「友達がいないなんて可愛そうだよ」
「だから友達とは何だ?」
「仲良く遊んだら友達。そうしたら探してる答えもわかるよ」
 理恵は笑顔だけど、冷静に考えたら、強くなる秘密がバレたらまずいんじゃないか?
「マッキーゼって強くなる秘密を知りたいわけだろ。それってまずいんじゃないか?」
 耳元でひそひそ話をする。
「お兄ちゃんは心配性だなぁ。ちゃんと友達になったら、仲良くなるでしょ。そうしたらダガーゴ帝国も攻めてこなくなるじゃん」
 明るい声で説得された。そんなにうまくいくかなぁと思ったけど、これが理恵の良いところ。信じるって決めたんだし、不安になる僕の悪い部分を委ねてみよう。
「心配するな。強さの秘密を知りたいだけだ。俺はお前達と戦う気はない。もし戦ってもハートレッドには勝てない」
「ほらね」
 聞こえてたみたい。理恵は勝ち誇ったように微笑んだ。
「取り敢えず遊ぼう」
 お店に入ると漫才師がネタをしていた。お店が十周年らしく、イベントをしている。
「ちょっと見てこう」
 僕達は漫才を見始める。僕と理恵は笑ったけど、マッキーゼは疑問の顔を作った。
「なぜこの人間はおかしなことを言うんだ?」
「あんたは未歩か」
「理恵そのツッコミ最高!」
「さっき名乗ったが、名前を忘れたか?」
「なんで未歩みたいなセリフを被せるのよ」
 マッキーゼは不思議そうな顔で、ステージで爆笑をとっていく漫才師を見つめる。
「右側の人間は、修正するのに苦労している」
「それでいいの。一人が変なことを言って、もう一人がそれをちゃんとしながら笑わせていくの。漫才っていうんだよ」
「人間とは笑われたいのか?」
「笑われたいんじゃなくて、笑わせたいの。笑うとね、ハッピーになるんだよ」
 マッキーゼは疑問の顔を作る。
「本当だよ。嫌なことがあっても、笑うと楽しくなって、嫌なことを忘れられるんだよ」
 理恵はマッキーゼの脇をくすぐった。マッキーゼは黙ったまま、理恵を見つめた。
「何をしているのだ?」
「笑わそうとしてたのよ」
 怒ったように大声を出した。アンドロイドには脇をくすぐっても無駄なようだった。

    ☆

 ゲーセンに行くと、理恵は軽やかなステップで、ユーフォーキャッチャーの前に行く。
「ユーフォーキャッチャーをやろう」
「このボタンで操作して、この中のぬいぐるみを、あのアームで取るゲームだよ」
 マッキーゼは余裕の表情を作った。
「これくらいなら俺の発明品で簡単に取れる。まずはこの透明な壁を破壊するため、パワーアップグローブをつけて」
 マッキーゼは腰に付けた袋から、アイテムを出していた。
「ずるはダメー」
 マッキーゼの手には、ボクシングのグローブみたいなものをつけていて、壊して取ろうとしてた。それはゲームじゃなくて泥棒だよ!

