「夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年」 | 紫亭京太郎のアメーバ・ブログ

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名古屋で映画を観るにあたって、行ったことのない劇場を検索。スケジュール的に丁度よかった、「名古屋シネマテーク」で上映の「夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年」🎦
呉秀三という、近代精神科医の魁となった、精神障害者の人権について日本で最初に(と言っていいはず)思いを馳せた偉人の足跡を追い、精神病治療のあり方を問いかけるドキュメンタリー作品。学術映画の趣が濃いところもあったが、予想通り興味深い内容で大満足照れ

「私宅監置」という言葉を初めて知ったが、精神障害者を自宅に監禁することが国によって認められ、いわゆる“座敷牢”のことを「私宅」における「監置室」と定義付けられていたことに驚いたびっくり
そしてこの「私宅監置室」の実態を、呉秀三は全国各地を回って調査し、「精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察」にまとめているが、事例の中には、老親が暴れる息子をどうすることもできずに座敷牢に閉じ込めるケースも記載されている。この頃と比較すれば、今の治療法は大いに進歩したと言えるが、一方で現代においともなお、精神的に病んだ家族を自宅に監禁し続けるという事件が起きている。精神疾患は「恥ずかしいこと」という意識も根強いものがあるかもしれないが、精神に異常をきたした家族をどうしていいか分からず、またどうしようもなく途方に暮れる家族の姿がそこにはある。

また、現代も呉秀三が生きた頃と同様に、拘束用の器具が使われているともいう。「精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察」は、近代精神病治療の“夜明け前”に著されたもののはずかもしれないが、西欧諸国に比べても、その治療実態は決して“夜が明けた”とは言えないのではないだろうか。
票に結びつかないこの実態に対して、医師会や国会議員が問題提起して改善が進むことも期待できないだろう。今なお“夜明け前”だ。いやそれどころか、一体いつ“夜が明ける”のだろう。

2018年/日本  監督:今井友樹
ナレーション:竹下景子