ジューゼは苦痛の表情で立ち上がる。
「たった一人に互角に戦われるとはな。お前達が言ったこと、嘘じゃないかもしれないな」
 僕達のいない方向に腕を伸ばすジューゼ。僕はジューゼの視線の先を見て気付いた。
「由里香しゃがめ!」
 ジューゼが落とした剣は、由里香に飛んでいき、直後にジューゼの攻撃が僕達を倒した。
「だから隙ができるんだ」
「危ない!」
 飯島さんが由里香の肩を押してしゃがませた。壁に剣が刺さり、由里香は驚いた。
「こんなこともできるんだぜ」
 ジューゼの腕は伸びていき、遠くにいる由里香は首を捕まれた。収縮するジューゼの腕に引っ張られ、ジューゼの元へ来る。僕達は突っ伏して睨んでいた。
「卑怯だぞ」
 立ち上がった僕は怒りを露わにしたけど、ジューゼは当然といった態度を取った。
「勝つためなら何でもする。戦いにおいて敵の弱点を突く。当たり前のことだろ?」
 首の痛みに苦渋の表情を浮かべる由里香。
「ハートイエロー。こいつのせいでお前は強くなった。ならばこいつを倒せば、お前の力は元に戻るはずだ」
 僕は立ち上がり、ジューゼに向かった。
「やめろー!」
 ジューゼが刺そうとした剣を、ギリギリで弾いた。ジューゼの剣は遠くへ飛び、ジューゼは後退して、由里香を掴む手に力を加えた。より苦しくなった由里香を助けるため走る。
「動くな。動いたらこの女の命はない」
「誰がお前の言うことを聞くか!」
 未歩は先を予想して、ダッシュで近づき攻撃をする。由里香にあたるスレスレに剣を振る。由里香の髪は数本風に舞い散った。ジューゼの胸に傷を付けたけど、ジューゼは痛みを感じず、かすり傷程度だった。
「お前は人質を見捨てるタイプだったな」
「動かなきゃ助けられないからよ!」
 ジューゼが由里香を掴んでいる左手に力を入れ、首をへし折ろうとした。
「その手を離せ!」
 理恵がジューゼの左肘に剣を刺した。荒い呼吸を繰り返し、由里香はジューゼから逃げ、僕の後ろへ来て、文句をぶちかます。
「あんたなんかに、隼人は負けないんだから」
「ハートレンジャーは隼人だけじゃないんだけど。っていうか、ウチが助けたんだけど」
 理恵の言葉は由里香に届いておらず、由里香の僕を見つめる目はハートになっていた。
「まさかお前らごときに、本来の姿をさらすことになるとはな」
「まだ変身するのかよ。お前はフリーズか!」
 ココヤのツッコミがわかるのは、僕だけじゃないかと思いつつ、今は戦闘に集中しなきゃと、気合いを入れる。
 ジューゼはうなり声を上げ、ものすごい爆風が吹き荒れた。顔の前に腕を出すけど、辺りには砂嵐が吹き荒れる。ジューゼの声はさらに大きくなり、爆風は強くなった。僕達はついに吹き飛ばされてしまい、倒れたまま転がっていく。しばらくして、ジューゼは別の体を披露した。
「今度こそ勝つ。お前達に明日はない」
 さっきより体は大きくなり、目は鋭く、口はワニのように飛び出て、尖った牙が何本も生えている。腕も太くなり、隆起した筋肉が丸太のような太さだった。指先の爪はナイフのように鋭利になっていた。ジューゼの体は頑丈そうな皮膚に変化していた。これは人間をモデルにしていない。こいつは化け物だ。今までの攻撃では効きそうにない。
「見た目は怖いけど、負けないんだから」
 理恵は剣を振り下ろしたけど、ジューゼは腕で止めた。隆起した筋肉は堅く、剣を左腕で受け止め、右手で理恵の腹部を、爪でひっかく。理恵は慌てて一歩下がったけど、中指だけかすめてしまい、腹部に垂直に線が入る。
「ギリギリセーフ」
「痛くなくても、それはアウトよ」
 理恵の言葉に未歩は冷製に反応した。未歩は剣を構えながら、理恵に作戦を伝える。
「ジューゼの動きをよく見て。変身してどんな攻撃をするか、わからないから」
「わかった」
 理恵がむやみに突っ込まないようにしたら、未歩は攻撃に出た。
「未歩ずるーい」
「どう攻撃するかを見るのよ」
 ジューゼの攻撃を意識し、少し距離を取っていた。ジューゼの手は何度も未歩の手前を通過して、風を巻き起こす。
「一瞬も油断できない」
