僕の連続攻撃が、ジーシャックに決まっていく。
「磁石パンチ」
巨大磁石を縦にあてられた。顔と太股に命中し、僕は吹っ飛ばされた。変身した妹達が遅れてやってきた。僕と由里香が離れていることに気付き、理恵は手を引っ張ってくれた。
「お兄ちゃんやるじゃん」
「お兄ちゃん元に戻ったの。やったー!」
未歩はがむしゃらに喜んだ。僕が望んだわけじゃないけど、あの状況は相当嫌だったみたい。理恵はクスクス笑いながら、未歩がグチっていたことを語った。
「お兄ちゃんの前では普通にしてたけど、未歩すごいグチってきてさ」
「お姉ちゃん、それは言わないでよ」
「おっぱい触りたかったら、あたしの触っていいのにって言って、笑いをこらえるのが辛かったよ」
「爆笑してたじゃない」
「あれでも我慢してたんだよ」
未歩は恥ずかしさを誤魔化して、大声で喋った。
「う、うるさいわね。行くよ!」
僕達は立ち上がったジーシャックの前に並んだ。
「笑顔でハッピーがウチ流、ハートレッド」
「冷静な判断が私流、ハートブルー」
「熱い気持ちが僕流、ハートイエロー」
「人と機械の心を守る。心機戦隊ハートレンジャー」
一斉にジーシャックに立ち向かう。
「みんなくっついちゃえばいいんだな!」
ジーシャックはSNボールをどんどん出す。剣で弾きながら、ジーシャックとの距離を縮める。
「隼人ー。頑張って!」
由里香はみんなが攻めてる状況を嬉しそうに応援している。ジーシャックは間合いが近いため、破壊力満点の磁石パンチを繰り出すけど、よけた僕は今までの怒りを剣に込めて、斬りつけた。
「由里香に迷惑かけた恨み、許さない!」
「やった。やったー」
由里香は僕のセリフと、決まっていく攻撃に歓喜の声を上げた。僕の剣はジーシャックの動きでは対応できない程速かった。
「次はウチが行く」
僕はジーシャックの動きに合わせて後退し、理恵が走った瞬間だった。急にジョグナーが現れた。また後ろだ。
「理恵、後ろ!」
僕が叫んだ刹那、理恵は剣で斬られた。
「昨日は油断した。しかし今日はお前らを」
「うるさい」
僕が攻撃をしたけど、余裕で受け止めた。目にも止まらぬ速さで、離れていた未歩を斬りつけ、さらに一瞬で戻り、僕も斬ってしまう。喜んでいた由里香は、呼吸を止め大きく見開いた目で、一瞬も見逃さないように、戦況を見つめている。飯島さんは油断できない相手が現れたことを理解し、応援を始めた。
「大田君、頑張って」
攻撃を受けても、励まされると、負けてられないと、強い気持ちが生まれる。
「みんな頑張って!」
「俺が本気になれば、お前らなんかに負けるわけがない」
飯島さんの応援を掻き消すように、ジョグナーは自分の勝利を確信している。ジョグナーは剣を持っていない左手から、黄色いムチを作り、離れたところからも攻撃をした。
「俺らが簡単に負けを認めると思ってるのか?」
僕は襲ってきたムチを剣で斬る。
「どんなもんだ」
「さっすが隼人!」
ジョグナーに自分の力を見せつけた。由里香は僕の活躍に喜んだけど、飯島さんの表情には、不安の影があった。
「油断しないで!」
僕がジョグナーに向かって走り出した瞬間、後ろから何かが来た。気付いたときには、体がグルグル巻きになっていた。黄色い紐状のもので、今斬ったムチだった。。
「お兄ちゃん!」
未歩が僕の方に来て、ムチを斬ったけど全然歯が立たない。
僕は過信していた。飯島さんの言葉を聞いても、うまくいくと思っていた。
「一人は戦闘不能だ。それは俺の意志でしか斬ることはできない」
僕の攻撃のときは、わざときれたのか。
ジョグナーは余裕の声で、グルグル巻きになって倒れた僕を見下ろした。
「卑怯者ー!」
由里香はジョグナーにクレームをつけたけど、ジョグナーに鋭い眼光で睨まれて、声を失ってしまった。
「なめんじゃねえよ。まだ戦える」
もがき出す僕だったけど、ムチが雷のように光り出し、あまりの衝撃に悲鳴を上げた。
「動くと電流が流れる」
「よくもお兄ちゃんを!」
「要するにジョグナーを倒せばいいんでしょ。どっちにしろ倒すつもりだったしね」
