トリケラマデニに襲われるのを覚悟して、ギュッと目をつぶった。だけど全く痛みを感じなかった。瞼を開けると僕の目の前には、理恵がいた。
「何とか間に合った」
理恵は剣を使ってトリケラマデニが向けた角を、上に向けて押さえてる。飯島さんが傘で叩きつけたが、ミシッと鳴った。傘の強度じゃすぐに壊れる。
「早く逃げて!」
理恵はトリケラマデニの攻撃を防いでるけど、こんなの無茶だ!
だが理恵は耐え抜いた。トリケラマデニはケータイの姿に戻って、未歩の手元に行き、再び剣の形になった。
僕はもう自分のために、誰かが犠牲になるのは嫌だ。理恵や飯島さんに助けられることが辛かった。僕は男だ。僕が戦わなくてどうするんだ!
「香苗は俺が守る!」
「ウチは?」
「理恵も守るし、未歩も元に戻す」
具体的な作戦なんてない。ただ勢いで思ったことが口から出た。でも本心だ。本当に死ぬ気で頑張って、絶対に何とかしてやる。
疲弊した顔の飯島さんに、僕は優しい眼差しで、微笑みかけた。飯島さんは頬にしわを作って頷いた。
「だから僕に任せて!」
飯島さんが壊れかけの傘を渡した。受け取った僕は未歩に心の叫びのような視線を向ける。
「なんでだよ? 未歩はこんなことする人間じゃないだろ。元に戻れよ」
熱い気持ちが涙を流した。その声は空しく響き渡った。僕が走って未歩に向かって行くけど、未歩は高く飛んで、僕の肩を蹴っ飛ばして、そのまま飯島さんに近づいていった。
「やめろー!」
僕は間に合わないと思って、傘を未歩に向かって投げつけた。そのままダッシュ。未歩は振り返ってなぎ払い、僕を見つめる。剣をかわしてパンチを繰り出したが、」左手で受け止められた。一瞬のようにも、一分のようにも感じられる視線の交わりは、未歩に僕を倒さないと飯島さんは倒せないと判断させた。僕に向かい加速する足は、人間離れしていて、そこから高く飛んで落下の勢いを利用して剣は振り下ろされた。
「僕は飯島さんを、香苗を守る!」
剣の落下するタイミングと、手で挟むタイミングがピッタリ重なり、剣を挟んだ次の瞬間に両手を右に動かし、未歩は剣に引っ張られ、バランスを崩した。
「未歩。元に戻ってくれ。何で兄妹で殺そうとするだ!」
「ウ……、コロス……。シタクナ……、ミンナ、イヤ……、コロス」
俺の言葉が少しずつ伝わっている。未歩は呟いて、体勢を立て直した。
「隼人はハートレンジャーになるべきだ。強い心を持っている。それがハートレンジャーの最大の武器だ」
ココヤが褒めてくれた。だけど僕には相棒がいない。だったら今できる最善を尽くす。もし死んだって後悔なんてしない。天国に行っても今の選択は間違ってないと自信を持って言える。
未歩は剣をトリケラマデニに変形させた。それでも逃げようとは思わない。未歩が少しずつ元に戻ってきてるんだ。
さっきとは違いもう傘はい。僕は振り返って飯島さんを確認した。僕の選択肢は一つしかない。トリケラマデニが地面を蹴った。
トリケラマデニが僕に向かった刹那、スライディングをして、両足の間に潜り込んだ。すぐに通過したトリケラマデニは、振り向いて睨んできた。
僕の好きなアニメだって、主人公は地球の平和を守るために戦ってたんだ。だったら僕だって同じようにするだけだ。
再び突進するトリケラマデニ。しかし次の瞬間、機械の鳥みたいなものが、トリケラマデニを食い止めた。
「ピンチを助ける、僕は君に命を預ける。なんちゃって」
緊迫感のない軽い声が、冗談めかしてるけど、これも心機なの?
