気になるお外 | ムル☆まり同盟

気になるお外

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 ご多分に漏れずムルカも外を見るのが好きだ。だからといって「野原を楽しく駆け回りたい」という願望を持っているかというと大間違いだ。すべての動物は野生の姿が一番自然、それに帰してやるのが一番幸せだなんて、それは人間の勝手な妄想だ。

 最初に違うかな、と思ったのは、避妊手術に連れて行ったとき。ムルカはすぐ近所にある大学の獣医学部付属動物病院で手術を受けた。季節は初夏、キャンパス内にはシロツメクサが咲き乱れ、草は青々と生い茂り、気持ちよさそうに蝶々まで飛んでいた。病院はすぐ近くだったが、大通りや地下通路、と完全室内飼いのムルカには初めての雑然としたところを通ったため、病院に到着したとき彼女はすっかり怯えていた。だから、ご褒美のつもりで、建物に入る前にケージのドアを開け、少し休憩させてやろうとした。喜ぶだろうと思ったのに、ムルカは怯えたままケージから半分身を乗り出しただけだった。

 そのほとぼりも醒めた頃、夫が「近くから徐々に慣らさなくっちゃ」というので、マンションの敷地内を散歩させようとした。とんでもなかった。屋外に出てケージから出そうとすると、いきなり強い抵抗に合った。そのとき彼女がもがいて私の胸部につけた爪痕はその後1ヶ月くらいも残ってしまい、いかに必死に抵抗していたかを物語っている。地面に置くや否や建物の扉のそばまで逃げ帰り、入れてくれと鳴き喚いた。それでも強引にリースを引っ張って歩かせようとすると、すっかり腰がくだけ、爬虫類が地面を這うようなぶざまな歩き方をした。


 そして圧巻がボロンツォフスキー公園だ。

 散歩失敗の話をロシア人猫愛好家にすると、それは自動車騒音のひどいこのマンションの敷地内を歩かせたところに問題があるという。猫は本来、散歩が好きな動物だ。(彼女も頻繁に自分の猫を散歩させている。) 車の騒音の聞こえてこないような郊外または大きな公園の中心部へ連れて行くべきだと主張した。ねこ馬鹿の私たち夫婦はさっそく試してみた。

 ボロンツォフスキー公園は、モスクワ市南西部にある市民の憩いの場だ。林で囲まれた敷地内には池があり、野原があり、子どもたちのための簡単な遊具や売店もある。ボートを漕ぐ人もいれば、何時間もベンチに腰掛けておしゃべりや読書を楽しむ人もいる、市内どこにでもあるのどかな公園のひとつだ。敷地が広いため、真ん中まで連れて行けばもちろん自動車騒音はまったく聞こえない。

 こののどかな空間でも駄目だった。最初はケージから出ることすら嫌がった。無理やり出して膝の上に乗せると夏なのにガタガタ震え始めた。「しばらくしたら慣れるよ」という夫の期待もむなしく、ムルカは最後まで決して野原を楽しげに走ることもなければ、蝶々や虫と戯れることもなかった。

 そういうわけで、お外が気になるからといって、それは必ずしも「お外に行きたい」ことを意味するわけではない。3LDKのマンションで飼われていたって、ムルカは幸せだ。