僕達は走って破壊されていく街に向かった。ジューゼだけじゃなくて、マシン兵も現れて、人を襲っていた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは散らばって、襲われてる人を守って。飯島さんは無理しないで、逃げ遅れた人を誘導して」
「うん」
 未歩は大地震後のような街を見て、テキパキと指示を出し、みんなで頷いた。僕が行った方角には、さっきファミレスで見かけた、お母さんと愛ちゃんが、瓦礫に埋もれていた。
「怖いよ、ママ」
「大丈夫よ。きっと助けが来るから」
 お母さんは怖がる愛ちゃんを励ましながら、助けを求めて声を張り上げた。助けを求めたため、マシン兵に気付かれてしまった。マシン兵が近づき攻撃をした瞬間、僕はマシン兵の背中を切り裂いた。
「今助けますね」
 僕が瓦礫を持ち上げようとしたら、マシン兵の大群がやってきた。戦わなきゃいけなくなったけど、瓦礫に埋もれたままじゃ辛そうだ。特に子供の愛ちゃんは、泣きそうな表情になっている。
「ちょっと隼人何やってるのよ」
 逃げている由里香は、マシン兵と戦っている僕をみつけて、こっちに来た。
「瓦礫の下敷きになってる人がいるんだ。助けて」
 由里香はすぐに親子の元へ行った。
「大丈夫ですか? 今助けます」
 由里香が動かそうとしたけど、由里香の力では全く動かなかった。ちょうど逃げているおじさんがいたので、由里香が声をかけた。
「おじさん。女性と女の子が下敷きになってるの。手を貸して」
 頼んだけどおじさんは、チラ見をしてそのまま走っていった。
「ヒッドーイ!」
 怒る由里香だだけど、これは仕方ない。だってマシン兵いるなら、いつ殺されるかわからない。十秒後死んでるかもしれない。他人の命よりも、自分の命を優先する人がいてもおかしくはない。
 それを見て嘲笑うようにジューゼが来た。僕はマシン兵を倒して、ジューゼと対峙する。
「しょせん人間の感情など、この程度のものだ。自分の命が一番大切に決まってる」
 カチンときた由里香は、反論する。
「そんなことない。人は助け合って生きてるんだから」
「由里香!」
 普通の人じゃ戦えない。それでも由里香は動かない瓦礫よりも、ジューゼに対する怒りを抑えきれずに、言い返した。
「お姉ちゃん。助けて」
「今助けるからね。もう一回いくよ」
 必死になってる顔は、本気なのが伺えた。愛ちゃんの声に力が増し、瓦礫が動いた。でも力を維持できるほどじゃない。一センチくらいしか動かせないため、状況は変わらない。
「やった。ちょっとだけど動かせた。ごめんね、一回じゃ無理だけど、何回かやれば助けられるから。重いと思うけど我慢してね」
「うん」
 愛ちゃんは子供の体には耐え難い重さを感じているはず。それでもわずかに動いたことで、希望を見いだしていた。
「僕はお前を許さない!」
「さっき負けたばかりのお前が、傷付いた体で戦って、勝てるわけがないだろ」
「勝てるさ。自分のためじゃなくて、みんなを守りたいって気持ちを、強く持ってるから」
「由里香!」
 僕の後ろで、瓦礫をどかそうと励んでいる由里香をみつけた飯島さんが来た。
「香苗、少しでも力が残ってたら貸して。ここに下敷きになってる人がいるから」
 飯島さんはすぐに由里香の横に行く。
「いっせーのっせ」
 再び少し動き、愛ちゃんの左側は瓦礫から解放された。それを見ていたジューゼは笑いながら、由里香に近づく。
 僕が助けに行こうとしたとき、ジューゼはマシン兵を呼び出して、僕は中々近づけなくなった。
「お前達はもう死ぬんだ」
 ジューゼは由里香が瓦礫を持ち上げたところを、攻撃したときだった。由里香は我慢の限界に達した。瓦礫から離れてジューゼの攻撃を偶然にもかわした。ジューゼを睨みつけ、頬を叩く由里香。
「何でも自分勝手に決めないでよ。世の中自分の思い通りになんかならないの」
