いつも莉音とお昼を食べてるのに、今日は一緒に食べれなかった。昼休みが終わる前に急いで食べた。莉音が寂しそうに僕を見ていたのに気付いた。
「莉音。ごめん」
 次の休み時間に謝ったら、悲しそうな顔になった。
「何であたしに謝るの?」
「だって一人で食べたら寂しかったでしょ?」
「別に光樹がいなくても寂しくないよ」
 明らかに虚勢だ。悲しそうな表情で、大声を張り上げてる。怒ってくるよりも、悲しませる方が辛い。
「でもメイド部って、女の子しか入れないんでしょ? 何で光樹が協力するのよ」
「だって僕が言い出しっぺだし、協力したいんだよ」
 納得のいかない表情で、莉音は話を聞いている。
「今日の帰りもみんなでメイド服買いに行くことになったんだ」
「別に光樹が行かなくてもいいんじゃない?」
「僕が行った方が、男子受けするメイド服がわかると思うんだ」
「そうなんだ。可愛いメイド服選んできたら」
 素っ気なく歩いていく。どこか距離感を感じてしまい寂しくなった。

    ☆

 放課後みんなでメイド服を買いに行った。優衣里についていくと、小さなお店に着いた。入るとズラッとコスチュームが並んでいた。
「すごーい」
 川上さんが思わず声を出した。川上さんが買ったのはネットだったみたいで、安いのを探したらしい。今日買うのは黒山さんと大野さんだ。
「二人はどういうのが良いの?」
「私はピンク」
「えっ!」
 黒山さんの言葉に、みんな一斉に驚きの声を上げた。
「黒じゃないの?」
「名前に黒が入ってるからって、黒にするわけないでしょ」
「そうじゃなくて黒山さんの雰囲気が、闇に紛れて妖怪退治をしそうな感じだから」
「まぁそんなところね」
「あってるのかよ」
 キャラが掴みきれないなぁ。可愛い服が好きっていうのは、女の子らしくていいけどね。メイドさんになるんだから、不気味な雰囲気よりも可愛いメイド服を選ぶのは良いと思う。
「可愛い服とか好きだし、フリルがいっぱい付いてるのが良いな」
「制服はあんまり可愛くしてないのに」
「怪しい気を感じて戦わなきゃいけないときと、可愛い服を選ぶときを一緒にしないでよ」
 黒山さんのさっきのインパクトが強かったから、つい可愛いものなんか興味ないってタイプだと思った。人を見た目というか、第一印象で判断しちゃダメだね。
「このメイド服可愛い」
 選んだのはピンクでフリルがいっぱい付いたものだった。体にあててみて鏡を見る。
「試着してみたら」
 僕の言葉に笑顔で頷いた黒山さんは、試着室に入りしばらくして出てきた。ピンクって色はやっぱり女の子を可愛くさせるなぁ。
「似合ってて可愛いよ」
「サイズもピッタリだし、これに決めた」
「あたしちょっと別の見たいから、違うところ行ってくるね」
 川上さんは嬉しそうな顔で、別の売り場に行った。やっぱりいろいろ売ってると、一通り見たくなるのかなぁ。
「今度は大野さんの番だね」
 大野さんはいろいろ取っては見て、取っては見てを繰り返しながら、たまに気に入ったのを見付けると鏡の前で体にあてた。
「あたし時間がかかっちゃうんですよ」
 確かに直感タイプの黒山さんとは違い、いかにも女の子らしく、服を選んでるのが楽しそうだった。少し離れて優衣里が似合いそうなのを勧めたりして、女の子同士の買い物を愛でるのも中々良い。メイド服を一通りチェックして、優衣里が尋ねた。
「候補はありますか?」
「この中かだと黒とピンクは被るからやめておくとして、赤と水色かな」
 結構な量鏡の前に持っていったので、その中からいくつかを選んでもらった。他の部員のメイド服と被らないように色をわけるあたり、周りのことを考えるタイプなんだろうな。
「みんなはどっちが良いですか?」
「赤かな。赤って女の子をキレイに見せる色だと思うし、大野さんに似合うと思う」
「あたしも赤です。これはリボンとかも付いて可愛いと思います」
 僕と優衣里が赤を勧めたら、黒山さんが不気味モードに戻った。
「赤は好きじゃない。赤は火の色だから、氷が溶かされる気がする。水色は水の色だ。氷との相性が良い」
「変な魔法剣士キャラが復活した!」
 黒山さんの言葉に、思わず大声を出しちゃった。
「自分のだと可愛いものを選びたくなるけど、人のだと冷静になっちゃう」
「冷静だったら服の色で氷が溶けないことに気付きなよ」
 黒山さんとアホな会話をしてたら、大野さんは決心した。
「決めました。水色にします」
「うん。水色すごく可愛いもんね。あたしのピンクとも並んだときに合うと思うんだ」
 可愛いもの好きキャラが復活した。黒山さんと話すの難しいよ。
 川上さんが戻ってきて、僕に何かを被せた。
「似合う。やっぱり可愛い」
「光樹先輩には男でいて欲しいですけど、可愛いです」
 優衣里まで可愛いって言ってくれたけど、何を被せられたんだろう。鏡を見たらウィッグだった。女の子用のストレートのカツラ。
「認めたくないものだな。男なのに女の子として可愛いのは」
 僕は可愛いっていう褒め言葉も受け容れるタイプだけど、男としての可愛らしさってあると思う。だけど女の子としての可愛いは、素直に受け容れられない。
「ありがとう。でも男としての可愛いなら嬉しいけど、女の子の格好はしたくないから」
「どのメイド服を着せようかなぁ」
「川上さん。話を聞いてよ」
 まだそんなに仲良くなってないから、言い方に気を付けるようにしたら、川上さんは話を聞いてなかった。
「じゃあみんな買ってきな。僕はお店の外で待ってるから」
 こうしなきゃ川上さんのテンションで、試着させられそうだし逃げておく。

