衝撃が走った。よりにもよってジョグナーに奪われるなんて、どうすればいいんだ。
「この魂握り潰すこともできる。言ってる意味はわかるな。剣を捨てろ」
ジョグナーの冷静な口調は重く、僕は迷い未歩の判断を窺った。
「お姉ちゃん、絶対に助けるから」
未歩はジョグナーに向かって走り出した。
僕は驚きの声を漏らし、心臓が止まるかと思った。それはジョグナーも同じように驚いていた。
「未歩本気か?」
剣の姿のマデニも未歩の決断に驚いていた。ジョグナーに向かった瞬間、ソートールが立ち塞がったけど、未歩は走った。
「心機竜モード。トリケラマデニ」
ソートールはトリケラマデニに突き飛ばされ、立ち上がって未歩の背中を追う。だけど僕がソートールの背中に剣を刺す。そのまま連続で斬りつけたけど、傷に手をやりまだ生きているようだった。
「とどめだ。心機竜モード。プテラキューレ」
プテラキューレは高く飛んで、ソートールに向かって急降下した。何とか立ち上がったばかりのソートールは、大爆発を起こした。
これで残すはジョグナーだけだ。この前みたいにソートールが残ってるわけじゃないから、ジョグナーとの戦いに集中できる。
未歩はジョグナーの繰り出す遠距離攻撃をかわしながら突き進んだ。
「この魂本当に握りつぶしていいんだな?」
「どうせあたし達が剣を捨てても、あたし達を倒した後に潰すつもりでしょ。剣を捨てた直後に、潰すかもしれないしね。あんたと約束なんてできるほど、信頼関係を結べてないのよ!」
ジョグナーは決意を固めた。
「望み通りこの魂潰してやる」
未歩は剣を振り下ろし、鎌鼬のような鋭い風の刃を解き放つ。接近していたため、ジョグナーはかわすこともできずに、前腕が地面に転がった。指がピクピク動いている。理恵の魂は、ジョグナーが握りつぶす直前に、危機一髪でジョグナーの手から離れた。
「返ったら新しい腕を付けなければな」
当前のようにジョグナーは呟いて、剣から光線を放ち未歩に命中させた。理恵の魂を剣で斬ろうとした瞬間。
「何!」
「間に合った」
ジョグナーの剣は虚空を切り裂いた。
「妹を見殺しにできるかよ!」
僕は未歩がジョグナーに向かっていたときに、すでに走っていた。ジョグナーの前まで行き、理恵の魂を両手で掴み取り、そのままダッシュを続ける。
「お兄ちゃん走って。心機竜モード。トリケラマデニ」
ジョグナーが僕を襲う前に、未歩はすぐに反撃を始めた。
早く理恵の体に魂を入れなきゃ、間に合わないかもしれない。背中に嫌な気配を感じて振り返ると、ジョグナーの攻撃が飛んできた。理恵の魂を投げ、力を最大に込めてエネルギー弾をぶった切る。爆破する直前に走り出して、落下地点にタイミングを合わせて行き、魂をキャッチする。
ジョグナーは未歩と戦いながら、何発も遠距離攻撃をしてきた。理恵の魂を持ったまま、僕はよけながら走っていく。だけど数が多い。よけきれずに、背中にあたってしまう。
「クッ!」
未歩と戦いながら、ジョグナーは連続で遠距離攻撃を続ける。狙いは正確で攻撃を受けてからは、どんどん僕に命中していく。体には激痛が走り、力がなくなっていく。変身がとけてしまい、倒れたまま悔し涙を流していることに気がついた。
「お兄ちゃん笑って。理恵お姉ちゃんの言葉。笑顔じゃないとハッピーにはなれないから。落ち込む暇があるなら、頑張って。ウッ」
未歩も苦戦していた。それでも僕に声援を送ってくれた。ネガティブな気持ちを、一瞬で振り切った。マスクの中は最高の笑顔になり、理恵を元に戻すことを固く誓った。
立ち上がった刹那、炎の球が飛んできた。体が思うように動かないけど、気持ちで横に飛んでかわす。地面を蹴って着地をすると、信じられないほどの痛みに襲われた。
「ウオーーーーーーーーーーーーーーーー。こんなのに負けねえぞーーーーーーーーー」
ボロボロの体で走り続けた。理恵が死ぬかもしれない。そんなことは絶対にさせない。いつも使ってない根性は、今のために温存してたんだ。
ジョグナーの攻撃は飛んでくるけど、狙いよりも速く走ればあたらない。後ろで爆発音が何度も聞こえた。
額から垂れる血が目にしみたけど、奥歯に力を入れて走り続けた。
「あたしも負けてられない」
ジョグナーは片手がない状態だけど、余裕で剣を振るう。未歩はジョグナーの剣を受け止めても、押されることはなかった。きっと由里香に対向するためにしていたトレーニングが、ジョグナーとの戦いに役立ったんだ。