未歩は怒り、理恵は余裕の声で、ジョグナーに向かっていく。ジョグナーの素早い動きには、二人とも対応できなくて、攻撃を受け続けた。
「絶対に諦めない」
「うん。それにまだチャンスはある」
二人ともジョグナーの攻撃を受けて倒れても立ち上がり、勝利を諦めてない。未歩は理恵を見て、少し上を向いた。理恵はその動きを見て、未歩の作戦を理解した。理恵はジョグナーに立ち向かい、いきなり高く飛んだ。理恵を攻撃しようとしていたジョグナーは、驚いて次の動きを決められずにいた。後ろから未歩がトリケラマデニに変形させていた。気付いた瞬間に、自慢のスピードでかわす。動きが速かったため、間近にまで近づいたのに惜しい。
「逃がすか!」
一回よけてもトリケラマデニは追い掛ける。ジョグナーは振り返り、竜巻を作ってトリケラマデニを吹き飛ばした。あんな巨大な体を吹き飛ばす威力の竜巻を、一瞬で作るなんて信じられない。
ジョグナーは知的な作戦をする、未歩から倒すことにした。マデニはケータイの姿で戻って、剣に変形した。未歩はジョグナーの剣を受け止めた。
「何度も攻撃を見てるから、パターンがわかってきたのよ」
「未歩すごいよ」
走ってくるジョグナーは、比喩でも何んでもなく、目にも止まらぬ速さで、走り出した。次の瞬間には誰かを攻撃している。そんな奴を相手に、攻撃パターンをよんで受け止めるって、未歩の冷静さがあってできる技だ。
「クッ!」
受け止めただけじゃダメだった。ジョグナーの剣は重く、後ろへ飛ばされた。理恵が援護したけど、ジョグナーの左手から出た火炎により、倒れて動けなくなった。
「これで戦闘不能が二人だ」
「お姉ちゃ」
未歩は理恵に何か言おうとしたら、ジョグナーが攻撃を仕掛けて、話す暇を与えなかった。未歩はジョグナーの剣を受け止めるのが、精一杯だったけど、動けなくなったと思った理恵は立ち上がった。
「未歩どいて。心機竜モード。ティラノココヤ」
最後の力を振り絞り、ティラノココヤに変形させて、うつ伏せになる理恵。
「俺がやっつけてやる!」
ココヤは気合いを入れるけど、ジョグナーは再び竜巻を作り出した。
「しぶとさだけは認めてやる。だがもう勝負は決まっている」
ジョグナーは余裕の表情で勝利を確信した。ティラノココヤは竜巻がきた瞬間、ジャンプでかわした。ジョグナーに向かって走りだした。だけどティラノココヤは戻ってきた竜巻に襲われた。
「あのプテラノドンと同じことくらい、俺にもできる」
「ウオオオオオオオーーーーーー。負けねええええーーーーー!」
ティラノココヤは巨大な体が浮き上がったにもかかわらず、強い信念で叫んだ。吹き飛ばされたものの、ジョグナーをしのぐスピードで戻ってきて、ジョグナーに噛みついて、思いっきり地面に叩きつけた。体力はもう殆ど残っていない。胸に溢れる熱い気力だけで戦っている。剣の姿に戻って、理恵の手に収まるココヤ。ココヤには、いやみんなには、ジョグナーにはない強さがある。絶対に勝つって信じ抜く心。理恵らしいハッピーを目指す感情は、絶対に諦めない気持ちが根底にある。
剣を握った理恵は、傷付いた体で立ち上がり、勝負を諦めていない力強い声を出す。
「ウチ達は絶対に勝つ!」
ジョグナーは立ち上がるけど、ふらついている。理恵は倒れそうになりながらも走っていく。ジョグナーはよけることもできずに斬られた。荒い呼吸を続け、理恵は強敵を倒したのか、まだ生きてるのか判断しかねている。
「倒したの?」
「強いジョグナーのことだから、まだわかんないよ」
半信半疑の理恵に、未歩は警戒するように促した。二人はジョグナーを倒せたか確認する。二人が近づいたら、ジョグナーは倒れたまま命令を下した。
「ジーシャックやれ!」
すると隠れていたジーシャックは、飯島さんと由里香を襲った。ジーシャックの腕が二人の首に巻き付き、呼吸さえも困難な状態になった。ジーシャックの腕を引きはがそうとするけど、腕力は女の子じゃ歯が立たない。理恵と未歩が、ジーシャックの方へ助けに行くと、ジョグナーの剣が二人を襲った。
「あの程度じゃ俺は倒せない」
