3月に北ア・唐松岳へ登って以来、久々のブログ更新だが、この間、寝ていたわけではないぞ。
4月妙義山、5月乾徳山、6月笠ヶ岳、7月奥多摩と、とても冒険的とは呼べないぬるい戦いを順調に続けておる。
それでも、平穏無事なのばかりではない。6月は悪天で頂上付近の平地に届かず、無理やり傾斜地の笹薮上にテントを張ったら(当然ながら)フロアが浮いてテントがブワンブワンして
居心地悪いったらありゃしない。
ゴソゴソしてたらしまいにゃテントが横倒しになり、ファスナーから浸水した雨水で足周りをベチョベチョにしたりと、まぁ、いろいろありますわ。
山に限らず20年前には実現不可能と思っていた事を実現し、そろそろ限界も見えてきたし、「現世に大して未練はねぇよなぁ~」
と、ヤケクソ的な登山をやって来たが、最近、神のお告げか限界がまだまだずっと先にある気がしてきた。
「神のお告げ」なんていったら知り合いに「なんだオマエ、また変な宗教にハマってるんじゃないだろうな」等と言われてしまった。
「また」って何だ?「また」って。
なんだテメエ!いつ自分が宗教にハマったと言うのだ。自分は無神論者なんだよ!
無神論者の「神のお告げ」発言は矛盾しちゃぁいるが、人間の心なんて矛盾の塊なんだから、ツッコまないのが大人ってもんですぜ。
まぁ、そう言うワケで、限界だと思っていたのは単なる壁に思えてきた。単に都合のいい幻想かもしれんが。
じゃぁ、その辺がはっきりするまで、くたばらないように安全登山で暫く延命しましょうよ、とケチ臭いことを考え始めた今日この頃。
安全登山なんて考えただけで緊張感ゼロ、気持ちはだらけ、パンツ一丁で寝ころび、あくびをしながら蚊に刺された尻を掻く。
尻を掻き壊しながら地図を片手に目ぼしい山、ルートを探していると「聖」の文字が目に入った。聖岳だって。なんか神々しいぞ。
ここへ行ったら俗なる自分が聖なるモノに出会えるかも。日本最南端の3000m峰ってのも気に入った。。。自称アルピニストは3000mブランドに弱いのだ。
話は一気に飛んで8月2日、太陽にじりじりと照らされる登山口の便が島に着いたのが14時30分。暑い盛りですな。
標高1000mにちょっと足りない。
休業中の聖光小屋は森を切り開いて建てられているので周囲は深い森。
湿度は高く、すんげー暑い。ムワっとする草いきれ。追い打ちをかけるように登山者用駐車場の焼けた舗装面から熱い空気が流れてくる。
靴紐を締めるだけで汗だくだ。これから登るんですかい?てか、こんな中、登れるんですかい?
聖光小屋 登山口
ガンガン歩いて時間短縮、マップタイム6時間半の聖平小屋まで日があるうちにいっちまえ!などという自己都合満点の野望はココの暑さに打ち砕かれたのであった。
小屋に至るまで水場はないから時間切れでビバークする場合のことを考えて水を4リットル持つのは計画通りだが、出発前からくじけるとは。。。
フォースト・ビバーク前提登山、言い換えるとプチ遭難前提だ。
国立公園内は指定地以外キャンプ禁止ですからね。。。。時間切れによる緊急露営なんですよ、とセコく自己弁護しときます。
15時
なんでこんなにクソ暑いのに南の山なんかに来ちまったんだ、と、浅はかな自分を呪いながらだらだらと準備し、登山口に向かう。
登山口から一段上がると自動車のわだちが残る、林道っぽい路に出た。左に森をまとった山肌、はるか右の崖下には沢の流れだ。所々左手の山が崩れた跡があり、路に堆積した土石を乗り越えながら進む。
この辺はうまい具合に緑の広葉樹が陽光を遮り、暑さを緩和しているから気分も機嫌も良くなる。自然は偉大だ。
轍の道 眼下の沢
まだ青いクルミの実がゴロゴロ転がっている。もっといいもん落ちてねーかとキョロキョロしてると。。。
おっ、この小さいのはサルナシか?ちょいと齧ると辛いこと。。。
後で知ったがアレはマタタビらしい。生のマタタビは高く売れるんだって。
ちぇっ、知ってりゃ登山なんてやめて駄賃稼ぎに走ったのに。
こういうことは下調べがものをいう。
小学生の時にそういった習慣を身に着けとかないとこういった憂き目にあうのだ、オイ、分ったか、そこのボーズ。
16時20分
西沢渡に着く。標高約1200m。歩き始めには、遥か下に見えていた沢が高度を上げ、これを登山道が横切っているので渡渉する。
此処には荷物用人力ロープウェイが流れを横切るように設置されていて、降雨時の激しい増水が想像される。
対岸の登山者が面白半分に空荷のロープウェイを移動させ始めたが、結構力が必要らしく、途中で挫折しておった。
こういうクソ暑い日には余計な事しないに限る。
ロープウェイ 折角だからもう一枚撮ってみた