ジョグナーはいったん距離を取った。でもジョギングもしていたため、未歩は追い掛けることも可能になっていた。
「お姉ちゃんは、絶対に助ける」
未歩も心の底から理恵を助けたいと思い、パワーアップしている。
ジョグナーは片手がなくなったから、剣と同時に技を使えない。未歩に向かって剣を投げつけた。未歩はサッとかわした。今の未歩の素早さからしたら、投げられた剣をかわすのは、たやすいことだった。
「後ろを見ろ」
未歩は振り向き、剣は僕に向かっていた。
「おいらを忘れてるよ~ん」
キューレはケータイの姿から、剣に変形して、僕は飛んできた剣を叩き落とした。だけど未歩はジョグナーのムチで攻撃を受けた。ジョグナーの本当の狙いは、未歩の隙を作ることだったんだ。
「仲間とは油断を作る弱点だな。振り返れば、隙ができるだろ?」
ジョグナーの言葉に、未歩はフッと鼻で笑った。攻撃を受けた左腕を押さえながら、ゆっくりと語った。
「あんたにはわからないよ。本当の人間は、大切な人を守るため、怖くても助けたい気持ちがあるの。人の力には限界はないのよ」
「機械でも俺はわかるぜ」
マデニは未歩の気持ちを理解している。
未歩の言葉を聞いて、僕は怪我をしているのに、いつもより速く走っている気がした。無我夢中のダッシュはいつもより速く風を切っていた感覚がある。
未歩はジョグナーに向かって走り出す。ムチは剣に巻き付き、未歩から剣を奪ってしまう。ジョグナーは剣を捨てて勝利を確信したように話す。
「これで勝負は決まったな」
マデニがケータイの形になって戻ってくるが、ムチで叩き落とされた。
「うわ!」
「よくもマデニを!」
「剣は使えない。さぁどうする?」
未歩は狼狽えることなく、拳を構えた。
「あいにく、まだ負ける気がしないのよ。勝たせてもらうからね」
走り出して高く飛んだ。信号にのり、高い位置から勢いのあるキックをジョグナーに決める。ジョグナーのスピードでも、動こうとした瞬間にはよけられなかった。
「由里香ちゃんが家に来たときに、木の上から蹴ろうと思って練習した技が、こんなところで役立つとはね」
未歩はジョグナーよりも、由里香を倒すことに燃えていた。結果的にジョグナーを倒すことに効果を果たしたわけだけど。起き上がったジョグナーに、連続で拳をめり込ました。パンチ力も向上しているので、ジョグナーはかなりのダメージを受けている。ジョグナーが倒れ、しばらく動けないと判断して、未歩はマデニを拾った。
「マデニ。大丈夫?」
「ちょっと休んでただけだ」
マデニを剣の姿にして振り返った。
僕は理恵の前に行き、魂を胸に入れた。ソートールとの戦いで、剣を受け止めた体勢のままだった理恵は、腕を下ろす。
「卑怯者!」
目の前にいるのは僕で、しばらく考える時間が必要だった。
「あれ?」
「良かった」
まだ状況を飲み込めていない理恵に、涙を流して喜んだ。
「おのれ~。お兄ちゃんに化ける技も持ってるのね。覚悟!」
「ちょっと待て。僕は本物だ」
「確認しなきゃ。お兄ちゃんの好きだけど、ふられた人は?」
「飯島さん」
「本物だ」
他の方法で確認してよ。心がえぐられたよ。嬉し泣きしてた涙が出そうだったのに、涙腺に逆ダッシュ。
「説明は後。未歩がジョグナーと戦ってるんだ。理恵行くよ」
「うん」
僕と理恵は未歩の元へ走りだした。
「笑顔でハッピーがウチ流、ハートレッド」
「冷静な判断が私流、ハートブルー」
「熱い気持ちが僕流、ハートイエロー」
「人と機械の心を守る。心機戦隊ハートレンジャー」
ジョグナーは地面を殴り、アスファルトが割れた。地割れは僕達に向かってきた。ジャンプをして離れ、剣を構え直す。ジョグナーの素早さに対向できるのは未歩だけ。未歩が走り出し、遅れて僕と理恵が攻撃をするけど、よけられてジョグナーの攻撃を受けてしまう。ジョグナーはムチで、未歩と互角に戦っている。ジョグナーは僕達の動きを止めるため、地割れを起こすけど、三人ともよけては攻撃に転じた。これが繰り返され、辺りには地割れが増え、未歩は異変に気付いて叫んだ
「気をつけて。戦い方がいつもと違う。何かたくらんでるはずよ」
未歩が地割れの上をジャンプした瞬間、ジョグナーの作戦が発動した。
「ブレイク!」