傷だらけになって立ち上がったジョグナーは、さっきほどの速さはなくなったものの、依然として戦う力は残ってる。背を向けた理恵に攻撃をするのも余裕で、すぐに反応した未歩の攻撃を受け止めて反撃をした。二人とも倒れ、見下ろすジョグナーに、ボロボロな状態で戦うのは困難だった。それでも心に燃える闘志で睨みつけている。
由里香が心の底から叫んだ。
「隼人ー、助けてー!」
ほんの一瞬だけ、喉を押し潰すジーシャックの腕を緩めた。普通の女の子の由里香に、そんなことができるなんて。
必死になって助けを求めてる。なのに、僕はムチに巻き付けられて、倒れたまま。
「隼人は、絶対に勝てるって信じてるからー」
僕の心に闘志がわいた。
由里香は再びジーシャックの腕に、喉を押し潰されてしまい、伸びた声は強制的に停止させられた。由里香の僕への気持ちは本物だとわかった。
飯島さんよりも強いかも知れない。心の底から出した助けは、僕を好きだと否応なく理解させた。
「もっと強くしなきゃダメなんだな」
ジーシャックの腕にかかる力は強くなり、喉にかかる負担は大きくなっていく。由里香が少しでも動かせたから、ヘタをすれば逃げられるかもしれない。より強く締め上げるのは当然のことだった。由里香は苦渋の表情を浮かべ、抵抗をする意志はもう感じ取れなかった。飯島さんも同様に、呼吸も困難な状態で、だんだん顔が真っ白になっていく。
もう我慢できない。
「二人を離せー!」
二人の閉じていく瞼が上がった。僕の心からの叫び。助けたい気持ちが爆発し、ジョグナーの技で巻かれたムチが、爆発的な光を放ったけど、全く作用しなかったように、腕と足を開きブッちぎった。驚愕するジョグナーだったけど、僕の圧倒的なスピードで、ジーシャックの頭部を剣で貫いた。僕は剣を伸ばし荒い呼吸をする。シーシャックの力がなくなり、飯島さんと由里香は腕からするりと落ちた。由里香は限界に達してたみたいで、その場に崩れ落ちた。
「由里香、由里香ー!」
飯島さんは由里香の肩を揺すって、大声をあげる。ヘタをしたら、もう呼吸ができなくなってる。一端始まったマイナス思考は、悪い方ヘ連鎖的に進んでいく。落ち着かなきゃと思ったけど、思考の悪循環は止まらない。でも飯島さんは必死に、由里香の名前を叫び、体を揺らした。
「目を開けてよ。太田君が助けてくれたよ。由里香が死んだら意味ないじゃん」
肩を揺する手は強くなり、由里香の顔は前後に動き続けた。由里香の頬に滴が落ちた。飯島さんの涙がこぼれた。
「由里香ー、由里香ー」
飯島さんは、自らの力で動かなくなった由里香を、強く抱きしめた。
「死んじゃやだよー」
心からの叫びは、この辺りの空気を飯島さんの感情で包んだ。今は由里香のことで悲しむ、気持ちをみんなが共有している。
「うるさいわね」
「由里香っ!」
小さな声が聞こえた。抱きしめていた由里香の体から離れて、由里香の顔を凝視した。目はつぶったまま、わずかに唇を動かして、飯島さんに対する嫌みな口調は健在だった。
「苦しいから休んでるだけよ」
「本当?」
飯島さんの表情は、悲しみから喜びにシフトして、嬉しい気持ちが溢れて、涙が洪水のように流れた。嬉し涙が由里香の顔に垂れていく。
「本当よ。人をかってに死んだみたいに扱わないでよ」
「良かった。本当に良かった」
「涙拭いてよ」
飯島さんは慌ててハンカチを出て、由里香の顔の涙を拭った。
「嫌われてると思ったけど、死んだら泣いてくれるのね」
「嫌いっていうか、苦手だったけど……。友達が死んだら、ううん。こんな状態になったら、悲しくて泣くのは当たり前だよ」
「友達……。そう思ってたんだ」
瞼を上げた由里香の目は、キラキラと輝いていた。わずかに潤んでいるのに気付いて、さっきまで相当苦しかったと思った。
「じゃあ、あたしも友達って思うよ。でも本音を言うのは変えないけどね」
上半身を起こして微笑んだ。苦しさが残るものの、ニッコリとした笑顔は曇りのない素顔。いつも本音の由里香らしい。細くなった目から涙が流れた。頬をしたたる水滴は、太陽の光を浴びて、虹色に光っていた。
