「未歩!」
 理恵がジョグナーを攻撃した瞬間、そこにジョグナーはいなくなっていた。
「ここだ」
 キョロキョロと見回すと、再び後ろに回り込んでいた。ジョグナーは剣を振り上げた。
「させるか」
 未歩はすぐに立ち上がって剣を振って、鎌鼬を解き放つ。
「少しはやるな」
 ジョグナーは後退し攻撃に出る。理恵は立ち向かって、剣を振り下ろす。
「動きが遅い!」
 翻弄される理恵は動きにキレがなくなってる。ジョグナーは理恵を何度も攻撃していった。防御もろくにできすに、どんどんダメージを受けていく。見てるのが辛い。強すぎるジョグナーにどうすればいいんだ
 未歩が助けに入った。素早いジョグナーの剣は未歩の剣術でも防げなかった。未歩の体も傷を増やしていく。二人とも何度倒れても立ち上がる。
「何故諦めない?」
「バッカじゃない? ウチらは正義の味方なの。悪に負けを認めるわけないでしょ」
「お姉ちゃんの言う通り。まだまだ戦える。だったら勝てる可能性はゼロじゃない!」
「立っているのがやっとのお前達が、勝てると本気で思っているのか?」
 乾いた笑いを浮かべて、ジョグナーは切っ先を理恵に向けた。
「諦めたらそこで試合終了ですよ。ウチのバスケ部の先生が言ってくれた言葉。ウチはこれを聞いて、諦めなくなったんだから」
 バスケ部の理恵は、元ネタを知らずにこの言葉を顧問の先生に言われて感動した。こんなときに素でボケるな。
「覚悟するのはジョグナーよ」
 未歩は鎌鼬の攻撃。ジョグナーはすでにそこにはいなかった。
「未歩!」
「この程度で俺に勝とうなど、どんな計算をしているのか疑問だ」
「うるさい。勝つって言ったら勝つんだ!」
 理恵は剣を突き出す。
「遅い」
 ジョグナーにサッとかわされ、蹴りをくらう。負けたくない気持ちが、僕の心を揺さぶった。僕の足が一歩前に出た。
「僕は戦うから、飯島さんはここにいて」
「上は大火事、下は」
 理恵は得意のなぞなぞをしたけど、問題を出す前に攻撃を受けた。ジョグナーがなぞなぞに答えるか疑問だけど。未歩は隠れて不意打ちを狙ったけど、理恵がすぐにやられたから、隠れて不意打ち攻撃もできなかった。二人が倒れ続けて、もう動けない状態になった。ジョグナーはとどめを刺そうと二人に近づいてくる。僕は剣を持つ左手を動かして叫んだ。
「心機竜モード。プテラキューレ」
 キューレをプテラノドンに変形させた。ジョグナーは意外なところからの攻撃も、自慢のスピードでかわす。
「まだだ!」
 プテラキューレはそのまま飛び続け、空で回旋した。再びジョグナーに襲いかかった。ジョグナーはまたも予想外だったため、かわすことはできたが、反応速度は鈍かった。
「心機竜モード。ティラノココヤ」
「心機竜モード。トリケラマデニ」
 二人とも立ち上がって心機竜に変形させた。本当に最後の力みたいでその場に倒れこんだ。
 ジョグナーは二人が傷だらけになって、戦闘不能と思っていたため、攻撃をしてくるのは予想できなかった。巨大な機械恐竜は、二頭で挟み撃ちにしたため、ジョグナーはティラノココヤに噛みつかれ、トリケラマデニの角に貫かれた。立ち上がった瞬間に、プテラキューレに下降した勢いでくちばしで突かれて飛んでいき、ビルに激突した。さすがのジョグナーもかなりのダメージを受けたようで、立っているのがやっとだった。ジョグナーの鎧はボロボロになって前に倒れかけ、剣を杖にして僕を睨みつけた。
「少々なめていたようだった。だが次はこうはいかないからな!」
 ジョグナーはジーシャックを連れて消えてた。ピンチを脱して僕達は倒れた二人に近づく。元の姿に戻った二人を見たら傷はたいしたことなくて安心した。
「隼人がこんなに強かったなんて知らなかった」
 由里香は僕の頬にキスをした。それを見て飯島さんは悲しそうな表情を浮かべた。苦々しい表情になる未歩、面白そうと笑う理恵、僕は一瞬何が起きたかわからなかったけど、頬が緩んだのを実感した。
 
    ☆

 作戦会議をするため、みんなでうちに集まった。もちろん僕の手は由里香の胸にくっついたまま。由里香にシャツを着せて、パッと見た感じじゃわかんないようにした。けどよく見たら、シャツの下から手を入れてるのがバレバレな状態。
「今日はお母さん友達と会うって言ってたから、大丈夫だよ」
 鍵を開けようとしたらかかってない。ドアを開けたらお母さんが出てきた。
「おかえりなさい。飯島さんまた来たの。由里香ちゃん久しぶりね。二人ともいらっしゃい」