    ☆

 僕達はファミレスに来た。
「どう? ハンバーグ美味しいでしょ?」
「この牛の肉を粉々に粉砕して、楕円形にして焼いたものがうまいのか。我々は人間に近く作られたタイプだが、サプリメントで栄養をとっている。それだけで一日の栄養が取れる。食事に時間をかけてはいられない」
「え~。じゃあ美味しいご飯を食べて、嬉しくなったりしないの?」
「このハンバーグというものが、美味しいかはわからない」
「うわ~、可愛そう」
「まだクレープ食べたばっかりだから、僕はちょっとお腹いっぱいなんだけど……」
 何とか食べたけど、クレープを食べてから時間はあまりたってないから、結構苦しい。
「ハンバーグは別腹っていうじゃん」
「言わないよ。何そのデブ的発想は?」
「ウチは太ってないよ」
「そうだけど、一日何食食べるつもりだよ」
「理想は五食かな」
「どんだけ食うんだよ。僕よりいっぱい食べてるのに、何でそんなにやせてるだんよ」
「元気だから、いっぱい食べないとダメなの」
「そうなのかもしれないけど」
 確かに理恵は無駄に走り回ったり、手を動かしたりしてる。エネルギーを使うのかも。僕は夕食は確実に食べられないと判断した。
「母さんに電話するね。ご飯食べてるって」
「ウチは食べるけどね」
「太ってもしらないぞ!」
「お母さんがいっぱい食べないと、大きくなれないって言ってたでしょ」
「それって小さいときだろ」
「あたし身長百六十九センチで、結構大きいもん。お兄ちゃんは?」
「僕の方が低いよ」
 兄貴として、男としてはせめて、百七十は欲しかった。
「そういえばこの前、幼稚園児に間違えられてなかったっけ?」
「そこまで小さくないよ。人をチビキャラにするなよ」
「アハハハ。メンゴ、メンゴ」
「これが漫才というやつか?」
「違う!」
 僕は理恵にツッコミを入れるテンションのまま、マッキーゼにもツッコミを入れた。それが自然な感じになって、自分でも驚くほど、仲良くなった感覚があった。
「すまん。違いがわからなかったが、コントというものか?」
「それも違う」
 笑顔で突っ込んだ。理恵は僕が言おうとしてたことを、先に説明した。
「これが楽しいってことだよ」
 マッキーゼは腑に落ちない顔で、考えながら尋ねてきた。
「しかし隼人は怒っているのではないか?」
「別に本気で怒ってるわけじゃないよ。それに顔は笑ってるでしょ」
「怒っている言葉に思えたが?」
「怒ってる言葉でも、顔が笑ってるでしょ。仲良しは冗談を言って、楽しむんだよ」
「リア充というやつか?」
「何でそんな言葉は知ってるのよ」
 なんで友達がわからなくて、リア充を知ってるんだよ。
「とにかく友達って、仲良く話すんだよ」
「理恵と隼人は兄妹じゃないのか? 友達とは冗談を言うのか?」
「兄妹だけど友達みたいなものかな。仲が良いから、冗談も言えるんだよ」
「実に興味深い」
 マッキーゼは顎をさすって考える。
「愛ちゃん。トマトもちゃんと食べなさい」
「トマト嫌い」
 隣のテーブルから幼稚園児の女の子が、トマトを食べずにいるのを、母親が叱っていた。
「あの少女は何故食べたくもないものを、食べさせられているのだ?」
「好き嫌いしてるからだよ」
「好き嫌いとは何だ?」
「これはお兄ちゃんが詳しいから」
「うまく答えられないからって、僕が詳しいとか言うなよ」
 僕は考えてから、マッキーゼに話す。
「えっと、食べ物の好きなものと嫌いなものがあって、嫌いなものを食べないことかな」
「別に嫌いなら食べなくて良いではないか?」
「嫌いでも食べさせるのが、教育なのかな。栄養が偏るしね」
 うまく答えれてないけど、急に説明しろって言われても、意外と難しい。
「だったらサプリメントでいいではないか?」
「栄養は食べ物で取るのが一番だと思うし、僕は親に感謝してるんだ。ご飯を美味しく食べれるって、幸せだもんね」
「お兄ちゃんって、ピーマン嫌いだよね?」
「もう食べれるようになったよ。あんまり好きじゃないけど……」
 僕達のやりとりを見ていたマッキーゼは、名案が閃いた顔になった。
「あの子に、トマトを食べさせれば友達か?」
 理恵は困りながら答える。
「友達じゃないけど、大切なことだから、似たようなものかな?」
 マッキーゼは袋からメガホンを出した。
「トマトを食べるんだ」
 メガホンから光線が出て、愛ちゃんにあたると、急にトマトを食べ始めた。
「えらいわね」
 お母さんは嫌いなトマトを食べた愛ちゃんを褒めて、頭をなでた。
「これでいいのか?」
 マッキーゼは胸をはった。だけど理恵は首を振った。
「道具で楽しちゃダメだよ。これじゃ操り人形だもん。本人が受け入れるのが大切なんだよ。ウチって良いこと言うなぁ」
 最後のセリフがなきゃ、良いこと言ってると思ったのに。
「人間の考えることは、よくわからないな。感情などなくして、やるべきことを忠実にやれば、効率よく成長できるじゃないか」
「ウチが超良いこと言ったのに、何で伝わらないの?」
 確かに良いこと言った気はするけどさ、考え方が違うんだから、ゆっくり近づかないと。
「その道具は使わないで。人って成長が遅いけど、一生懸命考えて少しずつ成長するから」
 やっぱり気持ちってすごく大切だと思う。誰かに操られるのは、考えただけで嫌になる。
「少しずつの成長で良いのか?」
「うん。急になんて変われないもん。今の僕じゃ難しいこともあるけど、少しずつ大人になってけば良いかなって思うんだ」
「そうそう。お兄ちゃんの身長が、急に二メートルになってたら、ビックリするからね」
「そんなに大きくなるわけないだろ」
「身長は冗談だけど、お兄ちゃんは恋の悩みで大パニックなの」
「もう。理恵のバカ!」
 僕は頬を膨らませたけど、理恵は笑う。
「今のは何がおかしかったのだ?」
 マッキーゼは不思議そうな顔を浮かべながら、僕達と話したことをまとめた。
「人間とは不思議な生き物だ。感情を優先するため、非効率な生き方をする。それが強さに関係しているようだな」
「マッキーゼには、自分の命よりも大切って思える人はいる?」
「ダガーゴ帝国では上司が危ないときは、自らの命で上司を守るようにと、インプットされている。より残るべき存在が、残った方が良いからな」
「だからそういうんじゃないの」
「そんな決まりじゃなくって、自分の気持ちでそう思える?」
 僕達の言いたいことは、マッキーゼに伝わってないなぁと思った。
「ピンチならピンチなときほど、助けたいって気持ちが強くなってきたから」
「自分の気持ちで助けたいと思い、行動することか……」
 考えるながら、マッキーゼは呟いた。
「ところでウチらのことは好きになった?」
「お前達と性交をしたいか訊いているのか?」
 理恵は赤くなった。もうちょっと考えてから話しなよ。
「そうくるとは思ってたけど、そんなてんどんいらないから」
「いつの間に天丼を注文したのだ? そしてキャンセルするのか?」
「その天丼じゃない!」
 理恵は水を飲んで、気持ちを落ち着かせた。
「そうじゃなくて、会ったときよりも、仲良くなった気はする?」
「知的好奇心を満たしてくれている。それには感謝をしている」
「未だにこのずれがあるのは何で?」
「おそらく未知のことを学ぶためには、かなり時間がかかるからだと思う」
「まずはその堅い喋り方を何とかしよう」
 僕達はファミレスを出て、工事中の道を歩いた。木材が落下し、おじさんが叫んだ。
「危ない!」
 僕達が見上げて木材に気付く。マッキーゼは高く飛び、木材を叩きつけた。木材は道路の方へ落下し、通りかかった車は急停止して、ぶつからずにすんだ
「大丈夫かい?」
「はい」
 おじさんが駆け寄ってきて、心配してくれた。僕達が大丈夫だとわかると、道路に落ちた木材を、数人で元の場所に運び始めた。
「マッキーゼありがとう」
 僕はマッキーゼにお礼を言った。
「気にするな」
「戦闘員じゃないって言ってたのにやるじゃん」
「研究員でも人間に比べれば、運動能力は高い。お前達からは、まだまだ訊きたいことがあるからな。死なれては困る」
「そんなこと言って、ウチのこと好きなんじゃない?」
「その質問が好きだな。同じことを何度も訊くのは、成長が遅い人間の、記憶力の悪さに起因するものなのか?」
「照れ隠しじゃなくて、素でこう言ってるから、イジりがいがないんだよなぁ」
 理恵はつまんなそうだった。