「は、恥ずかしいから、泣いてるところ見ないでよ」
「ご、ごめん」
「でも嬉しかったよ。友達って言ってくれたことっ!」
飯島さんはそらした顔を、由里香の方に戻した。今度は由里香が、飯島さんから顔をそらす。さっきまでとは違う紅潮で、由里香は恥ずかしさを紛らわすように大声を上げた。
「鈍感!」
「そ、そうかな?」
「今まで友達っていなかったから。あんまり話してもないし。だから……、友達って言ってくれたことが嬉しかったのよ!」
「そ、そうだったんだ」
飯島さんには当前だったから、ピンとこなかったみたい。みんなと分け隔てなく話すから、誰が友達で誰が友達じゃないって考えはなかった。特に仲良しはいるけど、みんな友達って考えのタイプだから。
確かに由里香は教室で一人のことが多い。僕には話すけど、最近までは急に文句を言ってきたりで、まさか好きだったなんて思わなかった。でも寂しさを見せずに、常に自分の考えを持って行動と発言をしていた。僕は由里香に大人の雰囲気を感じていた。
「もう大丈夫だから。みんなを応援しよ」
二人は立って僕を見つめた。僕はマスクを外して近寄っていった。
「大丈夫そうで良かった」
「助けてくれてありがとう」
僕の眼差しが、由里香の笑みを作る。
「ごめんな」
「何で謝るの?」
由里香が疑問のセリフを口にして、飯島さんも不思議そうな顔を向けた。僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「傷付けないって、約束したのに守れなかったから」
「そんなことないよ。あたしを助けてくれたんだから、信じてたから。隼人はあたしを助けてくれるって。だからさ、あんな奴本気出してやっつけて」
「あぁ」
ジョグナーは驚きを隠せずに、僕に向かって疑問を連発した。
「何故だ? 何故動けるようになった? 何故俺よりも速く動けた? 何故あのスピードで人質にあてずに、正確に頭を貫いた?」
ジョグナーは疑問が頭の中に渦巻いて、攻撃する余裕がなかった。
「決まってるだろ。好きな人を守りたいって気持ちが、俺を強くしたんだ」
由里香の頬がポッと、桜色に染まった。
「そうだよ。ハートレンジャーは強い心を持つと、いくらでも強くなるんだよ」
キューレの言葉を聞き、僕は絶対勝つと心に決めた。僕はマスクを被り、ジョグナーに向かい剣を交えた。互角の戦いだったけど、次第に僕の動きは速くなっていく。僕が攻撃するターンが増え、ジョグナーは僕の剣を受け止めるのが精一杯になった。
「バカな! そんな感情ごときで強くなるはずがない!」
ジョグナーは僕の剣を受け止めきれずに、剣が手から落ちてしまった。僕はジョグナーの剣を蹴り飛ばして斬りつける。倒れたジョグナーに荒い呼吸で睨む。
「まだ生きてる」
ジョグナーはふらつきながら立ち上がった。喋り出したと思ったら、もう姿はなくなっていた。
「今日は負けを認めてやる。だが次は必ず勝つ。覚えていろ!」
戦いが終わり、みんな元の姿に戻った。ボロボロだけど大怪我はないみたい。僕は飯島さんの方に近づき、真剣な口調で話し出す。
「僕、本当の気持ちがわかった。みんなを守りたいって気持ちはあるけど、誰よりも飯島さんを守りたい」
僕の言葉を聞き、飯島さんは目を見開いた。
「由里香とくっついて誤解させたことは謝る。だけど僕が本当に好きなのは飯島さんだから。今の戦いで自分の気持ちを正確に理解出来た。さっき飯島さんが捕まったときに、絶対に助けなきゃって気持ちになったんだ」
ジョグナーを超える力を身につけたのは、飯島さんを助けたい気持ちだ。もちろん由里香もだけど。
「だから付き合ってくれ。何があってもずっと守るから」
飯島さんは迷っていた。うまくいく自信はある。だけどためらった声が聞こえた。。
「あたしは由里香ほど、好きじゃないと思う」
流れる涙を拭きながら続ける。
「もっと早く言ってくれたら良かったのに」
顔を上げた飯島さんは、僕を見つめると、悲しみの表情を浮かべていた。混乱した様子で、感情が爆発して、うまく話せずにいた。
「考えさせて」
辺りに重たい空気が流れ出した。