なつかしのバシュメット | ムル☆まり同盟

なつかしのバシュメット

ヤルヴィ(ネーメ), Juri Bashmet, バシュメット(ユーリ), ムンチャン(ミハイル), ロンドン交響楽団, ブラームス, シューマン, エネスコ, ショスタコーヴィチ, ブルッフ
VIOLA LEGEND~ユーリ・バシュメットの軌跡

 ここ数日、ユーリ・バシュメット氏のこのアルバムを繰り返し繰り返し聴いている。モスクワのにわかクラシックファンが必ずはまるユーリ・バシュメット氏のビオラ。彼はモスクワ音楽院の先生で、モスクワ、ペテルブルクで開催される数多くの音楽祭を監修する音楽監督で指揮者でもある。


 このブログを始めた頃に一度取り上げたことがあるが、モスクワにいる間に最も惹きつけられたものの中に、シュニトケの音楽とバシュメットのビオラがある。


 このアルバムには、そんなバシュメットが得意とするレパートリー曲が詰まっていて、2枚目の最後は、シュニトケの「(ビオラとオーケストラのための)モノローグ」が飾っている。この曲は、シュニトケの作品の中では「コンツェルト・グロッソ Nr.1」と並んで私のお気に入り。シュニトケがバシュメットに贈ったもので、初演ももちろんバシュメットである。モスクワでチェロを習い始めた頃、先生が毎週のように「ビギナーのための必須音楽」のテープやビデオを持ってきてくれたが、その中の1本に、ロストロポービッチのチェロ曲数曲とともにこの曲が収録されていて、それが、私のこの曲との出会いだった。その後、今でもバシュメットのお気に入りらしいこの曲は、氏自身の演奏で、何度か生演奏を聴く機会があった。


 久しぶりに聴いたが、やはり素晴らしい!うーん、胸にぐっと来る感じ…。1曲目に収録されているブルッフのロマンスも大好きな曲だ。


 モスクワの記憶は、日本での新しい記憶に書き換えられ、日々、薄れつつあった。が、このCDを久しぶりに引っ張り出して、モスクワの何がそんなに好きで何にそんなに惹かれていたのか、少しずつ記憶がよみがえっていた。


 挙げればきりがないが…。


 バシュメットやシュニトケの音楽は、モスクワで聴くからいい、みたいなところもあった。


 凍えるように寒い真冬でも、夜毎、その日のプログラムを聴きたいがために、バスや地下鉄を乗り継いで、外国人ならタクシーか自家用車で、たくさんの人たちが集まる。あんなに毎晩毎晩演奏会が開かれているのに、客席はほぼ満席のことが多く、ましてやバシュメットなどの人気演奏家のときは、チケットが確保できないこともあった。モスクワ音楽院の学生たちは、許可されているのか、そんな人気演奏会の際は、3階席の階段や通路にもびっしりとつめて腰掛けていた。


 そんなふうに集まった人たちだからか、コンサートホールには不思議な一体感がひろがる。演奏者と聴き手全員がひとつに溶け合うような何とも言えない雰囲気が漂い、音楽にすっぽり包み込まれるような心地よさがある。


 もちろん気候のよい時の演奏会もよい。ホールの窓から見える白夜のほんのり明るい空は幻想的だし、演奏会終了後、外に出た時の心地よい風と開放的な明るさが、今聴いたばかりのよい音楽の余韻を心地よく引きずらせる。


 けれども、モスクワはやはり冬だなぁっと思ったりする。厳寒の中でこそ生まれる、あの緊迫感のある音楽、その中に散りばめられた温かさは、南国の底抜けに明るいものとは明らかに性質が異なる。


 色々な意味で、日本で同じような感覚を味わうことは難しいように思う。


 コンサートの頻度やチケットの価格、他の娯楽の少なさ等々、様々な理由で、モスクワでは、私のようにあまり音楽に詳しくない人でも気軽にこのようなコンサートに足を運び、詳しくない者どうしで、今日の演奏はどうだった、こうだったと話せる雰囲気があった。クラシックは大衆のものという感じだった。(一番安い席は、大ホールでも100ルーブル(=約400円)!) が、日本でこの手の有名かつ人気アーティストの演奏会といえば、チケットは高いし、発売までに行くかどうか決めておかなくてはあっという間に売切れてしまう。


 また、そこまでして集まる人たちだから、クラシック通だったり、お金持ちの奥様だったりして、どうも、庶民としては足を運び難い観がある。「そこまで苦心してチケット取って、そんなに高いお金出して、きてぃさん、その良さわかるの?」みたいな風潮もあり、詳しくないと行きづらいような感じもする。(って私が勝手に思っているだけだろうか。)


 ということで。


 モスクワ、懐かしいなぁ~、と私に思わせる事柄の中に、クラシック音楽が大衆のものであること、冬の寒さの中、演奏会に集まった人たちの不思議な一体感、などがある。