花宴3 桜宴の翌日、昨夜の女性の素性を知りたがる | 桑の実ブログ

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2024年今年もよろしくお願いします

 

次の日も紫宸殿で宴があって光源氏の君はいそがしくお過ごしにな

 

られました

雅楽で爭(そう、琴に似ている、柱(じ)と呼ばれる可動式の支柱

 

を動かす、奈良時代に唐から伝えられ、広く知られているのは13

 

弦)を担当していました

昨日の宴より優美で趣きが感じられました

中宮(父親桐壺帝の皇后、藤壺、義母)は暁(早朝)に紫宸殿に参

 

上なさいました

「有明の君(朧月夜の君、きのう契った弘徽殿の女)はもう退出し

 

てしまったのか」と心も上の空で、何事につけても手抜かりのない

 

家来藤原惟光や源良清(播磨守の息子)らに命じて見張りをさせて

 

いたところ、桐壺帝の御前を下がったのを見計らって報告してきま

 

した

「たった今、北の陣から、物陰に隠れていたお車(牛車)が出てき

 

て大内裏から退出なさいました

ほうぼうの実家の方々がございました中、四位少将や右中弁(右大

 

臣の息子たち)が急いで出てきましたので弘徽殿方のご退出であろ

 

うと拝見いたしました

ご立派な方がご乗車なされているご様子を外からうかがえました

 

車は3台ほどでございました」

源氏の君はその報告を聞いて胸がどきりとしました

「どのようにして朧月夜の君と確かめようか

父親の右大臣が聞き知って大げさに扱われるのも嫌だし、それにま

 

だ相手が誰だかも知らないのだから東宮(皇太子、異母兄)の婚約

 

者だったらやっかいなことになるだろうし

さりとてこのまま放っておくのも残念なことだし、どうしたらよい

 

ものか」とぼんやりと横になって考えていらっしゃいました

「姫君(自邸の二条院にいる若紫)は寂しがっておいでだろう

何日も会っていないのだからふさぎこんでいるかもしれない」とお

 

思いになる

あの交換した扇は桜襲(さくらがさね)だった

 

桜色の濃い和紙に霞んだ月が描かれてその下の水の流れに反射して

 

いるよくある図柄だが使い馴らされた跡が残っていた

「草の原をば、、、」と歌を詠んだことが気にかかりました

今までに味わったことのない気がする

有明の月(の君)の行方を途中で見失ってしまって


と紙に書いてじっと眺めなさいました

 

 

 

その日(ひ)は後宴(ごえん)のことありて、まぎれ暮(く)らし

 

たまひつ。

箏(さう)の琴(こと)仕(つか)うまつりたまふ。

昨日(きのふ)のことよりも、なまめかしうおもしろし。

藤壺(ふぢつぼ)は、暁(あかつき)に参(ま)う上(のぼ)りた

 

まひにけり。

「かの有明(ありあけ)、出(い)でやしぬらむ」と、心(ここ

 

ろ)もそらにて、思(おも)ひ至(いた)らぬ隈(くま)なき良清

 

(よしきよ)、惟光(これみつ)をつけて、うかがはせたまひけれ

 

ば、御前(おまへ)よりまかでたまひけるほどに、

「ただ今(いま)、北(きた)の陣(ぢん)より、かねてより隠

 

(かく)れ立(た)ちてはべりつる車(くるま)どもまかり出

 

(い)づる。

御方々(おむかたがた)の里人(さとびと)はべりつるなかに、四

 

位(しゐ)の少将(せうしゃう)、右中弁(うちうべん)など、

急(いそ)ぎ出(い)でて、送(おく)りしはべりつるや、弘徽殿

 

(こうきでん)の御(おむ)あかれならむと見(み)たまへつる。

けしうはあらぬけはひどもしるくて、車(くるま)三(み)つばか

 

りはべりつ」と聞(き)こゆるにも、胸(むね)うちつぶれたま

 

ふ。

「いかにして、いづれと知(し)らむ。

父大臣(ちちおとど)など聞(き)きて、ことごとしうもてなさむ

 

も、いかにぞや。

 

まだ、人(ひと)のありさまよく見(み)さだめぬほどは、わづら

 

はしかるべし。

 

さりとて、知(し)らであらむ、はた、いと口惜(くちを)しかる

 

べければ、いかにせまし」と、思(おぼ)しわづらひて、つくづく

 

とながめ臥(ふ)したまへり。

「姫君(ひめぎみ)、いかにつれづれならむ。

日(ひ)ごろになれば、屈(く)してやあらむ」と、らうたく思

 

(おぼ)しやる。

かのしるしの扇(あふぎ)は、桜襲(さくらがさ)ねにて、濃

 

(こ)きかたにかすめる月(つき)を描(か)きて、水(みづ)に

 

うつしたる心(こころ)ばへ、目(め)馴(な)れたれど、ゆゑな

 

つかしうもてならしたり。

「草(くさ)の原(はら)をば」と言(い)ひしさまのみ、心(こ

 

ころ)にかかりたまへば、

世(よ)に知(し)らぬ 心地(ここち)こそすれ

 

有明(ありあけ)の

 

月(つき)のゆくへを 空(そら)にまがへて

と書(か)きつけたまひて、置(お)きたまへり。


続く

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