「遅れてメンゴって、マデニが敵って面倒」
「そのつまらないダジャレは、キューレだな」
ココヤが鳥の心機竜を見て呟いた。
「プテラノドン、ドンドンドンドン」
「意味不明すぎてわかんねえよ」
「いかにも、タコにも。ダブル墨で真っ黒けっけ」
「詳しい話しは後だ。隼人のケータイにくっついたんな。隼人ハートレンジャーに変身だ」
「よくわかんないけど、相棒発見、もっちの論でがってん」
僕の黄色いケータイが、心機になっていた。僕がケータイ、いや、相棒のキューレを捕まえると、黄色い光に包まれた。光が消えると理恵達と同様に、黄色いスーツに身を包んだ戦士に変身していた。
「変身完了。悪を睨む眼光、さぁ頑張ろー!」
「キューレ、普通に話せよ」
相棒がつまんないダジャレキャラって、最悪なんだけど。今はそんなことどうでもいい。気持ちを切り替えて戦わなきゃ。
「よくわかんないけど、これならなんとかなるかも」
僕は自分の体を確認して、未歩に立ち向かった。未歩も剣を構え、二本の剣は重なりカキンと鳴って、マスク越しに睨み合う。剣を合わせたまま、僕は腹に膝蹴りを入れた。お腹を押さえて後退する未歩。
「理恵、そろそろ大丈夫か?」
「うん。もう十分休んだよ」
理恵も再び変身して戦おうと近づくと、キューレが叫んだ。
「気付いちゃった。」
「何だよ?」
理恵を変身させて、戦おうとしたココヤは出端をくじかれた。
「今接近したときに見えたよー。ハートブルーの胸の中央と、マデニの束にわずかな黒いものが付いてるよ。あれが原因何じゃない?」
「お前普通に話せるなら、普通に話せよ」
「心機はダジャレを言わなきゃ死んじゃうよー」
「いざとなったら、七つのボールを集めて生き返らせてやるよ」
僕もオタクだけどさ、この状況で普通に話せないってのは何なんだよ。ツッコミを入れた奴も普通に話してねえじゃん。
「確かにあんなのはさっきまでなかったな。問題はどうやって、あそこだけ攻撃するか」
僕が考え出すと、キューレがアドバイスをした。
「ガンモードでいこうよ。俺らがあそこに行こうよ」
「そうだな」
「ちょっと待って。ガンモードって何?」
理恵も初耳みたいだけど、どういうこと?
「理恵は今まで剣で戦ってきて、それだけで倒せたから言わなかったけど、俺達は剣、銃、恐竜の三パターンで戦えるんだ」
「それなら早く言ってよ」
「ただ剣以外の攻撃は、相当な負荷がかかるから、理恵には剣しか教えなかったんだ」
「それってウチを信じてないってことなの?」
「逆だ。理恵は俺に花を持たせようとするだろ。必要なくても、最後にはガンモードでとどめをさす。理恵は何も考えてないように見えて、みんなのことを考えてるからな」
「そうなの。ウチはみんなのハッピーを考えすぎて、夜も眠れずに授業中に寝ちゃうのよ」
理恵が照れ隠しをしてる。珍しいものを見たな。理恵はこういうときに、照れ隠しで言われたことに乗っかる主義だから。
「ガンモード」
理恵と僕の声が重なり、剣から銃に形を変えたココヤとキューレ。狙いを定める僕達にココヤがアドバイスをする。
「狙いはだいたいで良い。俺達自身が飛んで軌道修正する。俺は未歩に行くから、キューレはマデニに行け」
「オッケー、オッケー、コロッケー」
そのダジャレ酷すぎる。狙いはだいたいでいいっていっても、集中できない。
「ガンモードシュート」
ココヤとキューレはステッカーの姿で飛んでいく。赤と黄色のオーラを身にまとい、命中すると思ったら、未歩は高く飛んだ。
「ノンノン。飲んだくれ親父。俺達追い掛けちゃうもんねー」
赤と黄色の輝きは直角に方向転換し、直後に命中。爆発を起こして、未歩は落下した。
「未歩!」
思わず駆け寄った僕は、倒れた未歩の手を握った。
「大丈夫か?」
「ウワーーーーー!」
体を起こすと同時に僕の手を振り払い、頭を抱える未歩。ヨロヨロと歩き出し、悶えながらうめき声を上げた。立ったまましばらく胸を押さえ、かなり辛そうだった。体の中で戦いが終了したことを示すように、未歩の体から、紫色の煙がシュッと出ていった。
「元に……、戻れたの?」
腕を見ながら、半信半疑の声で尋ねる未歩。
「やったー」
明るい理恵の声がこだました。僕と理恵は未歩の元へ集まっていくと、元に戻ったことを実感したみたいだった。
「ホントにごめん」
頭を深く下げたけど、暴力化していたときの記憶はしっかり持ってるみたい。自分のやっていたことを知っているため、申し訳ない気持ちでいっぱいな感情が、声に表れている。
理恵はマスクを外して、未歩にも外すように促した。
「未歩。笑って、笑って。悪いのは敵なんだから。ハッピーのために一緒に戦おう!」
理恵は笑顔を作った。いつもニコニコしていて、ハッピーが口癖の理恵はこういうときに、空気を明るくしてくれる。でもマスクを外した未歩は、笑顔を作れずに俯いていた。
「もう。笑わないと許さないんだから!」
理恵は両手で未歩の頬を握って、無理矢理しわを作った。
「笑顔は幸せを呼ぶから、いつも笑顔でいよ」
「僕の盾になってすまなかった。僕が非難してればこんなことにはならなかったのに。ごめん」
「お兄ちゃん、謝らないで。お兄ちゃんのためなら何でもできるんだから」
「ウチは?」
「お姉ちゃんは別かな?」
僕達は笑った。さっきまで戦っていたのが嘘みたいに、楽しい雰囲気に包まれた。
「二人とも許してくれるの?」
「くどいよ。当たり前なこと訊かないでよ」
飯島さんが僕達の方へ来た。
「未歩ちゃん、元に戻って良かった」
「お兄ちゃんを守ってくれてありがとうございます。でもお兄ちゃんはあたしのです」
未歩は人差し指を飯島さんに向けて、恋の宣戦布告をした。僕はどうするべき何だ?