    ☆

「遅いぞ」
「別に待ってなくてもいいんだけど」
 僕の家の前で待ち伏せしてたのは、波川君だった。
「優衣里と放課後買い物に行くなんて許せない!」
「それで怒るなら、買い物に行こうって誘えばいいじゃん」
「それが出来たら苦労はしない」
「苦労しろよ」
 僕だって楽して、思い通りになってほしいけど、そんなふうにいかないことくらいはわかってる。だから夢や目標があるなら、それに向かって突き進まなきゃ。
「優衣里は僕のために一生懸命頑張ってるんだ。そんな優衣里を見たら、僕も一生懸命やらなきゃって思ったんだ。今までみたいに、ただやられるのは終わりにする」
「高谷が勝てると思ってるのか?」
「喧嘩の勝ち負けじゃない。裏でこんなことする奴には、気持ちじゃ負けない。それに本当に好きなら行動しなきゃって、優衣里から教わったからね。好きな人が何をして欲しいか考えない行動なんて、僕の心には傷をつけれない!」
「俺を怒らせるのもいい加減にしろ」
 波川君は竹刀を上げ、思いっきり振り下ろした。夜空と街灯で明るいとはいえなかったが、見えないわけじゃない。僕は竹刀の動きに全神経を集中させた。
「何!」
 竹刀を両手で挟み、驚いた瞬間の波川君の胸を蹴っ飛ばす。数歩後退るけど、やはり体力差があるため、倒れたりはしなかった。
「中々やるな」
 蹴られた胸を軽くさすって、今までの一方的に攻撃するときの目から、ライバルとして戦う目に変わった。僕も本気だけど喧嘩をするつもりはない。
「僕は勝つための戦いをしない。負けない戦いをする」
 絶対にもう怪我をしたくない。この調子ならすぐにメイド部が出来る。怪我をしてメイド部に行けないなんて、絶対に嫌だ。だから竹刀の動きを見て、それに合わせて受け止めるなり、よけるなりして攻撃をする。攻撃は出来なくてもいい。怪我をしなきゃいい。
「今度こそくらえ!」
 ダッシュで近づき、横から払ってきた。サッと後ろへ飛んでかわす。攻撃に転じる間もなく、斜め上から竹刀が襲ってきた。一歩踏み込んでしゃがみながら竹刀を持つ手を殴る。
「何だと」
 しゃがまなきゃ竹刀に叩かれたけど、ギリギリで僕が殴るのが早かった。波川君の手から力が抜け、僕の背中を転がって地面に落ちた。僕は竹刀を拾って構える。
「続ける? 僕はやめたいけど」
「素人に、しかも素手に負けるとはな」
 怒りは消えてないものの、降参を認める口調だった。僕は竹刀を渡して本音を伝えた。
「優衣里を好きなら、僕にあたるよりも、優衣里にあたって砕けなよ」
「失恋しろってか」
 怒鳴られたけど、僕は僕の思うことを伝える。
「優衣里は僕に断れてるのに、何度もきてる。ある意味波川君よりも男らしいよ」
「男らしいか。高谷から言われるとは思わなかった」
「僕も好きな人いるから、優衣里を好きにはならないよ。優衣里を好きにさせられるかは、波川君次第。優衣里が何をして欲しいかを考えて頑張りな」
 僕は家に入ろうとしたら、波川君に止められた。
「友達になろうぜ」
 ポケットからケータイを出していた。僕もスマホを出して赤外線通信をした。

    ☆

「お弁当作ってきたんだけど、一緒に食べない?」
 昼休みに優衣里達と打ち合わせを兼ねたお弁当タイムに行こうとしたら、莉音が僕の席に来た。莉音に話すのを忘れてた。
「ごめん。これからメイド部の打ち合わせがあるから、優衣里が来てみんなで食べるんだ」
「そう……、なんだ」
 俯いて寂しそうな顔になった莉音。
「ごめん。せっかく作ってきてくれたのに、莉音と話す時間が最近ないし、話したいと思ってるんだけど」
「しょうがないよね。光樹が作って欲しい部だから、光樹が関わらなきゃね。あたしもたまには料理してみようと思って作りすぎただけだから、食べれる分は自分で食べるし、残ったら家族に食べてもらうから」
 莉音がいつもと違って怒らなくなった。フォローする言葉が浮かばない自分に腹が立つ。
「高谷君。優衣里来たよ。こっちで打ち合わせしよ」
「うん」
 何もフォロー出来ないまま、川上さんの言葉に返事をした。
「ごめんね」
「光樹が謝ることないよ。みんなとは約束したんでしょ。あたしは勝手に作りすぎたの持ってきただけだから。気にしないで」
 莉音が泣きそうになっているのに、僕は何をすればいいのかすらわからなかった。
「光樹先輩早く」
 優衣里が元気に手招きをしてる。横に座ったけど心が莉音の方にある。
「光樹先輩元気ないんですか?」
「そんなことないよ」