放課後にメイド部を通常通り始めた。ご主人様は昨日と違って全然来ない。怪物が出たことが噂になって誰も来ないんだと思う。結局僕と波川だけがカウンター席に座り、五人のメイドさんもカウンターにいる。
ジュースを飲みながらオタ話に花を咲かせるけど、笑ってる顔がどうしても心からの笑顔じゃない。美紀ちゃんに限ったことじゃなくて、全員に共通のこと。こんな状態で心からの笑顔を出せないのは当然か。それでもメイド部はやる。ここが美紀ちゃんの居場所であり、僕の居場所であり、みんなの居場所だからだ。まだ二日目だけど常連になるご主人様の居場所になるためにも、定休日はなるべく作らないようにしたい。
ガラッとドアが開く。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
誰が来るかはわからないが、緊張感が走った。来たのは怪物ではなく小次郎だった。小次郎は僕の隣に座った。
「お飲み物は何にしますか?」
美紀ちゃんが小次郎に尋ねると、小次郎は掌を出して断った。
「すぐお出かけするからいい」
小次郎は真剣に美紀ちゃんを見つめる。
心配する気持ちはわかるけど、それじゃ美紀ちゃんの心からの友達にはなれない。メイド部はそういう場所にしなくちゃ。
「しばらくメイド部はやめた方がいい。怪物に狙われてるときに、メイド部をやるなんて、常識的に考えて危険すぎるだろ」
「小次郎は常識で生きてるのか?」
「どういう意味だよ!」
忠告のつもりだろうけど、そこに優しさは感じ取れなかった。心配からその言葉を言いにきたと思ったら、声から感じとる感情は想像していたものとは別物だった。そのため思わず反論したくなった。売り言葉に買い言葉のように反射的に言い放つ。
小次郎はストレートな分、こっちの言葉次第で、喧嘩にも冷静にもさせられる。反論するにしても、冷静さを保たなくちゃ。
「僕達は常識で生きてるんじゃない。自分で考えて、みんなで話し合って決めたんだ。常識だからこうしなきゃって、まるで考えないで行動するような奴にはなりたくない!」
冷静を保とうとしてたけど、挑発するような目を見たら、言葉に刺が出ちゃった。小次郎はすぐに反論すると思ったけど、フッと笑って立ち上がった。
「光樹は強くなったな。お前は軟弱者だと思ってたけど、一人前のことを言えるようになってるじゃないか。気に入った。これからは自分で考えて、自分で行動しよう」
小次郎は去っていく。背中から何か考えているようなたたずまいを漂わせていた。
小次郎がお出かけしてから数分後、再びドアが開いた。今度は明らかに人が開けてるような音ではなく、猛獣のようなおぞましさを感じた。誰もお帰りなさいませとは言わずに、開いたドアから入ってきた獣を、恐怖と嫌悪と憎しみの込めた眼差しで離せずにいた。今までとは違い、すぐに攻撃をしてこなかった。佐奈ちゃんは冷却大斬刀を出し、カウンターの前に出て怪物と対峙する。
「お前は香山だろ?」
「違う!」
怪物は否定しながら頭を触って、佐奈ちゃんに光線を放った。冷却大斬刀を楯にして防いで、その理由を語る。
「香山は否定したときに、髪を耳にかける癖がある。戦うときは無駄な動きをしないのが普通だけど、怪物は否定したときに、頭を触っていた。まるで髪を耳にかけるみたいに。香山は表面的な言葉は意識して変えていたけど、癖は直せていなかった。違うか?」
怪物はしばらく黙って動けずにいた。そして十秒ほどたって、黒と紫が重なり合った光が包み込み、怪物の姿から香山拓也の姿に戻った。
「変わったことが耐えれなかったんだ!」
歯を食いしばって訴える拓也。
「変わったんじゃなくて、素を出せるようになったの」