 涙を溜めながら、張り上げた声には力が増していく。これは由里香の本音なのかもしれない。可愛いけど好きな人は自分を好きじゃない。性格が悪いわけじゃないけど、自己主張が強いため、仲の良い友達もいない。でも自分が正しいと思うことは曲げずに、命をかけて人を助けようとする。しっかりと自分を持って、失敗を繰り返してる由里香だから、「自分の思い通りにならない」って言葉が胸をうった。
「あんたみたいなアンドロイドには、わかんないのよ。人の気持ちってそう簡単には変わらないの。本気の本気でぶつかって、それでも中々変わらない。人間をなめないでよ。あたしは絶対に助けるって決めたんだから!」
 普通の人間じゃ勝てないのは明白な敵を前に、由里香の本音は爆発した。ここまで言われたら、僕も今思ってることを言うしかない。
「由里香。やっぱり格好いいな。僕も助けるって決めたし、そっちは任せたぜ」
 ジューゼは笑いながら、由里香と飯島さんの腕を捻る。痛みに顔を引きつらせて、声が出なくなった由里香と飯島さんを見て、ジューゼは嘲笑した。
「本気の本気でも変わらないんじゃないのか? すぐに黙ったのは自分の考えが間違っているからじゃないのか?」
 苦痛で目を細めたけど、隙間から見える瞳には、闘志が燃えていた。
「あたしは絶対に負けないんだから。力じゃ負けても、気持ちじゃ絶対に負けない。あんたにも負けないし、香苗にも負けないの」
 頬を伝う涙が地面に落ちた瞬間、由里香はジューゼの力に勝り、捻られていた腕を、正常な向きに戻した。驚くジューゼは信じられないものを見た表情になった。
「女、何をしたんだ?」
「あんたに、いいえ誰にも負けたくないって思ったのよ!」
 ジューゼはすぐに落ち着きを取り戻して、剣を鞘から抜いた。
「まぁいい。今すぐ死ぬんだからな」
 由里香は思わず腕を顔の前に出して、しゃがんでしまった。
「由里香!」
「お姉ちゃん!」
 飯島さんと愛ちゃんが同時に叫ぶ。持ち上げた剣は由里香に向かって振り下ろされた。
「感情など、力にはならないんだ!」
「そんなことないぜ!」
 僕がマシン兵を倒して、跳び蹴りを放った。不意打ちのためもろに決まり、吹っ飛ぶジューゼ。理恵と未歩も走ってくる。ジューゼはすぐに立ち上がり睨みつけた。
「まだ戦いに来るとはな。だがお前らの言っていたことは間違っている。さっきこの女が助けを求めていたのに、男は逃げ出した。他人のために命を犠牲にする奴はバカなんだ。他人を信じるなど、お前らのように早く死ぬバカがすることなんだ」
 未歩は親指を後ろへ向けた。
「お前の目は節穴だな」
 さっき逃げ出したおじさんが、レスキュー隊の人を連れて戻ってきた。
「こっちです。早くしないとアンドロイドに女の子が襲われます」
 由里香の表情は明るくなった。おじさんはレスキュー隊と一緒に瓦礫の元へ辿り着く。由里香は頭を下げて感謝の気持ちを述べた。
「ありがとうございます
「当たり前のことですよ」
「ジューゼ。これがお前のバカにした人間の心だ!」
 僕ははジューゼに言い放つと、微笑んだおじさんに向かって親指を立てた。だけどレスキュー隊の人は二人だけで、さすがにまだ人数が足らなそうだった。
「隼人ジューゼは任せた。ウチらはこの子達を助けてから加勢するよ」
「わかりました」
 理恵と未歩が加わって、瓦礫は一気に動いた。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
 親子がお礼を言い、理恵は嬉しそうに頭をなでた。
「早く逃げて」
 理恵と未歩はジューゼに向かって走りだした。するとマシン兵達が襲ってきた。
「ザコは引っ込んでなさい」
 未歩はうざったそうに、目の前のマシン兵を斬ったけど、さすがに数が多い。十や二十じゃすまない。ここから見てもそれは明らかで、後ろにいるマシン兵は何体いるんだろ?