    ☆

 公園について理恵は走って、僕とマッキーゼから離れた。
「鬼ごっこしない?」
「鬼ごっことは何だ?」
「鬼ごっこはね、鬼を決めて鬼が他の人を捕まえるの。捕まった人は鬼になって、また誰かを捕まえるの。そんな感じで走りまわるの」
「それはトレーニングなのか?」
「ううん。遊び」
 説明する理恵は、ニコニコしてて楽しそうだった。
「さすがに高校生になって鬼ごっこは……」
 渋る僕を理恵は無視して、大声でやるってことで、話を進め始めた。
「じゃあウチが鬼で良いよ。範囲は公園の中だけね。二人とも逃げて」
 僕とマッキーゼは走り出した。理恵はマッキーゼを追い掛けるが、さすがに速い。近くまで来ても、マッキーゼには逃げられそうになる。理恵は左右に動きながら、ジリジリとマッキーゼを追い込んだ。マッキーゼは自分のスピードにかけて、理恵の横を走り抜けようとした。だけど理恵はマッキーゼが横に来た瞬間に捕まえた。
「さすがは理恵。ハートレッドだけのことはあるな」
「そうでしょ。そうでしょ」
 褒められて喜ぶ理恵の額には、夕日に照らされる汗が流れていた。
「楽しい?」
「まだ楽しいがわからない」
「こういうときは、素直に楽しいって言いなよ」
 マッキーゼは何かを理解しかけている表情になった。
「これが楽しいということか?」
「うん。こういう気持ちを一緒にする人が友達だよ。次はマッキーゼが鬼だからね」
 マッキーゼは僕に狙いを定めた。僕は入り口の方へ追い込まれた。そこには秀也がいた。秀也も誘おうと思ったら、苦虫を噛みつぶしたような顔になっていた。
「お前は何をしている?」
 秀也は僕を追い掛けるマッキーゼを、睨みつけていた。マッキーゼに視線を向けると、目を見開いていた。