「命に替えても、理恵と隼人は守ってみせる!」
 ジューゼはマッキーゼの拳を受け止める。パワーアップグローブを付けてても、ジューゼには効果がないようだ。
「お前が俺に勝てるわけがないだろうが!」
「勝てるかどうかじゃありません。あなたを許せないんです」
 マッキーゼが回し蹴りをすると、しゃがんでかわしたジューゼは、下段蹴りをして軸足を攻撃する。マッキーゼは倒れたが、ジューゼが腹部を狙ったキックを、転がってよけた。
「研究員にしては中々やるな。だがしょせんは研究員。動きにキレもなければ、次の攻撃もたやすくよめる。しかもパワーもなければ、逆転をするような必殺技もない。これが感情を持つ愚かさだ!」
 転がり続けるマッキーゼに、ジューゼは蹴りを繰り返す。よけられた足は次々と地面に穴を開けていく。
「勝てない相手に戦いを挑むなど、バカがすることだ。弱い奴は強い者に服従しろ」
 転がりよけるマッキーゼを攻撃しながら、ジューゼはダガーゴ帝国の考えを述べる。壁際に追い込まれたマッキーゼは、自分の感情を吐露する。
「今まで俺もそう思ってました。しかしそれは間違っていたことに気付きました。さっきも言ったように勝てるとは思ってません。ただこの手で殴らないと気が済まないんです」
 マッキーゼは倒れた状態で、ジューゼのキックに、パンチを繰り出す。ジューゼがバランスを崩し、マッキーゼはその隙に立ち上がって、腹部に拳をめり込ました。
「俺はあなたを許さない」
 ジューゼは一歩下がったけど、頬をさすって笑った。
「まさか一発でも殴られるとは思わなかったぜ。軽いダメージで、またダガーゴ帝国で働かせてやるつもりでいたが、そんな甘い考えはなしだ。今からお前をぶっ壊す!」
 マッキーゼは構えた。だけど目にも止まらぬ速さで迫ったジューゼの動きを、視認できずに、頭に踵落としを受けていた。
 衝撃により頭部が砕け、部品が散らばる。マッキーゼが手を頭に向けたときには、胸部に右ストレート。
「二カ所、致命的な故障だな」
 マッキーゼは苦痛の声を漏らしたけど、ジューゼの攻撃は、さらに太股を蹴る。
「これ以上マッキーゼに攻撃はさせない!」
 理恵は剣を地面に刺して、両手でジューゼの足を受け止めた。
「今はあのバカを殺す方が先なんだよ」
 ジューゼは理恵に構わず、マッキーゼの首を水平に叩きつけた。ジューゼのチョップは、その速さから、刃のような鋭さを出した。
「待て!」
 理恵は叫んだけど、声を出したときには遅かった。振り返ってジューゼを殴ろうとして、ショックで動きが止まった。コンクリートを転がって、マッキーゼの頭部が理恵の足にあたり、ジューゼは不気味に笑った。
「俺は待たない主義だ」
 理恵は言葉にならない悲鳴を上げて、呆然と立ちつくした。
 僕は心に深い恐怖を感じて、身動きできない。目を離したくても、目も離せられない。こんな奴に勝てるわけがない。強さが桁違いすぎる。足がブルブルと震えているのに、気が付いた。
「言葉を失ったか。心なんて持つからだ」
「どうして?」
 理恵の心が乱れて、マッキーゼの首のない体を揺り動かした。首の断面に機械が見える。
「何でウチらみたいに、強くならないの?」
 涙声の理恵を見てジューゼは笑う。
「そんなものに頼ってるのが間違いだからだ!」
 理恵は怒り、ジューゼを攻撃しようとするが、僕の声が耳に入って動きを止めた。
「逃げよう、理恵」
「えっ?」
 驚いて振り返る理恵に、僕は続けた。
「ジューゼの強さは本物だ。負ける前に逃げないと」
「何でそんなこと言うの?」
 不思議そうに尋ねる声は、信じられない気持ちがにじみ出ていた。
「僕はマッキーゼみたいになりたくない。死にたくないんだ」
「お兄ちゃん。マッキーゼのかたきをとろうよ。怖がってちゃダメだよ」
 理恵は僕の肩を掴んで、必死に訴えかけてきた。でもダガーゴ帝国の考え方の方が、正しいと思う。勝てない敵と戦うなんて、命を粗末にしているようなものだ。
「無理だよ。こんな奴に勝てるわけないよ」
 か細い声が口から出ていた。気がつくと体は震え、心の中には恐怖が充満していた。
「本格的に効果が出たか」
「何をしたのよ!」
「俺の目を見た瞬間に、脳の恐怖を感じる部分を刺激する光を送っただけだ。この時代じゃまだ見つかってないが、俺はこの力で人間に負けたことはない!」
「お兄ちゃんを元に戻しなさい!