「まずはこいつらをやっつけるよ。未歩」
「うん」
 二人はバッタバッタとマシン兵を倒していく。僕はジューゼに向かって剣を構えた。
「面白い。だったらその傷付いた体で、俺を倒してみろ」
 ジューゼは笑いながら戦いを挑んでくる。僕が剣を振り下ろしたけど、受け止めるまでもなくかわす。ジューゼが横にはらった一撃が、僕の脇に命中した。よろめいただけど後退しながらも、剣に向かって気合いの入った言葉を投げかけた。
「もう負けんなよ。心機竜モード。プテラキューレ」
「わかってるてる坊主」
 ジューゼは再び目から光線を放ったが、プテラキューレは放たれた光線をかわして、攻撃を決めた。しかしジューゼにはほとんどダメージを与えていなかった。
「この程度はかすり傷にもならない」
 特攻してきたジューゼの剣を、僕はかろうじて受け止めた。不利な状況を見て由里香らしい応援をした。
「あたしが好きになった人は、強い隼人だからね。負けたら許さないんだから」
「負ける? そんなの一ミリも考えてねえよ!」
 でもジューゼの素早い二つの剣をかわしたり、たまに受け止めるのが精一杯で、いっこうに攻撃をするチャンスがない。距離を取ろうと下がっても、ジューゼは張り付いてくる。ついにジューゼの一撃が僕の右肩に決まる。
「隼人、負けたらもうキスしないんだから」
 僕は痛みをこらえるように叫んだ。
「最初っからしていらねえよ」
 倒れた僕はすぐに立ち上がり、スピードをあげた。ジューゼは僕の攻撃を受け止め、もう一方の剣で攻撃をしようとしたら、僕の蹴りが手首に入り、剣を離してしまった。僕は攻撃の手をゆるめない。ジューゼは剣を拾う余裕はなく、さらに僕の剣を防ぎながら、一歩一歩とバックしていく。
「それでこそ、あたしが好きになった男よ」
 僕は渾身の力で剣を振り下ろした。
「お前は何様だ!」
「由里香様よ!」
 そこに逃げていた親子が戻ってきた。
「この一帯にはマシン兵がたくさんいます。私達はもう囲まれて、逃げられません」
 悲観的な顔をするお母さん。だけど由里香は希望に満ちた目で励ました。
「隼人があいつを倒します。他のザコも」
「本当?」
 愛ちゃんは首を傾げて、由里香に問う。
「本当だよ。あのお兄ちゃんは強いんだ。敵も強いから、一生懸命応援してるの」
「応援したら勝てるの?」
「絶対勝てるよ。応援するとすごく強くなるんだよ」
「あたしも応援する。頑張れー」
 愛ちゃんは大声を張り上げた。由里香は愛ちゃんから僕に向き直って、応援を再開しようとした。そのときマシン兵が襲ってきた。よりにもよって一番近くにいたのは、愛ちゃんだった。
「やめろー」
 すぐに気付いて、マシン兵に蹴りを決めた由里香。スタンロッドを奪い取り、電気ショックを与えると、由里香は叫んだ。
「みんな逃げて!」
 みんなはすぐに走り出して、爆発したマシン兵からの影響を受けずにすんだ。
「ふぅ。危機一髪」
「まだ終わりじゃないみたいだよ」
 由里香は最初に来たマシン兵を倒すのに一生懸命で、視野が狭くなっていた。続いてゾロゾロとマシン兵はやってきた。
「あたしも頑張るよ」
「香苗、足手まといにはならないでよ」
 由里香は前向きさから余裕の言葉を出したけど、表情を見れば明らかに不安の色は隠せない。戦士じゃない普通の女の子が、頑張っても不安なのは当然だ。警察官だって負ける敵を相手に、勝つのは至難の業だ。
「あたしが行くから。正直守りきる自信はないけど、ピンチのときはこれを使って」
 由里香は飯島さんにマシン兵から奪った、スタンロッドを渡した。
「由里香!」
