呪術が支配するカレリアの生活 | ムル☆まり同盟

呪術が支配するカレリアの生活

村  

知人のFさんはロシアの民間伝承を研究している。趣味ではなく「人類学」として研究している。そんなFさん、約2年前にカレリア地方に約1ヶ月のフィールドワークに出かけ、この地方の呪術を調査し、その成果を論文にまとめこの春発表した。帰国後、食事をご一緒する機会があったので、私もそのレジュメを1冊いただいた。

 以前、サンクトペテルブルグからカレリア地方を川と湖沿いに船で下る5泊3日のツアーに参加したことがある。そのとき私に植え付けられたこの地方の印象は「おとぎの国」だった。川沿いには広大な自然が広がり、単調な風景が何時間も何時間も続く。ときおり村に差し掛かると、そこはまさに「昔話」の世界で、女性は川で洗濯をしているし、子どもたちは真っ裸で川に飛び込んで遊んでいる。昔ながらのかわいらしい木造住宅が点在している。そして、その誰もが、通りかかる船を見つけるとさっと立ち上がり、大きく手を振ってくれるのだ。なんてのどかなところだろう、なんて純朴そうな人たちが平和に暮らしているのだろう、とモスクワから来た私はただただ感動したものだった。

 けれどもそれは、外国人と金持ちの勝手な妄想だったようだ。(ロシアでそんな長い船旅に出かける余裕があるのは、そこそこお金のあるロシア人か外国人だけだ。) 彼女の論文によれば、小さな村、少ない人口なだけに、人間関係は大変複雑で、ひとつ間違うととんでもないことになる。そして、それは都会のそれよりもずっと手に負えない。なぜならば、この地方には数多くの呪術師が住んでいて、憎しみや憎悪は「呪いをかける」という恐ろしい形で表現され、それにより、病気になったりけがをしたり、様々な不幸が降りかかってきたり、ときには命を落としたりという結果がもたらされるのだ。それが恨み恨まれ、何代にもわたって続く・・・。

 「おとぎの国」に見えたこの地方で、そのようにオドロオドロしいことが起こっていることを知り、少なからず衝撃を受けた。さらに彼女によれば、呪術に支配されているのはカレリア地方に限ったことではないそうだ。モスクワやペテルブルグのような大都会でも、現在の急激な社会情勢の変化に伴う人々の心の不安を反映してか、呪術の本の量は本屋でも露店でも急増中とのことだ。

 西側のものを積極的に取り入れ、必死で西側に追いつこうとするのもロシアの姿なら、昔ながらの呪術に支配されているのもロシアの姿だ。一つの国や民族を理解するということはそうたやすいことではないのだと、しみじみ思った。


船から