「お、お母さん!」
「今日は友達と会うって、言ってなかったっけ?」
「ドタキャンされちゃったの」
「みんな僕の部屋こっちだよ」
 とにかくお母さんにバレないようにしないとと思って、慌てて部屋まで走り出した。
「ちゃんと手を洗ってうがいしないとダメでしょ」
「友達が来てるときくらいいいでしょ」
 よりによって手を洗えって、無茶にも程があるんだけど。
「大切な話をするから、お母さんは入ってこないで」
「そんなこと言われたら、聞きたくなっちゃうじゃない」
「飯島さんに野次馬おばさんと思われるよ」
 母さんは飯島さんを気にいったみたいだから、こう言ったら部屋に来ないはず。
「きっと野次馬美人お姉さんの間違いじゃない?」
「自分で美人って付けるなよ。しかもお姉さんって無理があるだろ」
 ツッコミを入れるのも面倒くさい。今はみんなに休んでもらって、僕と由里香をどうするかを考えなきゃダメなのに。
「う~ん。残念。仕方ないわね」
 みんなに遅れて由里香と一緒に遅れて自分の部屋に向かう。僕は階段を上りながら、お母さんはどうして変なことばっかり考えるかなぁって思って部屋のドアを開けた。
「絶対持ってるって。男同士でラブってる漫画」
「お兄ちゃんがそんなの持ってるわけないでしょ」
「お兄ちゃんが戻ってきた。BL漫画の一冊や百冊持ってるよね?」
「持ってねえよ」
 お母さんの変な考えは、理恵に受け継がれてました。オタクはBL好きってどっから生まれた考えなんだ。
「いつの間にそんなに元気になったのよ」
「部屋に置いてるチョコレートを食べてから」
「それ新発売のやつで、まだたべてなかったのに」
 理恵はから箱を僕に見せ、茶色くなった前歯から酷いことを伝えた。
「美味しかったよ」
「別に理恵のために買ったんじゃないんだよ」
「まさかのツンデレだ」
「自分で食べるために買っただけなの!」
「お兄ちゃん。あたしにもツンデレしてよ」
「未歩、めんどくさいよ」
「ツンが適当じゃない?」
「だからツンデレじゃねえよ」
「あたし何しに来たの。コント見に来たわけじゃないけど」
「そうだった。結局二人はどうするの?」
 僕は真剣に考えて、由里香と飯島さんを交互に見つめた。
 僕と由里香は離れられない状態。どっちかの家に帰るにしても、親には秘密にして泊まらなきゃいけない。
「飯島さん。この後由里香と一緒に帰ったことにしてくれないかな。万が一のときは由里香は飯島さんのうちで泊まってることにして」
「うん」
 飯島さんは優しい。きっと嫌だと思うけど、状況を理解して受け入れてくれた。
「ところでお兄ちゃん」
 未歩が冷淡な口調で語り出した。理恵は未歩の雰囲気を和ますために、なぞなぞを出した。
「夏になると十回は食べたくなるのはな~んだ?」
 なぞなぞを無視して、僕をギロリと睨む未歩。
「なぞなぞやんないなんて、つまんない、つまんな~い」
「夏で十だから納豆でしょ」
「正解」
 明るく答えた由里香に、理恵は嬉しそうな笑顔を返した。
「うるさい」
 二人が明るくした空気は、未歩の一言で背筋が凍るように、冷たくなった。理恵と由里香は、思わず背中を伸ばして黙り込んだ。僕の顔を真剣に見つめて、未歩は自分の考えを伝える。
「お兄ちゃんは飯島さんを本当に好きじゃない。さっき由里香ちゃんにキスをされて、嬉しそうな顔になったのがその証拠」
 未歩の言葉に僕は何も言い返せなかった。未歩と議論をしたら負けると思うけど、否定することで、飯島さんへの気持ちを示したかった。そんな心理のときに、由里香は僕に微笑んだ。
「いいじゃん。あたしと付き合ってよ」
 励ます言葉にな口調に、僕は窺うような視線を飯島さんに向けた。飯島さんの目には涙が溜まり、部屋を出て行った。
「もう太田君なんて、嫌い。だから由里香と二人で、一緒にいればいいのよ」
「理恵、未歩出てってくれ」
 僕の気持ちをわかったのか、由里香だけが残った。みんなは出てドアは閉まった。ベッドに横になって、枕に顔を埋めて涙を流した。自分のことを好きだと思っていた飯島さんが、由里香の胸を触ってキスをされたら嫌われた。当たり前のことだな。
 何とも思ってなかった由里香に、気持ちが傾いているつもりはない。
「何でこんなことになっちゃったんだ?」
「前から好きだったの。小学生のときから。でも隼人が香苗と仲良くなってから、胸が締め付けられるようになって、もう我慢できなくなったの。嘘付けないタイプなのわかってるでしょ」