沢を渡ると登山道。暑いし、あまり風もない。山の雰囲気は地元の丹沢みたいでアルプスっぽくないし、わざわざ遠くまで来たのにいいことねぇ。
経験上、登れば上るほど涼しくなるもんだが、今回はスタート地点が1000mと低いため、絶望的に涼しくなってこない。
たまにそよ風が吹くと大儲けした気になる。
地形図上、1700、出来れば1900mまで上がれば傾斜のあまりない部分がある。明日以降の行程を考えれば1900mまで頑張って幕営したいものだが、
そこまで根性が続くかどうか。。。
下山組の4、5パーティとすれ違ったが、さすがにこの時間に登り始めるモノ好きはいないようだ。
1500、1600と高度を示す看板が木に取り付けられていて、これを励みにカラマツ林の中を登る。暑い。
途中、幕営適地を見つけ、心惹かれるが何とか歩みを止めずに進み続ける。
朽ちた倒木には例外なく厚い苔がついている。
だいぶ日が傾いてきた。
苔むす岩 倒木と根っこ
1900m地点で幕営適地が無かったらどうすべぇ?いくらフラットだって倒木だらけだったらテントなんか張れないし。
とにかく早く着かなくっちゃ。
夕暮れ時にこんな心配をしながら先を急ぐのはホント、精神的に参る。。。
毎度のことだが。。。
学習能力がないんだよな。。。
18時を幾らか回ったところで1900mとおぼしき地点。荷物を置いて辺りをぐるぐる歩いて快適な幕営地、じゃなかった、ビバーク適地を探す。
テントを張るとほっと一息。日は暮れて、寒くも暑くもない。
今日の獲得高度は約1000m。山頂までまだあと1100m。明日も今日みたいに暑かったらと考えるとメゲる。
焼肉は飽きたのでネットで調べた山岳食べ物、梅しそご飯と我が家の定番手抜き料理、カジキのイタリア風ソテーを食らうと、取り敢えず寝る。
bivouac でっす
8月3日
取り敢えず寝たら夜が明けたので取り敢えず起きる、てか、6時に登山者の声に目が覚めた。6時にこんなところを通過するとは何時に歩き始めたのだろう?
今日は山頂を踏んで聖平小屋までの予定なので時間的余裕があるハズ。で、だらだらしている。
7時過ぎに撤収完了し、相変わらず厚い苔に覆われた岩や倒木を見ながらカラマツ林の斜面を登る。傾斜はきつくないが、寝起きで体の動きが悪く、きつい。
ルートは昨日からほぼ一貫してずっと登りだ。
小ピークもあるにはあるが、大きく下ることはなく、効率よく高度を稼いでいる。。。。ハズだがなんかいつまでたっても似たような森の中。
これが南ア、深南部の真骨頂なのか???......嬉しくねぇ~
標高2200mを超えると徐々に空気の乾きを実感するようになり、ようやく高山ぽくなってきた。だが、辺りは相変わらず見渡す限り倒木と苔だらけの鬱蒼とした森。
自分は性格的にアレだから延々とこういうのか続くと飽きる。実際飽きてきた。
変化のない山にフォーカスするから飽きているので、たまにすれ違う下山組の山ガールでも観察すりゃいいことに気付く。
お、来た来た、ゾロゾロ来た。な~んだ、30才若けりゃ山ガールなのに、と自分のことは棚に上げてブツブツ。。。
元山ガール軍団の揺れ動く腹の脂肪に目を奪われる。
ブルン、ブルン、ブルン!
す、スゴイ!そんなもん街に置いてくりゃもっと楽に登れるんだよ。
親切に教えてやろうかと思ったが、オバハンの怒り顔を想像したら怖くなってやめた。
足元には中世の拷問具を連想させる棘だらけの葉っぱが生い茂っている。こんなので引っ叩かれたらたまらんから黙ってよ。
ちょっと棘を触ってみたら結構痛そう。口は災いの元だナ。
9時30
もういい加減に森林限界を抜けてもいいんじゃね?と思い始めてから幾年月。
突然、今までの鬱蒼とした森から抜け出し、バーンと視界が開ける、バーンとだぞ。ココは薊畑。
黄色や青の花は咲いてるが、見たところアザミなんて無いぞ。
看板に偽りアリ。
青空に上河内岳、赤石岳、そして聖岳が映える。広がりのある遠景、乾燥した空気、そして聖岳の佇まいに高山を実感。
2、3人の登山者とは別に5、6個のリュックが置いてある。きっとここから聖岳をピストンしてるんだろうけど、みんな度胸あるね。
往復4時間とはいえ、この高度で何もかも置いてったらワンアクシデントですぐ面倒な事になるぜ。まぁ、怖がりの自分から見ると自殺行為に等しいですな。
それよりなにより、リュックに財布は残してあるのか、そして拾ったと言い張れば1割くれるのか?気になるところだ。
20分ほど下ったところにある聖平小屋にテントを張り、身軽になって山頂ピストンというズルをすることにして、小屋へ向かう。
高山植物が咲く中、少し下ると高原の中に木道が足に優しい。ここは日本か?木道よ、どこまでも続け!