美紀ちゃんの言葉を聞いても、受け容れられない様子で続けた。
「入学時の俺は内気な性格で、周りのみんなに話しかけられすにいた。だけど席替えで美紀ちゃんが隣になって、勉強がわからないときに教えてもらったり、美紀ちゃんと一緒にいるだけで、他の人と話してる会話に入れた。距離感が縮まってきた俺は、自然に話しかけられるようになって、いつも冗談を言えるようになった」
僕が拓也のキャラを知ったのは、冗談を言えるようになってからのことだった。入学して間もない頃。去年は違うクラスだったから、拓也のことは知らなくて、今年同じクラスになってすぐに、面白い奴って印象を持った。
「普段冗談を言ってる俺が、寂しがり屋の素顔を見せれないだろ。それを唯一見せれたのは、美紀ちゃんにだった」
同意を促されたけど、この一ヶ月くらいで、僕は自分で変わろうとしている。本当に思ったことがあるなら言わなきゃダメだって考えだ。隠してちゃハッピーな未来は来ないと思う。だからもっと良い自分になろうとしてる。
「それは単に拓也が心を開けなかっただけだろ」
「そうだよ。だけどみんなに見せる顔と、信頼してる人に見せる顔は誰にでもあるだろ?」
「別にそれは構わない。だからって怪物になって、自分の思い通りの友達にしようっていうのは違うだろ」
「だけど美紀ちゃんのイメージが変わりすぎて耐えれなかったんだ」
涙目になって訴える拓也。
「本当は最初に仲良くなった美紀ちゃんには、本音で話したかった。でも嫌ってるようなことは言えないから。だから学校では見えない仮面を付けて、冗談を言う明るいキャラクターでいるしかなかった」
「拓也は本当の友達になろうとしてない。本気でぶつかることから逃げてるんだ」
「逃げたよ。だけどあの日、小次郎がお出かけするって言ったときに、一緒にお出かけをして、小次郎と別れたら、女性に会ったんだ。このシャーペンをもらって、空中に願いを書くと、願いを叶える力が手に入るって言われたんだ」
拓也はポケットから、黒いシャーペンを取り出した。カチッと鳴らして芯を出す。
「試しに友達って書いてみたんだ。そうしたら美紀ちゃんを理想の友達に出来るような感覚がした。怪物の姿になってるのは、気付かなかったけどな」
拓也はシャーペンを使って空中に友達と書いた。立体的な文字は反転して、拓也の胸に張り付いた。するとさっきと同じように、黒と紫の光に包まれた。数秒後拓也は怪物の姿になっていた。
「世の中自分の思い通りにならないことだってある。怪物になってまで叶えようとするな」
「叶わないって認めたくないことはあるだろ。シャーペンをくれた女性が言ってた。シャーペンを使ったとき、ドリファンになるって。この姿は怪物じゃなくて、ドリファンだ! 普通の人間じゃ無理な願いも、ドリファンになれば叶えられるんだ!」
冷却大斬刀で横から斬りつけたけど、変身の光ではじき返されてしまった。佐奈ちゃんは尻餅をついた。
「これで邪魔者はいなくなる」
「やめろ!」
波川が竹刀で叩きつけた。
「痛くはないけど、ちょっとウザいんだよ」
波川を殴って、吹っ飛ばして壁に叩きつけた。
「あたしと友達になりたかったら、あたしの素を受け容れてよ!」
「ごめん。友達になりたいから、今頑張ってるんだ」
「そんなの努力でも何でもないよ」
美紀ちゃんは泣きながら叫んだ。
「やり方は人それぞれだよ」
「だったら美紀ちゃんの素を受け容れればいいだろ」
佐奈ちゃんに攻撃をしようとしたドリファンに、僕は後ろから羽交い締めにした。すぐに振り払われたけど、尻餅をついてた佐奈ちゃんは立ち上がった。
「せっかくあとちょっとだったのに」
「冷却砲!」