 ジューゼは手の動きを止めないまま、大きく口を開き、炎を吐き出した。未歩は後退したけど迫り来る火炎に追いつかれてしまい、体を焼き尽くしていく。近くにあった噴水に飛び込んで、体にまとわりつく火を消化した。
「大丈夫か?」
 すぐに駆け寄った僕に、注意を促した。
「油断しちゃダメ」
 僕は振り返った勢いで剣を振るったけど、ジューゼは大きな体に反して、身軽な動きを見せた。剣の水平移動に合わせ、ジューゼは上半身をそらし、スレスレでかわした。僕はバク転で胸を蹴り上げた。ジューゼは倒れながらも炎を吐き、僕はよけようとして、バランスを崩して噴水に倒れこみ、起きあがった未歩にぶつかり、一緒に倒れてしまった。
 ジューゼはそのまま僕達に攻撃をしようとしたけど、理恵が後ろから攻撃をする。ジューゼは理恵に気付いて、振り返らずにサッと右に動いてかわす。
「無駄な動きが多いと、見なくてもかわせる」
 理恵は挑発にのってしまった。
「連続でやればあたるはず!」
 理恵は連続攻撃をするけど、巨大な体のジューゼは当たり前のように、自然な動きで後ろ向きのままよけ続けた。ジューゼは理恵に攻撃をしようとして振り返り、腕を伸ばしたけど、すぐに引っ込めて高く飛び上がる。
 噴水から勢いよく僕と未歩が水しぶきを上げて出てきた。そのままジューゼに剣を突き出した。水滴が飛び散る中、ジューゼは高く飛んだ。僕と未歩の先には理恵がいる。
「待て!」
 理恵もジューゼを追い掛けて高く飛んだ。僕と未歩はジューゼと理恵の下を通過する。ジューゼは飛んでくる理恵の頭を、組んだ両手で叩きつけた。急降下する理恵は、僕と未歩にぶつかって、みんなで倒れてしまう。
「こうなったらみんなの力を合わせよう」
 未歩の言葉で、一斉に起きあがり、着地したジューゼに向かった。三人同時に剣を振り下ろしたけど、両手ではらわれてしまう。三人同時でもジューゼには余裕の表情が残っていた。ジューゼは再び炎を吐いた。
 三人とも炎が来ることを予想していた。しゃがんで炎は頭上を直進する。再度三人同時に、ジューゼのすねに向けて剣を伸ばした。足も堅くて、剣は刺さらなかった。変身して見た目の硬さが全く違うものに変わった。
「残念だったな!」
 ジューゼの余裕の根拠は、圧倒的な強い攻撃力とスピード。わずかな隙をついて攻撃をしても、はね返す強靱な体。変身したことで攻撃が効かなくなった。
「お前達の攻撃は一切効かない!」
「三人同時でもダメなの!」
 未歩は対応策を練りながら後退した。ココヤはアドバイスをする。
「お前達だけで戦うな」
「どういうこと?」
 ココヤの言葉に、理恵が戦いながら尋ねた。
「俺達の力が剣に宿っている。だけど真の力はまだこんなものじゃない」
 理恵はココヤの言葉を聞いたけど、ジューゼの拳が迫ってきて、スレスレでかわす。話しをしっかり聞きながら、ジューゼと戦うのはかなり難しい。
「俺達の力を本当に引き出そうと強く思え。お前達なら絶対に使いこなせる!」
 ココヤの言葉を聞き、理恵は手に力を入れて、気持ちを込めて剣を振るった。
「くらえ!」
 剣は変化せず、ジューゼの腕に止められた。嘲笑うジューゼは攻撃を繰り出した。
「パワーアップは失敗みたいだな」
 殴られた理恵は遠くまで飛ばされた。
「理恵!」
 ビルの壁にあたり背中をぶつけると、僕は心配になって様子を見に行った。すると飯島さんが、さっきの親子を連れて近づいてきた。愛ちゃんは理恵に語り出した。
「あたしね、頑張ってトマト食べたの。ママがね、好き嫌いしなかったら願いが叶うって言ったの。だからあいつをやっつけて。叩いたら痛いし、みんな悲しくなるから」
 愛ちゃんの目には涙が溜まっていた。そのきれいな心で、理恵に訴えた。理恵に頼めば、きっとやっつけてくれると信じて。僕は立ち上がる理恵を見つめ、飯島さんの話を訊いた。
「この子それを伝えたかったんだって」
 理恵はマスクを外して、熱くなってきた気持ちを直接伝えた。
「これからトマトをちゃんと食べる?」
「うん」
 目を輝かせて頷く愛ちゃん。理恵は愛ちゃんの頭をなでて微笑んだ。こんな小さい子でも、頑張ってるんだ。それにマッキーゼがやったことは、きっかけを作っただけだ。愛ちゃんは自分で頑張って、トマトを食べ続けると、決意したんだから。