頭の中ではアイネクライネ・ナハトムジークが奏でられている。あのバイオリンの高音が響く。
艶っぽく伸びる高音を表現できるスピーカーが欲しいもんだが、金がねぇ。ウチのアンプはどのスピーカーと相性が良いんだか調べるのも面倒くせー。
まぁいいや。どうせスピーカーは喰えねぇし。
聖岳を見ながら小屋へ 何たる気分の良さ
小屋でショバ代500円払うと、フルーツポンチのサービス。直径50㎝ほどの鍋に入ったやつを備え付けの紙コップにいれて食べる、ウマイ!
5杯くらい喰ってやろうかと思ったが、小屋番の視線を背中に感じ、思いとどまった。
テントを張ると必要最小限のものをかき集める。アレもいる、これも必要、万が一にはこれがないと。。。。自分は心配性なのだ。
それでもテント、シュラフ、食糧半分および予備の水筒を出したザックは格段に軽くなった。
快適なテント場 アレが聖平小屋
時刻は11時30分、さあ行くぞ、と聖岳方面を望むと雲が出始めている。まぁ、そんな時間だよな、と頂上では雨にやられることを覚悟し、来た道を戻り登る。
山頂までマップタイム3時間弱、往復で4時間40分だから特に急ぐ必要はないが、さほどのんびりできる時間でもない。
それでも今日はテン場が確定しているから暗くなって帰幕しても問題なく、気が楽だ。
そこここの花を見ながら登っていく、今回はついにお気に入りの高山植物、トウヤクリンドウには出会えなかった、残念。
13時
小聖岳を通過、赤石岳の上部は雲に覆われている。聖岳の山頂も雲に取り囲まれ始め、時折すっぽりかぶっている。オオ~雲よ、もちっと待ってくれ~!
3000m峰とはいえ、最南端のためか、どっちを向いても雪渓などない。雪渓どころか雪のカケラもない、3000m峰のクセに。
ハイマツにガラガラの岩が高山っぽい。2600mを超すとさすがに暑さは感じなくなった。
小聖岳からの聖岳山頂は雲の中 赤石岳
流れる雲に聖岳山頂が見え隠れするのを睨みながら進むと足元にライチョウが。
こんなところにも生息してるのね、見られてラッキーと思う一方、気温の低い北へ引っ越した方が暮らしやすいんじゃないか等と余計な心配をしてしまう。
久しぶりの高山だが、思ったほど空気の薄さが気にならないのは、プール通いのお蔭か?
それでも大分ダレてきた。あそこに見えているのが山頂なのか?それともあそこにたどり着くと次のピークが姿を現しガックリするのか?
14時30分
ヤレヤレ、聖岳に登頂したぞ。先客が2人いたがすぐ降りてしまい、山頂は貸し切り。広く、静かな山頂はどっしりとした南アの山そのものだ。
上空だけは何故か青空、雲は忙しく周りを囲ったり、流れ去ったりと高山してる。にょきにょきと立ち上がる積雲が夏の空。
雨の心配どころかまだ遠景が楽しめるとは何たる幸運。山頂標識に目をやるとその向こうにほほ笑む女神が見えたような。。。
その名にたがわず聖なる山だ。
後続の登山者はなく、誰も登ってこないのもまた運がいい。
呑気にコーヒー飲んだりビスケット食べたりしてたら眠くなった。と、次の瞬間寝落ちしていた。。。
実は、眠くなると3秒で落ちるのが特技だ。
15時30分
静かな山頂は気持ちよく、1時間も過ごした後、下山に入る。雲は高いが時折雷がゴロゴロやってて気味が悪い。こんな露岩帯だと逃げ場がねーぜ。頼むぞ女神様。
さっさと降りちまわなくっちゃぁ~、とガシガシ下る。下りは心肺機能に負担がかからないから一気だ。
2400m辺りまで下ったところで雨に捕まり、カッパを着る。風もなく、雨はひどいものではないが、雨粒がやや大きめだから早めのカッパってことだ。
カミナリはおとなしくしてくれて有難い。
17時20分
断続的に雨降る中、帰幕。たまに雨脚が強まるが、やがて止みそうな気配。
整備されたキャンプ指定地は水もトイレもあり、快適だ。何より地面が平らで寝心地がいい。これでショバ代500円なら安いもんだ。
このテン場は標高2300mの割に気温が高く、寒くない。
うどんを食べると、シュラフのファスナーを全開にし、布団みたいに体にかけて寝る。
山でこんな風に寝るのは初めてだ。
山頂の景色を思い起こす。
人気のない山頂は神聖な感じがしたよなぁ~、あそこが登山者でごった返してたら雰囲気ブチ壊しだ。
聖岳の聖なる部分を垣間見ることができてラッキーだ。
翌朝、目を覚ますと膝から下を得体の知れない虫に刺されまくってましたとさ!
聖なる虫? フンッ!
キタネー足出してすまん!