2014年8月3~4日 奥穂高岳
華々しく北アのクラシックルート、前穂北尾根を登る計画を立て、あちこちで吹聴したのに雨で単なる歩荷修行ハイキングになっちゃった。あ~あ。
秘密裏にコソっと行けばよかった。最近は喋りすぎか。
8月3日
数日前まで晴れだった予報が前日になったら雨にチェンジ。中止の文字が頭をよぎったが、登山口まで入ってみる事にした。
上高地まで行って気乗りしなかったら観光して帰りゃいい。
5時に家を出、電車乗り継ぎ八王子へ。特急スーパーあずさに乗り換えたら劇混みで松本まで立ちっぱなし。
曇り空の上高地着が12:00。涸沢まで6時間は掛かる、ぐずぐずしている暇は無い。
すぐさま帰りのバスの手配をし、持参した登山計画書をポストへ投げ込む。
12時30分、靴紐を締め、観光客を縫うように避けながらTシャツ一枚で歩き始めると雨粒が額に当たる。やっぱりこれだ。
先週の山梨県、日帰りハイキングはまずまずだったが先月、上越行った時には雨粒に弾かれながら歩いてるうちに嫌になっちゃったんだよなぁ。
去年の北海道でも降られたし、雨男になっちまったか。
涸沢までマップタイム通りに歩いても18時40分到着、闇は近い。
天候ばかり気にしてせっせと歩く。明神岳の上部はガスの中で景色もヘッタクレもありゃしない。
頑張っているのに軽装の登山者にどんどん抜かれて口惜しいが、先は長い。
見栄張っちゃいかん、マイペース、マイペース。
明神館、徳沢ロッジと山小屋を通過するたび登山者が山小屋へ吸い込まれていく。徳沢のテン場は気持ち良さそう。今は単なる通過点に過ぎないが、山登りできないくらいヨボヨボになったらここにテント張ってのんびりビール飲むんだ~~♪。
徳沢を過ぎると雨がザーッと降ってきたのでカッパを着る。しばらくすると降ったり止んだりになったがカッパを着たまま歩く。
やっと横尾山荘着。この時間にここまで来る登山者は少ない。天気も天気だし、この先へ進む者はいないようであった。
もう15時30分だから山中では先へ進むほうが非常識というものだ。
ザックを下ろし、しばし休憩。テント泊の単独ジィさんがとなりのテントのやはり単独の若者に対し、若い頃はあそこのルートを通っただとか、どこそこは危ないとか一般ルートの講釈を自慢げにして、煙たがられている。話がしたきゃ単独行なんてよせばいいのに。
今日はあと3時間の行程だ。山荘を背に目の前のつり橋を渡ると「午後2時以降はこの先へ進まないように」なんて看板が。。。
今更そんな事いわれても困る。今日中に涸沢に着かにゃならんのだ。
看板に書いてあるタイムリミットの2時にここを通過して3時間歩けば5時着だ。今日の到着予想時刻は6時半。その差1時間半。ヒュッテで四の五の言われたら足が遅いだの道に迷ったのと言えば誤魔化せると判断し、先へ進む。
小屋泊まりならいざ知らず、テント泊だから遅く着いても食事や就寝スペースの割り振りで小屋番に迷惑がかかることは無いだろう。
相変わらず雨が降ったり止んだりしているが、屏風岩は上部まで見通せてちょっといい気分。
「明日の北尾根もこんな感じだといいなぁ」なんて都合のよいことを期待してみたが、屏風の頭はせいぜい2600メートル。一方、前穂高北尾根の核心、P3は3000メートル近い。明神岳の上部も厚い雲に覆われていたからやっぱり駄目かのぉ。
いつまで歩いても屏風岩が視界からなくならない、なんちゅう長い道のりだ。前回来たときは、上高地から涸沢まで、一投足だったような。。。思い出として美化されているのか。
歩き飽きてきた頃に本谷橋を渡る。このミニつり橋、ぐらぐらしてオモロイ。地図を広げるとまだ2時間もある。時刻は16時30分ってさっきから1時間しか歩いてねぇじゃん。
更に一時間も歩くと心なしか幾分暗くなってきた。雲に覆われたカール状地形の下部だけが見えはじめる。「到着か?」いや、まさか。涸沢カールと言ったら雄大であんなにしょぼくなかったはず。
「アレじゃない、アレじゃない」と自分に言い聞かせながら登っていくとヒュッテの屋根が見えてくる。アレだった。涸沢カールはしょぼいのだ。過去の記憶なんてこんなもん。17時50分、涸沢到着。
早速テントを立てると北尾根の偵察に向かう。ヒュッテの西側、一段高くなったヘリポートの上をウロウロしてたら遠くから小屋番に「そこにテント張らないで下さ~い!」とか悲愴な声で叫ばれた。ここじゃヘリポートにテント張るバカがいるのか?