「約束するよ。あいつをやっつけるって」
「本当?」
 愛ちゃんは未歩を倒すジューゼを見て、悲しい表情を作ったけど、理恵の一言で元気に返事をした。
「指切りしよう」
「うん」
 指切りをした二人は手を振って離れた。理恵の表情を見てわかった。本気で勝つ気だ。今までもそうだったけど、今まで以上に勝利に執念を燃やしてる。目に入ってる力が全然違う。マッキーゼのかたきをとることを。愛ちゃんの願いを叶えることを、強く決意した瞳をしている。理恵はマスクを被った。
「ココヤ。ウチ絶対あいつを倒したい。だから力を貸して」
「おう!」
 同様に僕も思いをキューレに伝える。
「キューレ、僕にもっと力を貸して」
「オッケー、ホッケー、任せとケー」
 緊迫感がなくなるし、僕がスベったみたいにしないでよ。
 理恵は愛ちゃんの目の輝きを思い出すように、やや上を眺めていた。あの瞳をずっと守りたいと思ったに違いない。
「絶対に勝つ」
 理恵が叫ぶと、剣は赤く輝きを放った。未歩はジューゼと戦い、苦戦を強いられていた。
「どいて」
 未歩はサッと左に動き、ジューゼは左腕で理恵の剣を受け止めた。
「ウチは絶対に負けない」
 ジューゼの腕に止められたと思ったけど、剣は深く食い込んだ。血のようなオイルがしたたり落ちるのを見て、驚くジューゼ。
「完全体の俺を傷付けただと……」
「へっへんだ。ウチが本気を出したら、ざっとこんなもんなんだから」
「ハートイエローが女の言葉でパワーアップしていた。ハートレッドが今あの女といた」
 ジューゼは呟いた直後、飯島さんを睨みつけ、遠距離から炎を吐いた。飯島さんのせいで、パワーアップしたと勘違いしたようだ。
「プテラキューレ」
 僕はジューゼの出した炎を、キューレを変形させた。キューレはいつもの黄色よりも輝いて見え、一瞬で炎を掻き消した。スレスレまで炎が来てたから、思わず目をつぶった飯島さんは、ゆっくりと瞼を上げると、守るように立っていた僕を見て、安心した表情を見せてくれた。
「大丈夫? 熱くない?」
 優しく尋ねると、一瞬の出来事に状況が理解できなかったみたいだった。
「うん。ありがとう」
「飯島さんは僕が絶対に守る!」
 意気込み相棒に語りかけた。
「キューレ力を貸してくれ」
 僕はジューゼに向かった。刃は走っていく中で、白銀から黄色の輝きを放った。僕の攻撃がジューゼの胸に傷を付ける。僕はジューゼの攻撃をかわして、後ろから来た理恵に攻撃をさせた。
 ジューゼは冷静さがなくなり、僕の攻撃で理恵への対応が一瞬遅れた。左手で受け止めようと前に出したときに、マズいと気付く。理恵の作った傷の近くに、再び傷が作られた。左腕を抑えてジューゼは後退した。
「デスボンバー」
 ジューゼは両手で黒い光の球体を作り、僕に向かって投げつけた。僕はジューゼに向かっていたため、反応が遅れた。よけれないと思った瞬間、未歩が目の前に来た。
「お兄ちゃんは、あたしが守る」
 未歩の剣も青い輝きを放ち、相当な破壊力を感じさせる攻撃を真っ二つに斬った。直後の爆発に未歩は巻き込まれた。
「未歩!」
 煙が散り、ジューゼの悲鳴が聞こえた。
「お兄ちゃんに、万が一のことがあったら、どうするのよ!」
 ジューゼのパンチが未歩に向かったけど、ギリギリでかわして、後ろに回って腰を斬る。
「これがお前のバカにしてた人の気持ちだ!」
 振り返って未歩に攻撃しようとしたら、僕が胸を突き刺した。
「お前の力は自分のためだ。誰かを守るための力は、もっともっと強いんだ」
 胸を抑えるジューゼに、理恵が回転しながら脇腹を斬った。
「あたし達には明日がある。それを信じてるから、何度倒れても諦めない」
 続けて理恵は剣を腹に突き刺した。しかしジューゼも負けてはいない。剣が刺さりながらも、両手で剣の刃を握って、手からオイルを滴らせながら抜いた。そんな状態でもパワーがあり、剣を持つ理恵を投げ飛ばした。
「剣の力が上がったからといってなめるな。お前らが強くなったわけじゃないんだ」
