ここで僕はもう一つ,興味深いような,しかし恐ろしいような光景を目にした。それは以下のようなことである。
 
 僕らのコンパートメントに,ブルガリアの途中の駅からトルコ人らしい老夫婦が乗り込んできた。×××がトルコ語で彼らと何やら話をしていたのだが,それによると,彼らは今からポーランドに行くという。彼らはとてもたくさん荷物を持っていて,少し分けて持ってくれないかなどと僕らに頼んできたが,何となく彼らの態度がおかしいので,僕等は即座に断った。
 
 ルーマニアの国境審査のとき,係員が彼らの荷物の中を調べた。そして,その直後,彼らと係員との間で何やら押し問答が始まった。やがて,その老夫婦は荷物もろとも列車から降ろされ,ホームの反対側にやってきた,ブルガリアに向かう列車に押し込まれた。強制送還だ!
 
 彼らがルーマニアかポーランドかどこかに密航することを企てていたのか,あるいはそうでなくても,何か良からぬものを持っていたのかはわからない。しかしながら彼らは送り返されてしまった。そして,そのやり方というのが,また実にひどかった!彼らは対向線の列車に,背中を蹴られるように押し込まれたのだ。首根っこを掴まれて僕らの列車から引きずり出され,ルーマニアの国境警備兵や警察官らに散々小突かれた挙句にあの仕打ちだ!もう少し穏やかにできないものか。いまだにこの国の行政官たちには,人権感覚というものが欠落したままのようだ。まあ,独裁体制の終焉後,ほんの数ヶ月でそのようなものを身に着けよという方が無理というものかもしれないが...。
(7月15日<その12>に続く)