随分とお久しぶりになってしまいました。少数派漫画批評です。


今回はちばてつや先生作の『テレビ天使』です。


なんとも奇妙なタイトルで、子供の頃、タイトルに惹かれて本屋で見つけた時は、読み違いじゃないかと


何度も確認した記憶があります。






主人公は小学5年生の早坂亜希子。大女優早坂美保子の一人娘で、白亜の豪邸というかお城のような


家に住んでいるおっとりとしたお嬢様なのですが、母親はストーリーが始まってすぐに自殺してしまいます。


亜希子にとってはあまり遊んでもらえなかったけど優しい存在だったので、母親に先に死なれても


全く怨むことがないのですが、美保子の自殺は無責任すぎていまだに納得出来ません。


なにせマネージャーの岡野が映画の資本金のためとかで、自宅は差し押さえられ財産はゼロ。


おかげで親類一同誰も引き取ってくれず、泣きながら一人火葬場へ行く場面の亜希子は哀れです。




仕方なく美保子の遺書に書かれてある「-千住のおじいさんのところへ行きなさい-」の言葉にしたがい


千住の棟割り長屋に住んでいるおじいさんの所へ行くのですが、この「おじいさん」というのが


亜希子にとってどんな関係なのかは、作品中一切明らかにされていないのです。


美保子の父親?と思ってしまいますが、おじいさんは亜希子の事を最後まで「孫」とは言っていません。


はっきりしているのは幼い頃の美保子とその妹を育てたという事だけ。今もって謎すぎる関係です。




お巡りさんに案内されて一人大きな旅行トランクと美保子の骨壷をもって千住へ行くと、


場違いな亜希子は長屋の住民達の好奇の的となります。


おじいさんは紙芝居で生計をたてているのですが、酒で酔っ払って暴れた状態で亜希子を追い返そうとします。


が、亜希子に荷物を持たせて外へ出たかと思うと、近所の公園で穴掘りをはじめ、亜希子から乱暴に


美保子の骨壷を奪い穴の中へ放り込みます。それまで大人しかった亜希子はさすがに怒りおじいさんに


くってかかるのですが、実はおじいさんは美保子のお墓を建てた訳でした。


その後、お酒を飲みながら泣いているおじいさんを見た亜希子は、翌朝、おじいさんのために初めて料理をし


失敗作ながらもお互い食べる場面がなんとも笑えます。おかげで二人のわだかまりは溶けたのか


おじいさんは亜希子を引き取る事を決め、学校へ通わせてくれます。ただし、相変わらず頑固で乱暴ですが。




おっとりした私立のお嬢様育ちで成績優秀な亜希子は、下町の小学校の女子からは睨まれ


5日後に発表の学芸会の主役を無理矢理押し付けられます。最初は何度も失敗しながらも


練習をするうちに役にのめり込んでいく亜希子は人が変わったようになります。


それが気に入らないのかおじいさんは亜希子に用を押し付け言い争いになりますが、逆に


そんなにお芝居がしたいのならと、亜希子に演技指導をするのですが、これがまあスパルタなのです。


長屋の住民はそんな二人が気になって気になってしょうがありません。


おじいさんのスパルタというより虐待に近い演技指導で(痣だらけ.....)母親ゆずりの役者根性に


火がついたのか更にお芝居にのめり込み学芸会は大成功となりますが、学芸会が終わり


この時点でおそらく小学6年になるのですが、亜希子は抜け殻のような気分におちいります。


そんな亜希子の前に現れたのが富士プロという芸能プロダクションの主宰の篠田という男。


学芸会での亜希子の演技を見てスカウトに来たのですが、察しの良い方は分かると思いますが


篠田は亜希子の父親なのです。


丁度その頃、おじいさんは脳卒中で倒れ一命はとりとめるのですが、おじいさんの看護をしたり


おじいさんの変わりに紙芝居をしている亜希子を心配したおじいさんは篠田に頼んで亜希子を


引き取ってもらいます。この時も頑固なおじいさんは一人涙を流すのです。




父親の篠田の元で演技のレッスンにはげむ訳ですが、朝からパントマイム・発声・バレエとみっちり。


これから先ストーリーの最後まで学校へ全く通いません! 小学生なのにいいんでしょうか?(よくない!)