「するか、バカ!」
「だったらあたしが戻す。あんたがバカにしてる感情が、どんなに強いものか証明する!」
「面白い。ショックな顔を見るために、待っててやるぜ」
 風が吹きマッキーゼの首が地面を転がり、ジューゼは足下に来たマッキーゼの頭部を、思いっきり踏みつぶした。血液に酷似した赤い液体が、嗅覚を刺激する。
「お兄ちゃん怖がってちゃ、何もできないよ。ウチ達は今まで強い敵と戦っても、諦めずに戦って、倒してきたじゃない」
「でもジューゼは別格だ」
「何でそんなこというのよ?」
「わからないけど、勝てる気がしないんだ」
「ウチ達がやらなきゃ、この時代が征服されるのよ」
「そうだけど……」
「お兄ちゃん。あたしがこいつを倒して、元に戻すから」
 未歩はジューゼに向かって走り出した。
「一人で俺に勝つ気かよ」
「ハートダッシュ」
 未歩は僕達が使っても、使いこなせなかったスピードアップの技を使った。だけどジューゼに剣を振るったが止められた。
「未歩。何でちゃんと使えるの?」
 激しい剣劇の中、未歩は答える。
「ジョグナーを倒してから、もっと強い敵が出てくるかもしれないと思って、ココヤに新しい技を教えてもらったの」
 僕の知らないところで特訓をしてたのか。改めて未歩のすごさを実感した。
「俺のスピードについてくるとは中々やるな」
 ジューゼが未歩と戦いながら守りに徹していく。
「お兄ちゃんを元に戻すために、あたしはジューゼを倒す!」
 未歩は僕を元に戻すために戦っている。嬉しい気持ちと、僕にそんな価値があるのか疑う気持ちが入りまじる。
「ウチも負けてられない。ハートダッシュ」
 未歩とジューゼが戦っているところに、理恵がコントロールできずに、ものすごい速さで突っ込んでいく。二人は理恵に気付き、接近して戦っていたが、息を合わせたように二人は後ろへジャンプした。理恵は二人の間を通過して、壁に激突して止まる。未歩はココヤをガンモードに変え、すぐに撃った。
「クッ!」
 ジューゼは近づこうとした瞬間に、ココヤが飛んできたため、弾丸となったココヤを、ぶった切ろうとしたが、ココヤはジューゼの振り下ろした剣をよけ、腹部にめり込んだ。
「あんたがバカにしてた気持ち。これがあたし達ハートレンジャーの強さなんだから」
 腹部を抑えたジューゼの表情には、まだ余裕がある。
「だったら俺は目的を最優先でやってやる!」
 ジューゼが未歩から離れた瞬間、飯島さんの方に向かっていた。
「死ね!」
 カキン!