佐奈ちゃんは隙をつき冷却砲を撃った。ドリファンの脚が凍り付き、動けなくなってしまった。
「ちょっと待てよ。これじゃ動けないじゃねえかよ」
「これで終わりだ!」
佐奈ちゃんが冷却大斬刀を振り下ろした。ドリファンは左手を光らせて受け止めつつ、右手で美紀ちゃんに撃ってた光球を放ちまくった。
「何!」
僕はよけて周りを確認したら、波川もかわしていた。美紀ちゃんは思わずしゃがんで、かわせたみたい。だけど莉音ちゃん、優衣里ちゃん、玲奈ちゃんは命中して、ドリファンの方へ近づいていく。
「離れろ!」
三人は佐奈ちゃんと拓也との間に入って、両手を広げて楯になった。
「みんなどくんだ!」
「残念。俺の言うことしか聞かないよ」
拓也は三人の間から腕を伸ばして、佐奈ちゃんに光線を放った。佐奈ちゃんはギリギリのタイミングで、冷却大斬刀を楯にした。
僕は莉音ちゃんの肩を掴んで振り向かせた。
「莉音ちゃんは自分で友達を作れるだろ。こんな技に操られるな!」
しかし莉音ちゃんは僕を殴ってきた。鼻血を出しながら、莉音ちゃんの説得をするけど、元には戻らなかった。
「莉音ちゃんを元に戻すために、僕は拓也を倒す!」
「無理だと思うよ。友達のみんな俺を護って」
嘲笑う拓也は莉音ちゃんだけじゃなく、優衣里ちゃんと玲奈ちゃんにも、僕を攻撃させた。三人の女の子に囲まれて、よけるどころか受け止めることも出来ない。操られてるため、本気のパンチやキックだ。普段から鍛えてるわけじゃない僕には、女の子とはいえかなり痛かった。でもここで負けを認めたら、みんなはこのままだ。そんなのは絶対に嫌だ! 僕は気合いを入れて決意を固めた。
「みんなごめん」
手を開いて莉音ちゃんのお腹を叩く。バランスを崩して尻餅をついた。優衣里ちゃんと玲奈ちゃんに、両手で肩を押した。二人は倒れなかったけど、後ろに歩きながら、何とかバランスを崩さずにいた。強さはこのくらいでいい。この瞬間に拓也に向かってダッシュ。
「光樹の攻撃ならだいじょ」
受け止めようと出した手よりも先に、僕は顔面を殴っていた。
「何でこんなに早く動けるんだ?」
「拓也を倒すって決めたからだ!」
僕は三連続でパンチを入れたけど、胴体にはあまり効いてる様子はなかった。
「光樹じゃ倒せないよ」
僕は胸を一発殴られただけで、突き飛ばされて壁に背中をぶつけた。かなりの痛みで動かそうとしているのに、痛くて動けなかった。
「あたしに任せろ!」
佐奈ちゃんはドリファンと再び戦う。凍らせた脚は溶けてきている。真夏ではないものの、三十度近くあるため、すぐに溶けたようだ。そのせいか二人の戦いは互角だった。佐奈ちゃんが攻撃しても、腕を光らせて受け止める。ドリファンが光線を撃っても、冷却大斬刀で防ぐ。それがしばらく続くと、体力差が出始めた。佐奈ちゃんは修行してるだろうけど、やっぱり人間だ。巨大な冷却大斬刀を素早く振り回して戦うには、体は小さく筋肉は細い。長期戦になってきたため、息が切れてきて、俊敏さもなくなってきた。対してドリファンはまだ戦い初めと同じような動きをしている。このままじゃ佐奈ちゃんが負ける。
「動きが遅くなってきたぞ」
「うるさい!」
間合いを詰めた佐奈ちゃんは、冷却大斬刀で攻撃したが、手を光らせて受け止められた。間合いが近いため、近づく拳をよけれずに、僕と同じように吹っ飛ばされて壁に背中をぶつけた。
「これで終わりだ!」
手を光らせて光線を放とうとした瞬間だった。
「待て!」
ドアが開いた。みんなの視線が集まった先にいたのは、小次郎だった。
「俺は俺の考えで、拓也を止めることにした」
「ずっと隠れて聞いてたのか」
佐奈ちゃんに向けた手を小次郎に向けた。光線はいつでも放てる状態だ。だけど小次郎に恐怖心を感じている様子はなかった。