北尾根を見上げる。雲がかかって全然見えない。5,6のコルに向かうには下から3番目の雪渓を辿れば良いことは分かったが、視界は悪すぎ。5峰どころかコルも見えてない、上部は雨だろう。そして急斜面の雪渓がずっと上まで延びている事に愕然とする。
過去の記憶では雪はカール底部にしかなかったので、なんとアイゼン、ピッケルを持ってこなかったのだ。せめてどっちかがあれば、滑落リスクは格段に下がるんだが。。。。
『経験値が低いと想像力に欠ける』を実践してしまった。
アプローチ段階の雪渓に跳ね返されるとは何たる失態。
手垢の付いたようなルートだから、ここをベースとして必要最低限の荷だけに絞ってしまえば難易度はずっとさがり、雪渓はもちろん核心の岩場も(多分)登れるだろう。が、それは『初めてのルートをひとり、全てを担いで』という自分の理想とする登山ではない。
せめて天気がよければチャンスはあるのに。。。明日に期待し、就寝。
8月4日
4時、雨が降っている。時折テントを強くたたく雨音。起きるのメンドクセ。
5時、ザー、ザッザッザーーーー。あーあ↓ 北尾根は無理だな、一般ルート歩いてもしょうがないし、家に帰ろうかな?
6時、ザー、ポツポツ、ザー。やっぱし雨オトコだ。それなら雨でも遊べるようにならなきゃ。オートバイだって雨の日を嫌がるやつは決して巧くならないんだ。雨中登降ノウハウの確認と精神修行を兼ね、普通に奥穂まで上がってみよう。
7時、撤収完了し雪渓上をザイテングラートに向けて登り始める。相当数の下山者とすれ違ったものの、こんな日に登ろうとするアホは自分だけしかいないようだ。すれ違いざま「今日が下山で良かった」という呟きが聞こえた。全く正論ですが、そんな事言ったってしょうがないじゃん、雨オトコなんだから。
いつもは7ミリ30mのスタティックロープだが今回は10ミリ、40mのシングルとした。ロープだけでもぐっと重くなったので徹底した軽量化を図り、余計なガラクタは持っていない。が、出番の無くなった登攀具だけでも8キロくらいはあり、ザックはやっぱり20キロを軽く超えちまっている。
雨の中カッパ着て重荷背負って景色の無い山路を登っていくってのは単なる苦行。
泣き言は言うまい。雨オトコの中の雨オトコを目指し、雨の山で舞い踊るのだ。カッパはもちろん Rain dancer!
ザイテンに取り付くと高度計を確認しながら登る。2450m、もう甲武信岳の高さだ、2700m、金峰山に登った事になる。つまんねぇし、もう下山してもいいかな?イヤイヤ、もう少し。2900m、鳳凰三山は超えたぞ。。。。このくらいしか楽しみが無い。
ところどころ登山道に迫る雪渓は厚く、吹き上げる風は冷たい。
9時20分、雪田だか雪渓だかの向こうに濃いガスの掛かった穂高岳山荘がヌボーっと見え、ほっとする。雨に弾かれながら小屋前にある石造りのテーブルいすに腰を下ろし、ボケーっとしてみる。あと1時間足らずで山頂か、結構簡単に着いちまったなぁ。
晴れてりゃわんさか人が居るのに今日は無人、貸切状態だが雨だし寒いし全然うれしくない。
小屋から出てきた軽装の3人組が山頂への岩場を慎重に上がっていく。じっとしていても寒いだけなので自分も濡れた岩場に取り付き、鎖場、梯子と登っていくと彼らに追いつき、先行させてもらう。風速10メートルくらいの冷たい風が絶えず吹いていて、止まるととたんに体が冷えるので休まず歩き続ける。
相変わらずガスに巻かれて遠望は全く利かないし、一泊して高度順応したせいか空気の薄さを感じる事も無く、高山に来たような気がしない。
冬の丹沢みたいじゃのぅ~。
10時、奥穂高岳山頂は思いっきりガスの中。ヤレヤレ、登れてよかった。それなりの満足感はある。途中でやめなくてよかったワイ。
ここに来たのは3度目。初回は北鎌から縦走してきた。2度目は西穂へ縦走した。今回はこのまま下山、一番しょぼい。
さっきの三人組の一人、空身のおっちゃんが登ってきた。頂上の祠を目にすると嗚咽を漏らしながら涙ぐんでいる。
おお、そうかそうか、辛かったんだね。もらい泣きしそうだ。
後から登ってきた同行のオバハンに「写真取るからこっち向いてー」と声をかけられた時、泣き顔を見せたくないのか、あたふた動揺している姿に今度は吹き出しそうだったぞ。
泣きそうになったり、笑いをこらえたりと人生忙しい。
写真を撮れば用済みだ。吊尾根を岳沢方面へ向かえば風はますます強まり、吹き上げられたザックのベルトが、顔面を叩く。体温低下防止を期待して頻繁に糖分補給しているが、ちょっと冷えすぎ。今回は軽量化のためポットも持っていない。高度が下がれば天候はマシになるさと自分を励ますが、なかなか2900mを割り込まず、精神的に辛く、肉体的には寒く、精神的、肉体的にダルい。
「もうちょっと冷え込んだら何か着込もう」とか思うものの、真横に走る雨粒の中、止まるのも着替えるのも面倒臭く、やらない言い訳を見つけながら歩き続ける。
12時に前穂高への分岐を過ぎると登山道はどんどん高度を下げる。13時を過ぎた頃には雲の下へ抜け、上高地方面が見えるようになった。
15時30分、岳沢小屋着。ここでテン泊するかちょいとばかし迷ったが、まだ明るいので下山を続ける。
16時20分、無事下山し、トレーニング終了。最近訓練ばっかり、本番に挑戦する日は巡って来るのかな?まぁいいか、どうだって。