 僕は飯島さんの前に行き、ジューゼの剣を受け止めていた。体が勝手に動いて、力がわいてきた。恐怖心がなくなって、ジューゼも倒せるような気がしてきた。
「な、なんだと!」
 ジューゼの腹部を蹴って吹っ飛ばす。体を起こすジューゼは、僕を睨みつけた。
「お前だけは絶対に許さない。どんなことがあっても僕は、飯島さんを守る!」
「これがバカにしてた、人間の心の力よ」
 理恵は僕の横に来て、ジューゼに向かって叫んだ。気がつくと理恵と同じように、怒りがみなぎっていた。僕の変化を見たジューゼは、若干うろたえたが、すぐに余裕の表情を取り戻した。
「まさかこんなことになるとはな」
 ジューゼの素早い動きにも対応して、次から次へ繰り出される剣の攻撃を、よけたり受け止めたりしていく。隙をついて胸を蹴り上げ、バク転をして着地と同時に地面を蹴って、ジューゼの胸に剣を突き刺した。
 ジューゼは刺された胸を抑えながら、苦しそうに表情を歪めた。それでも僕を睨みつける目には力強さがあり、一瞬でも気を抜くと、すぐにやられるような殺気を放っていた。
 ジューゼに負けないように、気合いを入れて構え直した瞬間、ジューゼは姿を消した。後ろに気配を感じて振り返ったときには、遅いと思った。
「グアァァ!」
 真後ろで僕の肩に剣が刺さる直前で、ジューゼは未歩に背中を貫かれていた。
「お兄ちゃんは、あたしが守る」
 ジューゼは狙いも定めずに、剣を後ろへ振って、未歩にかわされた。
「チッ! 俺が本当の力を出さなきゃいけなくなるとはな!」
 ジューゼは鋭い目つきで、雄叫びを上げた。するとジューゼから爆風が起き、僕達は吹き飛ばされないように、近くにあったものにつかまった。だけど飯島さんはガードレールに捕まったのに、風が強すぎて飛ばされた。
「飯島さん!」
 僕は飯島さんよりも先に行き、飯島さんを背中から受け止めた。足に力を入れて、飛ばされないように踏ん張ったけど、強風にあおられて、僕も飛ばされてしまった。
「お兄ちゃん!」
 未歩の声が聞こえたけど、次の瞬間ビルに背中をぶつけた。僅かな痛みはあるものの、このくらいは全然平気だ。問題は僕よりも飯島さんだ。
「大丈夫?」
 飛ばされないように、飯島さんの体をしっかり抑えて尋ねた。髪が乱れながら、僕の腕に手を伸ばして、安心した様子で頷いた。
 ジューゼの姿が変化していき、嵐のような風がやんだ。短い金髪を立たせた、二十代中盤の姿になった。体は大きくて手足が太くなり、両手に剣を持っていた。
「こいつは変身して、パワーアップするタイプか!」
 ココヤが呟き、肌で感じる緊張感を裏付けた。でも三人の力を合わせれば必ず勝てる。
「これでお前達は終わりだ」
 ジューゼは二刀流で構え、僕達の方へ向かってきた。
「これでお前達に勝ち目はない」
「あんただけは絶対に許さない!