「バカか。学校中を探してたんだ。いつも拓也と一緒にいるから、姿や声が変わっても、拓也の行動くらいわかる。友達だからな。美紀ちゃんを特別な友達と思ってたこともな」
「嘘をつくな!」
「俺はいつも本音だ。拓也が本音を隠すなら、俺にぶつけろ。全部受け止めてやる」
「そんなことしたら幻滅するかもしれないだろ」
拓也はオロオロした声になった。ドリファンの姿で明らかに強さは拓也の方が上のはずなのに、気持ちの上では負けている。表面的には強い言葉を言えても、本音を言おうとしたら、弱気になってしまう。小次郎と拓也の関係はそういうものなのかもしれない。
「怪物になって暴れる奴のセリフじゃねえだろ!」
小次郎はもっともな突っ込みを入れて走り出した。拓也は光線を放てる姿勢のまま、放てないでいる。
「お前は俺が元に戻してやる」
「小次郎を止めろ」
莉音ちゃん、優衣里ちゃん、玲奈ちゃんは拓也の命令で、小次郎を殴りかかった。小次郎は攻撃をかわしていき、脚を引っかけて転ばせていく。
「ごめんな。今は寝ててくれ」
確かに女の子とはいえ本気で殴ってきてる。しかも三人相手で、手加減をしたら普通にやられるかもしれない。優衣里ちゃんは後ろから、イスを投げてきた。近づくと負けるため、離れての攻撃か。
「危ない!」
叫んだ僕の声で振り向き、危機一髪スレスレでかわす。小次郎はもう一度三人の方に向かい、イスを武器に戦ってくるが、動きをよく見てかわして下段蹴り。これも強さよりは、転ばせることが目的だ。
「常識よりも、自分で考えて動かなきゃな。あの娘達を助けるためにも、拓也を元に戻さなくちゃな」
小次郎は三人から離れ、拓也に向かって走る。拓也に真剣な眼差しで見つめる。
「俺は拓也の冗談が好きだ。勝手にコンビを組んで、漫才師になろうと思ってる。俺にとって拓也は、誰よりも大切な存在だ!」
後ろから莉音ちゃんが来た気配を感じ取って、小次郎は振り返った。パンチをかわして、腕を掴んで投げる。その先には玲奈ちゃん。二人が倒れたと思ったら、再びイスを投げてくる優衣里ちゃん。迫り来るイスを見て、上半身をそらしてスレスレでかわすと、優衣里ちゃんの脚を蹴って転ばせる。そのまま拓也を殴りつけた。殴られた頬を抑えたまま、立ちつくしてしまう拓也。軽い放心状態のようだ。
「僕はどうすればいいんだ?」
拓也は自分の考えで行動していたが、小次郎の熱い気持ちを感じ取って、どうすればいいか迷いだした。
「拓也がしたかったのは、みんなを操って、自分の思い通りにすることか?」
小次郎は隙をつかれて、優衣里ちゃんにお腹を殴られて、腹を抑えながら拓也に訴える。
「今の状況は理想の状況なのか?」
拓也の方を見ていたため、玲奈ちゃんのキックがすねにあたり、すねをさする。歯を食いしばって、激痛をこらえようとしている。だんだんと小次郎が三人の攻撃を防げなくなってきた。拓也に言葉を投げかけることもなく、次第に痛みを漏らす声しか出なくなった。このままじゃ小次郎が危ない。
「ごめん。俺が悪かった」
拓也は頭を下げた。ドリファンの姿のため、表情が読み取れないが、声からは本当に申し訳ない気持ちが伝わってきた。
「みんなもうやめるんだ」
拓也がそう言って僕は安心した。しかし三人は小次郎への攻撃をやめなかった。そのため小次郎の意識が薄らいでいるように見えた。
「聞こえないのか。もうやめるんだ」
拓也が何度指示を出しても、三人ともやめない。小次郎はどんどん傷付いていく。小次郎を護るため、拓也は三人を止めに入った。すると意外な行動を取った。なんと拓也は小次郎の胸を殴ってしまった。
「な、なんでだよ」