ジョグナーは未歩がいた地面から、ものすごいエネルギーを放射させた。未歩は空高く飛ばされて、地面に落下し倒れてしまった。
「未歩!」
「後は余裕で倒せるな」
僕の叫び声は、ジョグナーの淡々とした声によって掻き消された。
「今のはエネルギーを地面に隠し、ハートブルーに放つ作戦。さすがに見破れなかったな」
僕と理恵はスピードが圧倒的に違うため、ジョグナーに攻撃を受けていく。
「クソッ! 心機竜モード。プテラキューレ」
プテラキューレにジョグナーは巨大な竜巻を放った。プテラキューレだけでなく、僕も吹き飛ばされてしまう。
「あとはハートレッドだけだな」
未歩は立ち上がる。下から攻撃されたため、足のダメージは大きく、歩くのも困難だった。
「これで終わりだ!」
ジョグナーが理恵にとどめを刺そうとした。僕達が剣に力を込めて、僅かな力で走る。
「絶対に負けない。ウチは絶対に勝つ!」
「この程度じゃ、あたしは負けない!」
「僕は絶対にお前を倒す!」
勝つ可能性は低い。それでも立ち向かう。仲間を守るために諦めない。僕達の剣は光だした。ジョグナーは速すぎて、動きを制御できず、三方向から来る光線に腹部を貫かれる。
「みんなその気持ちだ。俺達に気持ちを込めろ。俺達を解き放て!」
ココヤの言葉に理恵は、疑問の声をあげる。
「まだ技を隠してたの?」
「今までは使えなかったんだ。でも絶対に倒すって感情が、心機ウェーブを使えるようにしたんだ」
ココヤと話す理恵を、マデニが中断させた。
「お喋りはここまでだ。この技は敵を倒すって強い気持ちがなきゃ使えない。集中しろ」
「そうだヨーヨー。僕らはしゅーちゅーしなきゃダメダメ何だからね。ツンデレ風」
キュ-レが集中しにくい雰囲気を作った気がした。それに今のってツンデレじゃない。
「もう一回三人同時にやるんだ」
「心機ウェーブ」
三人の剣からそれぞれの色の輝きを放ちながら、衝撃波がジョグナーに向かっていく。囲まれていたため、ジョグナーは逃げれなかった。ジョグナーに命中し、大爆発が起きた。
「倒したのか?」
理恵が警戒しながら近づいた。僕と未歩もついて行く。辺りには何もなくなり完全にジョグナーを倒したことを確認した。理恵はみんなとハイタッチをして喜んだ。
「やったー」
僕は理恵と未歩を交互に見つめた。僕達が元の姿に戻ると、ココヤが話す。
「負けそうになっても諦めずに戦う勇気で、心機ウェーブを使えるようになったんだ。本当の勇気は、諦めない気持ちだ。自分のことを守ろうとしてちゃ、本当の勇気じゃない。お前達の勇気最高だったぜ!」
「そう。ウチも今それを言いたかったの。さすがは相棒。ウチの言いたいことがわかってるんだね」
絶対嘘だ!
理恵は考えてる顔になってなかったし。
☆
学校帰りに僕は飯島さんと帰った。僕が一緒に帰ろうと誘ったら、あっさりオッケーしてくれた。
「ちょっとジュース飲もう」
僕は自動販売機でジュースを二本買って公園に入った。ジュースを渡して、飯島さんを真剣に見つめた。
「秀也と付き合ってるから、ダメかもしれないのはわかってる。でも本当に好きで好きで、この気持ちを抑えられないんだ。秀也よりも僕の方が好きだったら、付き合ってくれ」
飯島さんは複雑な表情を浮かべた。声を出せずに見つめる僕の視線に耐えられなくなって、涙を流した。俯き泣く姿を優しく見守る。
「ごめん。でも俺は待ってるから。飯島さんをずっと待ってるから」
僕は気持ちを打ち明けた。だけど僕の言葉を聞いて、誰かが走ってきた。俯いたままなので誰かわからない。
「あたしは待たないよ。だって隼人が好きだから。いつも横にいて、絶対に好きにさせるんだから。うざいと思われても、この気持ちを止められないんだもん」
早口でまくし立てたのは由里香だった。
「俺は由里香のこと好きじゃ」
僕の声が途中で止る。由里香はふられる言葉が出る前に唇を重ねた。僕は大きく目を開く。心臓が止まるような衝撃が胸を襲った。
「これでもイヤ?」
由里香の問いに、僕はすぐに言葉を紡げなかった。それを見て飯島さんは決心を固めた。
「もういい!」
ジュースを投げられ、開けられていない缶が、僕の肩にあたった。
「待って!」
僕の声が背中に刺さっても、飯島さんは走り出した。
「離せよ」
「イヤ」
追い掛けなきゃと思っても、由里香が僕の手をつかんで、離してくれなかった。