そんなことを考えてたら、ライボーが現れ、怒りを爆発していた。
「俺の操り人形を台無しにしてくれたな」
「誰が操り人形よ」
未歩はライボーを射殺するような鋭さで睨みつけた。
「よくも私に大切なみんな、特にお兄ちゃんに暴力を振るわせたわね。この恨みは無限倍にして返すんだから!」
目が怖すぎる。無限なんだから倍にしても限界だろ。
僕達はマスクを被って、一歩前に出た。
「笑顔でハッピーがウチ流、ハートレッド」
「冷静な判断があたし流、ハートブルー」
「熱い気持ちが僕流、ハートイエロー」
「人と機械の心を守る。心機戦隊ハートレンジャー」
三人同時にライボーに向かっていく。ライボーは暴力弾を放つけど、銃弾のスピードが手に取るように見える。
理恵が銃弾を剣で叩ききってたけど、体力だけじゃなくて、五感もパワーアップするのか。僕は暴力弾を素早い動きでかわしていく。
「飯島さんを傷付けたことを後悔させてやる!」
僕はものすごい速さで剣を振るい、ライボーは最初はかわしたけど、対応できなくて斬られる。
「どいて~」
後ろでは仲直りした姉妹が、コンビネーション攻撃を始めた。走ってくる理恵がジャンプをして、未歩の手でさらに高く飛んだ勢いを利用して、思いっきり斬りつけた。
「これは未歩のぶん」
続いて剣をお腹に突き刺した。
「これは飯島さんのぶん」
ライボーが動けなくなったところで、回転して斬りつけた。
「これはお兄ちゃんのぶん
最後に何回も斬り続けた。一番大きな声で理恵は叫んだ。
「これはウチのぶん。みんなの痛みを感じなさい」
自分のときだけいっぱい攻撃してるよ。理恵らしくて、良いんだけど。
なんとか立っていたライボーも、また暴力弾を放つ動きをした。
「くらえ暴力弾」
しかし何も起こらなかった。理恵が何度も攻撃したときに、ライボーが持っていた銃は斬られていた。
「理恵ナイス」
「も、もちろんこれを防ぐために、銃も攻撃したんだよ。たまたま剣が銃にあたったから、ラッキーって思ってないよ」
あ、あの攻撃は偶然だったんだ。
「未歩、次ヨロシク!」
すごい優勢なのに、一歩下がったよ。この格好悪い感じはなんだろ。負けたわけじゃないから良いけどさ。
未歩は剣を振るい、真空の衝撃波をいくつも作って攻撃をした。ライボーは傷だらけになった。僕達は一列に並びとどめをさす。
「三人ともガンモードにするんだ。三っつを合体させると心機バズーカになるんだ」
ココヤの言葉でガンモードに代えて、さらに組み合わせて、心機バズーカになった。。
「ファイナル心機アタック」
ココヤ、マデニ、キューレの三人は、ガンモードのときよりも、巨大なビームになって飛んでいく。ライボーに命中して、大爆発を起こした。
「やったー」
元の姿に戻った僕達の方に、飯島さんが来て両手を挙げて喜んだ。だけど理恵はニヤニヤした顔で、僕の方を向いた。
「飯島さんとは付き合ってるの?」
「なっ!」
僕は顔を赤くして呟く。
「まだ……」
理恵は僕をからかい続ける中、未歩は態度を急変させた。
「お兄ちゃんを好きなら、徹底的に邪魔するからね」
「なっ!」
未歩の言葉に僕はさっきよりも驚いた。たぶん飯島さんも僕を好きだと思ってくれてる。だけどそれを堂々と本人を前にして、邪魔するって言うか、普通。
「じゃ、邪魔するな」
無意識に心で思った言葉が、口から出て響いていた。えっと自分で言ったつもりはなかったのに。三人の視線が僕に集中した。
「お前達がライボーを倒したのか」
声がした方には、全身を鎧に包んだ若くてハンサムな男性の戦士がいた。
「俺の名はジョグナー。我々ダガーゴ帝国に対向する力を持っている者がいるとはな。次に会ったときは命はないと思え」
鎧に身を包んだ戦士は、手から光線を放った。三人とも変身して、僕は飯島さんの前に立った。
「大丈夫か?」
多少の痛みはあるものの、飯島さんに尋ねた。爆風で倒れた飯島さんの手を引いて、立ち上がらせた。
「うん」
理恵は攻撃するけど、かわされ続けた。ジョグナーは意味ありげなことを漏らす。
「こちらにも事情がある。今すぐ殺しはしない」
鋭い目で僕の方を睨んだ。飯島さんはビクッと震えた。
ジョグナーは蹴りをきめた。理恵は倒れたけどすぐに立ち上がり、戦おうとする。だがジョグナーの姿は消えていた。