拓也は動転して自分の行動に疑問を抱く。自分ではやる気がないのは声を聞けば明白だ。
でも拓也は意志に反して、何度も拳を叩きつける。
「僕は小次郎を殴りたくないのに。何で体が勝手に動くんだよ」
「元の姿に戻るんだ」
僕は叫んだ。理由はわからないけど、拓也は小次郎を殴り続けている。だったら元の姿に戻れば、少しでもダメージは減ると思った。
「あれ? 元に戻れない。変身を解こうと思ってるのに、元に戻れない」
どういうことなんだ。僕は疑問に思い、何が起きてるのか考え出すと、どこからともなく、女性の声がする。
「願いはリセット不可能。友達作りを邪魔をする者は排除する」
おぞましい、低くて暗い雰囲気。そんな女性の声が、その一言だけを響かせた。その直後、蛍光灯がパチパチッと点滅して、全部消えてしまった。薄暗くなった中で、僕はいてもたってもいられなくなった。
「諦めるな。僕も二人の漫才を見たい」
痛みをこらえてフラフラとしながら、拓也を抑えるが、すぐに振り切られてしまう。
「俺も小次郎と漫才師になりたい」
拓也は叫びながら僕を殴った。僕はすぐに吹っ飛ばされてしまい、拓也は再び小次郎を殴り続けた。
「もうやめて!」
美紀ちゃんが小次郎の前に立った。腕を広げて拓也を強く睨みつけてる。きっとすごく怖いと思う。それでもこれ以上拓也に暴れさせれなかったんだ。
「どいて。僕は殴りたくないのに、殴っちゃうから」
自分で自分のコントロールが出来ない拓也は、恐怖に怯える声で美紀ちゃんに伝えた。でも美紀ちゃんは震えたまま目をギュッとつぶって、その場を動けなかった。
拓也は美紀ちゃんに向けて、パンチを繰り出した。
「止まれーーーーーーー----------ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
あたるギリギリのところで止まった。と思ったけど、手はさらに動き出した。
「僕は美紀ちゃんを殴りたくないのに」
ドリファンの姿で涙を流す拓也。僕を殴ったときほどじゃないにしろ、美紀ちゃんは肩を殴られて、後ろに回転するように倒れた。その直後怒りの声が響いた。
「最後の勝負だ!」
佐奈ちゃんが再び戦いを挑んだ。さっきよりも動きは遅くなっているが、佐奈ちゃんは拓也の攻撃を何とか、かわしていく。
「早く俺を止めてくれ!」
「甘えるな! 自分の体くらい自分で止めろ!」
佐奈ちゃんの言葉に、拓也は反論した。
「やりたくてやってるわけじゃないんだ。体が勝手に動くんだ」
「そう思ってたら、何も変わらない。本気でやる気になれば、自分のことくらい自分で何とか出来る!」
拓也は攻撃を繰り出しながら、驚いて動きが遅くなった。美紀ちゃんを殴るときも止まったし、拓也が本気で止めようとすれば、攻撃せずにすむと思う。
「あたしは本気でお前を倒す! だから香山の本気を見せてみろ」
佐奈ちゃんの攻撃は中々あたらない。だけど拓也の動きが遅くなってきている。
「次の攻撃に全ての力を注ぎ込む」
拓也は手を光らせて、どんな攻撃も受け止めるつもりだ。佐奈ちゃんもこれ以上長期戦になると、体力的に限界だと判断したようだ。次の佐奈ちゃんの攻撃で決着が付く。
「願いは自分の手で掴み取れ!」
「掴み取ってやるよ!」
佐奈ちゃんが冷却大斬刀を青白く光らせて振り下ろした。拓也もさらに手を光らせて、攻撃を受け止めようと両手を挙げた。
「冷凍垂直斬り!」
拓也は佐奈ちゃんの攻撃を受け止め、そのまま維持したように見えた。
「負けを認めることが、新しい俺のスタートだ」
拓也は手の輝きを止めた。すると拓也は手から一瞬で凍っていく。直後冷却大斬刀が、受け止めた手から、頭部、胴体へと拓也を斬りつけた。