この時に美保子のマネージャーだった岡野が篠田の命で今度は亜希子のマネージャーになります。


3ヶ月のレッスンの後、ミュージカル『エラ』の主役オーディションを亜希子は受けることになるのですが


オーディションの会場に突然おじいさんが現れます。実はおじいさんは篠田に亜希子が女優にならないようにと


頼んで引き取ってもらったのに話しが違う事を知り怒って現れたのですが、追い返されてしまいます。


ミュージカル『エラ』の主役はライバルの日野マリと亜希子のダブルキャストに決定します。


この時に亜希子の芸名は美星ナナ(多分そんな名前だった気がします...;)となり、雑誌の撮影やら


歌手活動やらと一気にマネージャー岡野の売り込みがはじまります。


その頃おじいさんは「亜希子」の匂いのする長屋に住んでいたくないと言い残し長屋を出て


美保子の墓のある公園に住むことになります。


岡野の急激な売り込みスケジュールに忙殺されていた亜希子は長屋の皆からその事実を知り


心配しておじいさんに逢いにいきます。


そして、おじいさんとお墓の前で、それまでなんとなく人のいわれるままに生きてきた亜希子は、


自分の意思で改めて母親のような女優になる事を誓います。




アクシデントがありながらもミュージカル『エラ』は大成功をおさめ、「美星ナナ」は一気にスターとなります。


おじいさんと長屋の皆には忙しくて逢えませんが、生活費やプレゼントを亜希子はおじいさんに送り


充実した日々を過ごします。(学校はいいのか?!)


しかし、それまで亜希子にべったりだった岡野が別行動をするようになり、父親の篠田に大勢のお客が


押し問答をしていたりと自宅内も不穏な空気になります。


ここでまたもやおじいさんの病状が悪化した事を亜希子は知るのですが、同時に、岡野が篠田の


芸能プロからほとんどのタレントを引き抜いて、新しい芸能プロを立ち上げる事を知ります。


映画の撮影がこの後控えていた亜希子は、とうとう、おじいさんの死に目に逢えませんでした...。


失踪していた父親の篠田も潜伏先で死んでしまい、亜希子は天涯孤独の身となります。


おじいさんは死の直前まで書き物をしていましたが、それは『テレビ天使』というタイトルのシナリオでした。


冒頭に「可愛い女優 早坂亜希子」と書き残して。




長屋で一人、『テレビ天使』のシナリオを読んで過ごす亜希子の前に岡野が現れ、富士プロの営業権を


まかせ、自分のプロダクションに所属するよう亜希子を誘いますが、岡野の悪事を知ったタレント達が


契約を破棄し、亜希子に富士プロの社長になるようにと励まします。(あの小学生ですけど?)


亜希子が社長となり富士プロは持ち直しますが、ミュージカル『エラ』の演出家に、『テレビ天使』の


シナリオを読んでもらい、おじいさんが昔、俳優、演出、脚本をしていた演劇界の大先輩だった事実を知ります。


『テレビ天使』の内容に感心した演出家に亜希子は自分が出演して演出してもらうよう頼み、


また女優として生きていくことを決心します。そんな亜希子を長屋の皆は温かく見守る場面で終わります。












後になって知りましたが、この『テレビ天使』は『あしたのジョー』を執筆している時に描かれた作品です。


下町の住民がこれでもかってくらい作中に出てくるのが理解出来ます。


あまり知られていないこの作品ですが、槇村さとるが初期の『クリスタル・レイン』という作品で、『エラ』を


上演している劇場のイラストをそっくり真似ているのです。これは本人のエッセイで明らかにしていますが


他にもライバルの日野マリが水の中でのパントマイムをしているシーンも同作品で描いています。


これは自己申告していませんが、いいのかなあ。まあ、気が付いているのって私くらいかもしれませんが笑。






他にもこの『テレビ天使』から影響をうけている漫画がある気がするんですね。あくまでも、推測ですけど。


主人公の亜希子は髪を上の方でリボンで二つに結わいていますが、移動の時は常にトランクを持ち歩いて


いるのが特徴なのです。思い返すだけでも4,5種類のトランクケースを持って歩いたり走ったりと。


30代から40代の女性ならほら思い当たりませんか?


リボンで髪を二つに結わいた少女がよく持ち歩くバスケット(トランク)に憧れたことってありませんか?


その少女はキャ○ディ・キャン○ィでは?