 ジューゼは冷静さを取り戻していった。
「お前達の攻撃をかわして、俺の攻撃をあてればいい。さっきまでピンチに感じていたが、当たり前の戦い方をすれば必ず勝てる」
 剣が真の力を出すまではそうやって戦い、戦況を有利にしていた。だけど僕達はさっきまでよりも、動きがよくなってる。ジューゼにダメージがあるからじゃない。それぞれの動きはよめても、さっきよりも速く攻撃をできる。だからジューゼの攻撃はかわされて、思うようにはいかない。傷自体はそれほどの痛みじゃないようだけど、ジューゼ自身本気で殴ろうとしても、あたらなくなってきてる。
「あたし達が強くなってないと思ってるなら、お前の負けだ!」
 未歩はジャンプ。空中で前転をして、ジューゼの後ろで着地する。もう一度ジャンプで、剣を振り下ろした。頭を狙った攻撃に、ジューゼの反応が遅い。未歩は右上から左下に向け剣を下ろすが、スレスレで体を反らしてジューゼはかわした。未歩は水平に剣を動かしたが、ジューゼは一歩下がった。未歩が剣を伸ばすと、一端距離を取りジューゼは未歩めがけて炎を吐いた。ジューゼはよけられないと思ったようだ。
「マデニ、フルパワー。お願い」
「おうよ」
「うおーーーーーーーーーーー!」
 未歩は力強く叫び続けて、剣で火炎を切り裂きながら、突っ込んでいった。それでも完全に防げているわけではない。体に火の粉があたっている。でもさっきのように燃え移らずに弾いている。ジューゼは炎を吐いていたため、よけるタイミングが遅れた。ギリギリ右肩に剣が深く食い込んだ。さすがに浅い傷とは違い、痛みは強いようで、苦渋の表情を浮かべた。次の瞬間に未歩の腕を掴みあげた。
「これくらいならまだ耐えられる。お前は逃げられない」
 未歩の腹部をひっかき、爪痕が刻まれる。
「未歩!」
 理恵は未歩を掴んでいる手を攻撃したけど、ジューゼは未歩を離して、すぐにかわす。
「よけるのは腕だけじゃダメなんだぜ!」
 僕はほとんど動いていない背中に、剣を突き刺した。肩甲骨近くに深い傷が刻まれて、歯を食いしばり、耐えるジューゼは叫んだ。
「俺の力はまだまだこんなものじゃない!」
 僕の剣は黄色の輝きを増した。剣の力はさらに増し、僕はジューゼの体内に剣をより深く押し込んだ。
「心機ウェーブ」
 さすがのジューゼも、体内に心機ウェーブをされては、苦痛の叫びを上げざるおえなかった。僕は剣を抜いて、理恵と未歩の横に戻った。ココヤは指示を出した。
「みんなガンモードでいくぞ」
 三人同時にガンモードに変形させた。
「トリプル心機アタック」
 ココヤ、マデニ、キューレは今までよりも眩しくて巨大な光で、ジューゼに向かっていく。よろめくジューゼに突進し、大爆発を起こした。僕達はジューゼが生き残っているかを確認した。
「やったよ。マッキーゼ。かたきを討ったよ」
 理恵は走り出した。マッキーゼが死んだ場所に。そこにはマッキーゼの胴体だけが残っていた。マッキーゼを抱きしめて理恵は泣く。
「かたき、とったからね」
 理恵の背中を、みんなで追い掛けた。僕と未歩も元の姿に戻っている。もちろん飯島さんと由里香も来ている。みんなで悲しむ理恵の背中を見つめ、かける言葉がみつからない。理恵が泣いていると、僕は理恵の後ろで話す。
「笑顔でハッピーがウチ流だろ?」
 振り返る理恵に僕は優しく微笑んだ。理恵は涙でグシャグシャになった顔を僕に向けて、悲しみを訴えた。
「でも友達がいなくなちゃったんだよ」
「僕はマッキーゼじゃないからわかんないけど、私が死ぬと涙を流すのか? それが友達なのか? って訊きそうだよね」
「そうだよ。友達がいないと悲しいんだよ」
 理恵はマッキーゼの体に顔を向け、涙が飛び散った。
「マッキーゼの変わりは無理だけど、理恵の悲しさを減らすから。あんまり落ち込むなよ」
「何で?」
「妹だから。妹が悲しんでるのは見たくない」
 マッキーゼはもういないけど、悲しんでいられない。マッキーゼには悲しむ理由がわからないかもしれないけど、マッキーゼがいたここで、涙をこれ以上流さないように、理恵は空を見上げた。きれいな夕焼けが、理恵の頬を赤く染めていた。