「最後に本気になったな」
佐奈ちゃんは呟いて振り返った。黒と紫の光が拓也を包み込んだ。闇に輝く光は舞い上がり消えてしまった。シャーペンは折れて、倒れた拓也の横に転がった。拓也は辛そうだが体を起こす。三人は小次郎を殴り続けていたが、我に返った。
「何であたし小次郎を殴ってるの?」
「あたしも」
「小次郎ご主人様大丈夫ですか?」
莉音ちゃん、玲奈ちゃん、優衣里ちゃんの順に驚いた。
「大丈夫じゃないけど、みんなが元に戻ってくれて良かったよ」
小次郎は体を起こすと、激痛で目を細めた。
「イタッ!」
「大丈夫か?」
拓也は駆け寄って、倒れそうになった小次郎を支えた。小次郎の腕を自分の肩にかけて、拓也はみんなに頭を下げた。
「みんなごめん」
反省している拓也を見て、佐奈ちゃんは清々しい笑顔をみせた。
「今は謝るよりも、小次郎を保健室に連れて行け」
拓也は佐奈ちゃんに再び頭を下げた。小次郎のペースに合わせて、拓也はゆっくりと歩く。振り返って再び頭を下げて謝った。
☆
翌日の放課後、僕は帰ろうとする拓也と小次郎に声をかけた。
「なぁ拓也」
振り返る拓也は申し訳ない顔でいっぱいだった。今日一日謝り続ける拓也だったけど、僕はもう拓也に謝らないで欲しかった。
「僕と友達になってよ」
拓也は驚いて目を見開いた。
「今から一緒にメイド部に行こう」
「でも俺が行くのはよくないだろ」
「みんなが来るなって言ったら、すぐにお出かけすればいい。ただ僕は拓也と友達になりたいし、一緒にメイド部に行きたいと思ってる」
迷ってる拓也に、小次郎が背中をポンと叩く。
「反省してるんだから、みんな許してくれるさ」
笑顔の小次郎はいつもより明るくなった。保健室に行った小次郎は、軽い打撲ですんだ。どうしたのか訊かれても、階段から落ちたの一点張り。保健の先生も嘘だとわかってはいるとは思うけど、何度訊いてもそれしか言わなかったので、原因を追及することを諦めたらしい。僕は拓也と小次郎とメアドを交換した。拓也が少し怯えつつ、メイド部に行く。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
五人のメイドさんがいつもと同じように、迎えてくれた。
「メイドでよければ友達になってください」
さらに五人のメイドさんが言った。僕はこれについては訊いていない。拓也と小次郎とちゃんと友達になりたいと思ったのは、僕の個人的な感情だ。きっとメイドさん達はみんなで話し合って、決めたんだと思う。
拓也は頭を下げた。今日何度目になるかわからない。
「ごめん。悪かった」
この姿を何度も見てれば、心の底から謝ってるのがわかる。
「これからはもうあんなことはしない。だから友達になってください」
拓也はカバンから何かを出した。買ったまま袋に入っている。それを美紀ちゃんに渡す。美紀ちゃんがそれを出すと、タオルだった。
「タオルがないって言ってたから、これで良かったら使って」
広げるとお笑い芸人のピークのイラストが描かれている。美紀ちゃんが好きって言ってたのを、覚えてたんだ。
「ありがとう。嬉しい」
美紀ちゃんはそのタオルをギュッと握って、笑顔になった。
「メイドとご主人様って設定だけど、あたし達は友達です」
美紀ちゃんは拓也と握手をした。
「漫才早く見せてくださいね」
「うん。最高に面白いの見せるよ」
美紀ちゃんは楽しみな表情でお願いをすると、拓也は自信満々で親指を立てた。
「これからはあたしも本音で話すから、拓也ご主人様も本音で話してくださいね」
「うん」
やっと拓也の笑顔を見れた。メイドさんは本当に、ご主人様を癒す力を持ってると思った。