「ロシア正教の千年-聖と俗のはざまで」 | ムル☆まり同盟

「ロシア正教の千年-聖と俗のはざまで」

churchtour

ツアーで見学した教会の1つ

広岡 正久
ロシア正教の千年―聖と俗のはざまで

ある集まりで、年配のアメリカ人女性と顔見知りになった。きっかけはチェロ。2人とも、長年習ってみたかったチェロをモスクワに来て始めた、ということで、色々と話が合った。少し後でわかったことだが、実はこの方、歴史学を専攻するNY大学の元教授だった。たまたま彼女の車が来なかったので、私が呼んだタクシーで一緒に帰ったときにわかったことだ。


歴史学者だけあって、まだ数年しか住んでいないモスクワの歴史にもとても明るい。車をご一緒したとき、車窓から見えるすべてのものを詳しく解説してくださった。道が渋滞してくれたおかげで、「プライベート・レクチャー」を1時間以上も無料で受けることができて、私はとても運がよかった。


そのときの彼女の勧めで参加したのが、「旧教徒の教会めぐり」だった。プロの歴史家に「これが、モスクワで最も興味深い観光コースだ」と勧められれば、何が何でも参加してみたくなるというもの。友人2名を誘って参加したのは、その年の秋もかなり深まってきた頃のことだった。


ロシア圏に正教会での信仰が伝えられたのは、今からおよそ1000年前、988年、キエフ大公ウラジーミルが洗礼を受け、国教と定めたのが始まりだ。その後、あらゆる宗教のご多分にもれず、政治と宗教は複雑に絡み合い、教会内の内部分裂もあり、最後には、皆さんご存知のように、粛清にあってしまい、多くの教会の建物が破壊されたりもしている。


そんな中、宗教改革の際、古くからの信仰形式を貫いた旧教徒たちがいた。彼らは改革派からの迫害を巧みに逃れながら、昔ながらの信仰を貫いた。


ツアーでは、旧教徒の教会と新教徒の教会、墓地などを見学し、その信仰方法の形式的な違いや歴史についての説明を受けた。「旧教徒教会めぐり」という名前のツアーだけに、説明も比較的旧教徒側の立場からなされるものが多かった。


その点、この本の著者は日本人の歴史学者なので、極めて公平中立な立場から、事実が客観的に述べられている。キリスト正教の伝来から今日にいたるまでの流れがよくわかる。


その国の文化を理解するには、その宗教はとても重要だ。日本のように無宗教の国ですら、仏教抜きでは語れない「日本の心」はたくさんある。この本も「行く前に読んでおけばよかった」と深く後悔させられた1冊だ。


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同じくツアー中の1コマ。概して、旧教徒の墓地は、一般の正教会の墓地の一角にある。一般の信者が棺を土の下に埋めてしまうのに対し、旧教徒は埋めずに地上に置くので、違いは一目瞭然だ。