 さっきは一体だったけど、今来てるのは五体。ヘタをすればまだ来るかもしれない。それをたった一人で、しかも武器もなく倒すなんて無茶だ。マシン兵のスタンロッドの動きを見てかわしたけど、横にいたマシン兵の蹴りが命中した。
「由里香!」
 倒れた由里香に飯島さんは駆け寄った。とどめをさそうとしているマシン兵に、飯島さんはスタンロッドを叩きつけた。爆発する直前に蹴っ飛ばして、別のマシン兵残りの三体も一気に倒した。
 でもまたマシン兵が現れる。飯島さんの前には二体のマシン兵がいる。さらに三体は親子の方へ向かった。
「間に合って良かった」
 後ろには未歩がいて、マシン兵を突き刺していた。すぐにもう一体のマシン兵を斬って助けた。
「無茶しちゃダメだよ」
「でもマシン兵に囲まれてるみたいで、逃げられないんだって」
「ピンチのときは」
「ウチを呼んで」
 親子の方から声がして視線を向けると、理恵がマシン兵を倒しながら、こっちの話しに参加した。
「なんで良いところをとるのよ」
「だってウチがいっぱいやっつけたいから」
「とにかくこっちのピンチがあったら呼んで。またあっちに行くけど、ここで誰かがやられたなんてことには、したくないからね」
 理恵と未歩は、マシン兵の大群へ向かった。
「あたしは隼人の応援をしようっと」
 数は多いけど、マシン兵相手ならそんなに苦戦はしなそうだ。実際にこっちを見ながら戦ってたから、襲われてることに気付いたと思うし。ジューゼを相手にしてる僕の方が大変だ。
「隼人、本当に勝ちなさいよ。勝ったら何でもするから」
「別に何もしていらねえよ」
 ジューゼは僕の剣を受け止めたものの、衝撃が強く、ジューゼの足はアスファルトをこすり、二本の深い溝を作った。
「あたしにここまで言わせて、そんなこと言うなんてどういうことよ」
「これが本音だよ。ただ応援は本当に力になってる」
 由里香は涙を流した。俯いて目をこすり、再び僕を見つめた。僕は少し開いた距離を埋めるように、一瞬の間もなく地面を蹴った。
「泣いてるってことは、ひょっとして負けるとか思ってたのか?」
 ジューゼも再び素早い攻撃をする。それを受け止めて、由里香をからかう。
「ちょっとだけ心配してたのよ。でもちゃんと勝てるって、信じてるんだから」
 再び守りに転じた。一本になったジューゼの剣は、二本よりは守りやすいけど、両手の攻撃のため、受け止めると腕に響いて、次の攻撃をしにくい。
「あったり前だ。由里香、お前のいつも本音を言うところ、僕は好きだよ」
 痛みを吹き飛ばすように、僕は由里香に叫び、ジューゼの腹部に剣を突き出す。
「さっきふったばっかりなのに、そんな言葉言わないでよ」
 涙声を背中で聞きながら、横に身をひるがえしたジューゼに、剣を持った右腕で肘打ちを決める。
「好きな気持ち、抑えられないじゃない」
 肘のあたった胸部を抑えて、よろめいたジューゼに、剣を振り下ろした。
「俺を惚れさせるんじゃなかったのかよ。意外と諦めるの早いんだな」
 ジューゼは剣を受け止めて蹴りを入れた。僕はジューゼの攻撃を予測できなかったため、蹴りがもろに決まって倒れてしまう。
 涙を拭いて僕に顔を向けた由里香は、嬉しそうに呟いた。
「バカ!」
 理恵達はマシン兵の大群を倒して、ジューゼに攻撃した。ジューゼは左右から来た攻撃に対応できずに、両腕を斬られてしまう。二人は僕に駆け寄った。
「マシン兵が多くて、時間かかちゃったよ」
 理恵は五分ほど遅刻した理由を語るように、弾んだ口調だった。後ろをチラッと見る。
「もう後ろを気にしないで大丈夫だね」
「これからが本番よ!」
 たくさんにいたマシン兵はいなくなり、これでジューゼとの戦いに集中できる。