「コンクリート・ユートピア」 | 紫亭京太郎のアメーバ・ブログ

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面白き ことばかりの世と 面白く 住みなすものは 心なりけり。

未曾有の大災害に壊滅状態となった団地群の中で、奇跡的に一棟だけ残ったアパート。
近接の富裕層が暮らしていたアパートも崩壊して、生き残った住民達がやってきた。エントリーは避難者で溢れ、一部の住民は自分の部屋に招き入れたりしていたが、ライフラインが全壊して復旧のメドもつかない状況で、食糧も底をつきかけてくると、アパートの住民と避難者とのトラブルが起き始めた。
増える一方のトラブルを解決するべく住民達は集まると、物事を進めるためには代表者が必要と、キム・ヨンタク(イ・ビョンホン)という男を住民代表に選ぶ。ある騒動を身を挺して収めた勇気を讃えられ、代表者となったヨンタクだったが、住民投票で避難者達を追い出すことに決すると、怒りに暴徒化した避難者達を再び体を張って追い出し、リーダーの地位を確固たるものにするのだった…

生存をかけた、歪んで荒んだ人間模様。本能がむき出しになり、自分達だけが生き残ればよいとするエゴが住民達の心を支配し、自分達だけの“正義”が確立されていく様子が、ユーモラスな空気感の消失と共に描かれていて、恐怖感と醜さが増していく。
独裁者の様相を呈してくるリーダーに、徐々に傾倒していく夫を心配すると共にリーダーへの不信感を募らせる妻の、一組の若夫婦がたどり着く先には、切なくも人間というものへの希望を抱かせるディザスター・ヒューマンドラマ。

いきなり大きく地面が隆起する描写には現実味を感じていなかったが、今般の能登半島での大地震における海底の上昇や、そこかしこで生じた道路の隆起をニュースで見て、あながち絵空事でもないことに愕然とした。
日本でも、この描写ほどの大災害が起きれば、アパートの住民達のようなことは起きるかもしれない。“火事場泥棒”なニュースも出る中、他人事とは思えない怖さも込み上げてくる。

2023年/韓国
監督:オム・テファ
出演:イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン、キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユン