場を抜ける風の音がゴーゴーと迫力満点。
視界は悪いから満足にオブザベもできない、岩登りの途中で行き詰ったら万事休すだな。空気は薄く息が上がるし、空は濃い灰色、指先は冷たさでビリビリ。メンタルキツイわ~。

再びリッジに上がり進んでいく。風の通り道では、すごい勢いでガスが流れている。相も変わらず視界は30m程度。風を避け岩陰に入って息を整えていると前方、灰色の中から特徴的な岩塔が浮かび上がる。
アレは間違いなく小天狗。もうすぐ一般ルート、オレはまだ生きている。天気よかったら気分良いだろうな…

 

 

                                

                                                                    小天狗  

 

                               

                           真下から見た小天狗

 

小天狗を巻き、ダラダラ進んでいくと岩に丸くマーキングしてある。あれま、一般ルートに合流?周りが全然見えないから気付かなかったわ。さらに進むと鎖場があり、一般ルートであることを確信。
バンザーイ!天狗尾根切り抜けたぞ~

11:20 ガシガシ進んで無人の赤岳山頂着。天望荘方面に下り始めると地蔵尾根から登ってきたという3人組と挨拶をかわす。
オレは単独でアルパインだぜっ。自慢しようと思い、自分は天狗尾根からと言ったが、分かってないようであった、残念。
山中で見た人間はこの三人だけ、誰にも威張れず下山。。。

 

                                                                                       

                                                                                                           

                赤岳山頂

 

チャンスがあれば大天狗直登ルートやってみたいっす~