 幼なじみだからわかる。攻めようと思えば攻められるけど、攻めたくなかった。

    ☆

 学校を休んだ僕達は、ジーシャックが再び暴れるのを待っていた。ちなみに昨日の夜は、お腹がすくからすぐに寝て、今朝は学校には行けないものの、家にいて母さんにバレたら困ると思って、朝早くに家を出て、人が来ない公園で水を飲んで腹を膨らました。
 午後、もう放課後の時間。キューレが反応した。
「この反応は、昨日のジーシャックだよ。隼人戦う?」
「あったり前だ! 早くこの状態をなんとかしなきゃ」
 むにゅ。
「気合いを入れたら揉むのは、何とかしてくれない?」
「ごめんなさい」
 由里香に謝ってから、キューレの指示する方へ向かった。こけないために歩いてだったのが、もどかしい。
「お前は何とくっつけようかなぁ」
 飯島さんが巨大な磁石を、向けられていた。
「待て!」
「お前は昨日の変態なんだな。まだおっぱい触ってるなんて、とことん変態なんだな」
「お前のせいだろうが!」
 僕を見付けると、飯島さんから離れ、僕に向かってきた。すでに変身している僕は、由里香の胸を触ったまま、左手で剣を持って構えた。
「そんな状態じゃ戦えないんだな」
「うるせえ」
 僕はジーシャックの攻撃を背中で受けて、由里香もろとも吹き飛ばされた。
「ごめん。大丈夫か?」
「うん」
 僕は戦うことをやめなかった。由里香とは公園で特訓をしていた。僕は正義の味方だから戦わなきゃいけない。みんなを守るのが僕の使命だから。由里香は納得して、僕が想定した動きの練習をしてくれた。
 フェンシングのような構えで剣を握り、ジーシャックとの距離を縮める。剣で突き、すぐに離れるを繰り返す。
 攻撃が決まった。由里香の動きも良い。
 戦っていると、飯島さんの声が聞こえた。
「由里香が可愛そう」
 僕は思わず反論した。
「見て見ぬふりなんてできないでしょ。僕がこんな状態でも、戦えるなら戦わなきゃダメだ」
「女の子を危険にして、みんなを守るなんて無理よ」
「無理なんて言ってたら何もできない。由里香を傷付けずにあいつを倒す」
 僕の気迫に押されて、飯島さんは何か言い返そうと思ったけど、言葉が出なかった。由里香の目に力が入った。
「あたしも一緒に戦う決意してるの。勝手に可愛そうとか決めないでよ」
 由里香は僕の気持ちを受け容れてくれてる。
「前に走って。僕の動きに合わせて、すぐに後ろに戻って」
「うん」
 僕は剣で突いて、すぐに後ろへ下がるというスタイルで、相手の動きをよく見て戦っている。由里香も動きを合わせるのがどんどんうまくなっている。僕も由里香の動きを意識して、あまり難しい動きはしていない。
「あいつを倒さなきゃ、たぶん今のままだから。僕は由里香をもう傷付けないし、ちゃんと離れられるようにする。だから僕を信じて、もうちょっと頑張って」
「うん」
 しばらく同じ攻撃を続けて、由里香の表情に疲労が浮かんできた。僕は明るい声で励まして攻撃を続ける。ジーシャックは僕の剣の動きが速く、少しはよけてるけどよけきれない。由里香も必死に足を動かしている。由里香の足が遅れた。僕は腕を伸ばして、ジーシャックに攻撃を決めた。
「こんな奴相手に必殺技を出すなんてもったいないけど、しょうがないんだな」
 ジーシャックは僕に負けてられないと、SNボールを再び出した。僕の動きをより鈍くさせる作戦だ。僕は自分にS,由里香にNと書かれているのを確認した。
「俺にもっと何かをくっつけて、動きを鈍らせる気か? やれるものならやってみろ」
 僕はシーシャックを挑発した。怒ったジーシャックは、僕に向かって、Sのボールを飛ばした。Nのボールはビルの方に向かっていく。動けなくさせる作戦だ。
「心機竜モード。プテラキューレ」
 僕はタイミングを合わせて、キューレを変形させた。プテラキューレは飛行している。
「SNボールはどんな攻撃でも、壊れないんだな」
 自信満々のシーシャックだったけど、僕の考えは別のところにあった。
「隼人の作戦は別腹。ボールをキャッチするから」
 プテラキューレは、SNボールをくちばしでキャッチして、僕の上空から落とした。僕はNのボールをとり、由里香はSのボールをとった。
 僕と由里香は逆のボールをキャッチすると、SとNの力が中和され、体に浮き出ていたSとNの文字が消えた。僕達は離れることに成功した。
「な、なんて卑怯なことする奴なんだな」
「どっちが卑怯なんだよ。この恨み百倍にして返してやる」