 余裕たっぷりに勝利宣言をするジューゼに、怒りを露わにして、理恵はかつてないほど力を込めて名乗った。
「笑顔でハッピーがウチ流、ハートレッド」
 ジューゼの剣を受け止めた理恵に、未歩が続けて名乗る。
「冷静な判断があたし流、ハートブルー」
 未歩が水平に剣をはらったが、ジューゼは一歩下がってかわす。
「熱い男らしさが僕流、ハートイエロー」
 その動きを予想していた僕は、移動した瞬間に剣を突き刺す。
「人と機械の心を守る。心機戦隊ハートレンジャー」
 理恵と未歩も剣を刺そうとするが、二本の剣で払われた。
 おかしい。あたった感触はあるのに、ジューゼは、ダメージを受けているようには見えない。未歩がジューゼに向かって剣を振り下ろした。ジューゼは右の剣で受け止めて、僕の突きを左の剣でなぎはらう。右足で未歩を蹴り、未歩は下がって間合いを開けた。
「未歩、肩借りるよ」
 理恵は後ろから飛んできて、未歩の肩に着地して、さらに勢いを増して高く飛んだ。
「あたしを踏み台にしないでよ!」
 未歩のクレームを無視して、理恵は高い位置からマッハ全快で、剣を振り下ろす。
「ココヤ、パワー全開で行くよ!」
 理恵に頼まれたココヤは、力強く叫んだ。
「任せておけ」
「受け止めても、こんだけのパワーを止められないでしょ。マッキーゼのカタキ!」
 ジューゼも空高く飛び、理恵の腹部を切り裂いた。痛みに苦痛の叫びを上げる理恵。
「これならどうだ! 心機竜モード。プテラキューレ!」
 僕はプテラキューレに変形させ、空高くまで飛んだジューゼに攻撃をする。ジューゼは目から光線を放つと、僕とプテラキューレはあまりの速い攻撃によけることができなかった。未歩は落下してきた理恵の体を受け止め、純粋な剣術で戦いを挑んだ。だけど素早い二刀流の攻撃に対応できずに、斬られてしまった。ジューゼは倒れた僕達を見て笑う。
「これがお前らの力だ。感情など持っていても無駄なんだ!」
「そんなことない!」
 僕は反論し、攻撃をしたけどかわされて思いっきり蹴られる。ジューゼは倒れた僕達に剣を振るって、衝撃波を浴びせた。
「うわー!」
 僕達はよける力もなかったため、衝撃波を受けて変身がとけてしまった。
「良いことを思いついた。お前らがそんなに人間の感情が強さに繋がるというのなら、俺は人間を襲う。お前らが本当に強くなるのか、人間を守りきれるのか。試してみようじゃないか?」
 ジューゼは目にも止まらぬ速さで移動した。飯島さんは駆け寄って、僕の体を起こしてくれた。
「大丈夫?」
「正直、大丈夫って言えないな」
 僕は何とか立ち上がった。
「ウチは大丈夫だもん」
 理恵は立ち上がろうとして、足に力が入らずに倒れてしまった。
「理恵!」
 慌てて理恵の元へ行き、胸が地面にあたる前に支えた。だけど僕も力が入らないため、倒れてしまう。未歩はジューゼが向かった先を睨みつけたまま、伏せた状態で呟く。
「強がりを言うのは良いけど、今のあたし達が戦って勝てるの?」
 理恵は未歩に手をかして、立ち上がらせてから、鼻をこすって迷いのない目で見つめた。
「未歩って本当はバカなの?」
 笑った表情には偽りのない心が見えた。
「マッキーゼは勝てないと思ってても戦いを挑んだんだよ。ウチらが弱気になってどうするの?」
 理恵の言葉を聞き、未歩が答えようとしたら、ジューゼが向かった方角から悲鳴が次々と聞こえてきた。理恵は未歩を真っ直ぐ見つめた。
「ウチらじゃなきゃできないんだから。みんなを助けたいって、もっと強く思えばきっと勝てるよ。ウチらはそうやって戦ってきたんだから」
 未歩は微笑んで、理恵の手を重ねた。
「そうだね」
「こんなところでボーッとなんてしてられないな」
 僕も手を重ねて三人の心は一つになった。
 飯島さんが隣に来て尋ねた。
「みんな怖くないの?」
 僕達は一つになった気持ちを、飯島さんに伝えた。
「みんなを守りたい。だから怖がってなんていられない」
 飯島さんは僕に手を重ねた。
「あたしも勇気を出すよ。一緒にジューゼを倒したい。だからみんなでジューゼをやっつけよう!」
 飯島さんも僕達と同じ気持ちだ。僕達はボロボロの体だけど、まだ負けを認めていない。みんなを助けるために走り出した。